小出監督に導かれた五輪の舞台へ再び…高橋昌彦『2020TOKYO鈴木亜由子強化計画』ステージ2の誤算

東海テレビ
09.03(木)08:18

 今年1月に東海テレビが放送した、世界への約束2020「マラソンランナー鈴木亜由子~出会いのチカラ~」。

 愛知県豊橋市出身の陸上・鈴木亜由子選手(日本郵政G女子陸上部)が女子マラソンで東京五輪日本代表を射止めるまでを追ったスポーツドキュメンタリーだ。

 指導する高橋昌彦監督の育成プラン「2020TOKYO鈴木亜由子強化計画」によってマラソンランナーとして成長していった鈴木。東京五輪での活躍を誓い番組は終わった。

 しかしその後、新型コロナウイルスが世界的に流行…。物語の続きは思わぬ方向へと展開して行く。

 あらためて鈴木亜由子はどんな思いで東京五輪を目指してきたのかを振り返ると共に、想定外の物語の続きを連載企画としてお送りする。

<2>絶対に、この舞台に再び立ちたい

 2014年春、日本郵政に入社した時の鈴木は足に痛みを抱えていた。大学4年のシーズンに頑張りすぎたせいもあるが、冬場になると足の調子が悪くなる事が多かった。

高橋監督:
「入って来たときは、走れないというか、今で言うと走らない状況。当時、痛いって言われると本人の事を信じますから、ちょっと違和感があると言って、なかなか走ろうとしない。非常に慎重な選手だなと」

 高橋は慎重な鈴木の性格を理解し、長期的なプランでの成長を促すことにした。

 強化プランステージ1、入社1年目のテーマは「怪我の克服と土台作り」だった。

 土台作りの第一歩は、距離を踏むことだった。スピードは求めない。ゆっくりと起伏のあるクロカンコースで走り込みを行う。

 入社1年目の夏には米国コロラド州ボルダーに連れて行く。標高2600mの場所で、1ケ月に及ぶ高地トレーニング。心肺機能を高めるのにも適した大自然のクロスカントリーコースは、長距離選手の走り込みに最適な地だ。

 鈴木にとって人生で初めて行う本格的な高地トレーニング。実業団ならではの恵まれた環境、スタッフの献身的なサポートもあり、鈴木は飛躍的な成長を見せる。

 この高橋昌彦流とも言っていいボルダーでの育成計画。その礎には、ある名監督からの教えが活かされている。

■出会いのチカラ、そして出会いの地から…

 高橋昌彦監督は新潟県出身。

 中学はバスケットボール部に所属。陸上を始めたのは高校時代だった。大学は日本体育大学に進み箱根駅伝を目指した。だが、箱根のメンバーには一度も選ばれること無く悔しさが残った。

 大学を卒業して一度は中学の体育教師の職に就くが、たったの3年で辞めてしまう。トライアスロンとの出会いが人生を変えた。

高橋監督:
「当時、箱根メンバーはスポーツメーカーから靴とかもらえたんですけどそれが羨ましくて…。そしたらトライアスロンやるってことで、靴もウェアも自転車も用意してくれてそれが嬉しくて。今しかないと」

 プロのトライアスリートとして6年間活動。ボルダーとの出会いはその頃、トライアスロンの合宿地として訪れたのがきっかけだった。

 美しい自然に囲まれたボルダーを気に入った高橋は、ボルダーへの移住を決意。妻・陽子さんと共に選手引退後には、日本人向けの合宿所の運営を始めた。そんな時、運命の出会いが訪れる。

 日体大の後輩でもあるマラソンランナーの有森裕子選手が、所属先の小出義雄監督と共にやって来たのだ。

 小出監督の指導を間近で見られるという幸運に恵まれた高橋。気が付けば、その気さくで優しい人間性の虜になっていた。

高橋監督:
「実業団の指導者を目指そうと思ったのは小出監督に出会ってからですね。私には陸上の競技者としての実績は無いし、普通に考えたら実業団の監督になんか慣れる訳ない」

 小出義雄監督の様な指導者を目指したい…。

高橋監督:
「お金はいらないから、車の運転手でも飲み相手でも何でもいいから、教えて欲しい。思いを手紙に書いて何度も送りましたね、勝手にね」

 熱意に打たれた小出監督は、高橋を契約コーチとして受け入れる。そして、2000年シドニー五輪女子マラソンで高橋尚子選手が金メダルを獲得した時も、スタッフの一員として立ち会うことが出来たのだ。

高橋監督:
「小出監督とQちゃんに連れて行ってもらって。シドニーのオリンピックの舞台見た時に、これが五輪かって。絶対にこの舞台にまた立ちたいって思いましたね」

 ボルダー…。出会いの地から夢が始まった。

■世界と勝負出来る可能性

 入社2年目の2015年8月、鈴木は北京で開催された世界選手権5000mの日本代表に選ばれる。

 決勝では自己ベストの15分08秒29、入賞の8位まであと一歩に迫る9位という成績を収め、大舞台に強い姿を見せた。ポテンシャルは高い…。高橋の期待は一層高まった。

 一方で、課題もはっきりとした。ラストのスプリント勝負で競り負けたのだ。

高橋監督:
「私も鈴木も世界は努力さえすれば手の届くところまで来るという可能性はあるなと…。入社してからの2年間は、手探りで練習メニューを調整して来ましたが、今後、彼女が更に大きく飛躍する為にはもうワンランク高いレベルの練習が必要になってくる」

■諸刃の剣

「2020TOKYO鈴木亜由子強化計画」。

 土台作りと割り切り、スピード練習は封印したステージ1。

 続くステージ2は、リオデジャネイロ五輪は出場ではなく、トラックでの入賞に目標設定を設定し「スピード強化」をテーマに掲げた。

 4年前、リオ五輪イヤーの元旦。鈴木(24)は合宿地の鹿児島県徳之島で2016年の新年を迎えた。

 本番まで残りの期間は7ケ月。残りの期間でより厳しい練習に挑む覚悟を決めていた。

鈴木選手:
「スピード練習をするとケガのリスクも増えるんですけど、そこを乗り越えて自分の体に新しい刺激を入れることでスピードにも反応できると思うので、そこは監督と相談しながら自分の体を追い込む練習が今年は出来たらいいなと思います」

 中学2年で800mと1500mの全国チャンピオンに輝いた。スタートと同時に先頭に立ち、そのままどんどん引き離す。中学の頃は、勝つのが当たり前だった。

 だが、当時の鈴木は、常に勝たなければならないというプレッシャーとも戦っていた。

 高校生となり1年生にもかかわらず、本気でインターハイ優勝を狙っていた。中学の時は部活のバスケと陸上の二足の草鞋だったが、陸上一本に絞った。

 それまで履いたことのなかったスパイクも着用。練習でもスピード強化に努めた。

 インターハイ予選の東海大会1500m決勝では、1年生にもかかわらず東海高校新記録をマークする。だが、その試合で足を痛めてしまう…。

 結果、高校時代3年間で手にした最高成績は、高3でのインターハイ3000m・8位入賞だった。

 長距離種目でスピードを求める事は、脚への負担が大きい。だが、世界と戦う為には避けては通れない。

 2016年春、社会人になってから初めてスピード強化に取り組む姿が、桜舞う練習トラックにあった。封印してきたバネが解放された瞬間、高橋も思わず「やっぱり、大したものだ…」とつぶやく。

 迎えた6月の五輪最終選考会。取り組んで来たスピード強化は実を結ぶ。1万mと5000mの2種目で日本代表の切符を手にしたのだ。

■強化計画の誤算

「五倫の舞台で世界と勝負したい!」

 ボルダーでの最終調整でもスピードに磨きをかけた。だが、気負い過ぎたのかもしれない。

 ここまで順調に来ていた強化計画の歯車が狂う。リスクは覚悟の上だったが、本番の1ケ月前に左足を痛めてしまう…。

高橋監督:
「春先の状況から五輪で入賞を目指そうというところになって、スピード強化も入れようとやったんですが、それがマイナスにでたんですかね…。欲張った分があるかもしれないです。こういう時は怖いなと身をもって感じました」

 1万mは無念の棄権。だが、日本代表に選ばれたのに何もせず帰る訳にはいかない。5000m予選は、思うように動かない脚に顔を歪めながらもゴールまでは走り切った。

 予選敗退…。入賞も夢では無かった舞台は、あっけなくその幕を閉じた。

「五輪のトラックを走っていた時の記憶は、今でもほとんど思い出せない」と鈴木は言う。

鈴木選手:
「みんながここを目指してやってきたという舞台で、どの競技を見てもみんなベストパフォーマンス出してくるし、その中で自分は満足に戦えない状態で立っていると、なんかもう自分だけが取り残されたというか、そこにいないみたいな。景色が霞ましたね。本当に景色が霞むんですよ」

 初めての五輪…。4年後の東京五輪では、同じ失敗は絶対に繰り返したくはない。

「2020TOKYO鈴木亜由子強化計画」は岐路に立たされた。

<3>へ続く

<1>高橋昌彦監督との出会い「マラソンは我慢スポーツ」
<3>「俺は金メダルとりたいんだ!」
<4>「心身の土台」とは
<5>計画通りには行かない



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