
開発のきっかけは認知症の祖父 インソール型GPSで「介護DX」高齢者の安全を足元から見守る

高齢者の転倒や徘徊といったリスクを、足元から見守る新しい取り組みがあります。靴の中に入れるだけで、現在地を知らせることができる「見守りインソール型デバイス」を通して、離れて暮らす人の安心を支える愛知県の企業を取材しました。

愛知県一宮市にある「iru」は、認知症などで徘徊による事故を防止するため、インソール型GPSデバイス「みまもりイル!」を開発しました。
完成したばかりの製品を見せてもらうと――
靴の中に入れるだけで、格納されたGPSや角速度センサーが5分間隔で利用者の位置や運動データを計測。専用のアプリを通して、家族や介護者が利用者の現在地を確認できる仕組みです。
「イル」の代表、山本裕晃さんが2年半かけて製作。
きっかけは、認知症を患った祖父の存在でした。
「2020年の終わりごろに祖父が認知症になり、2021年の頭ぐらいに前職を辞めて実家に戻ってきたときに介護に携わりました。私自身はそんなに長い時間関わったわけではないが、母や叔父・叔母が近くに住んで介護をずっと続けていて。(介護を続けるにつれ)家族がどんどんやつれて、疲弊して行く姿を見ていたので、介護や見守りは専用のサービスに任せて、『介護する人とされる人』ではなく、本来の親子関係でいられる時間を長くとれたらいいなと思い、サービスを考えました」(イル 代表取締役 山本裕晃さん)
なぜインソール型に?

インソール型デバイスにした理由について――
「GPSの搭載されたスマートフォンやお守りを持たせても、高齢者の中には物忘れが激しくなって、そもそも持って行かない人がいる。(GPSが搭載された)専用の靴を用意しても、いつもの靴じゃないから『これは自分のじゃない』と履かない人もいる。なので、いつもの靴に入れられて、普段から身につけるものと一体化できるというコンセプトで、男女差なく身に付けるものを探してインソール型になりました」(山本さん)
開発当初、物づくりの経験がなかった山本さんは、IOT機器の開発に苦戦したと言います。
「私自身ものづくりの経験がなかったので、IOT機器をどうやって作ったらいいのか分からなかった。でも世の中に(IOT機器は)沢山あるし、自分で勉強すればできるだろうと勉強をしてみたが、思ったより難しくて。基盤を小型化したいのに、自分で作ったものは大きすぎて『(インソールに)これは入らないな』と。そこから色々調べていって、トヨタ自動車の“ものづくり支援サービス”のチームの方に支援をいただいて、基盤の大元の形まで作ることができました」(山本さん)
改良を重ねて現在の形に

基盤の小型化に成功したあとも、実際にインソールの中に入れることは難しかったそう。
「いま世の中に販売されているインソールの中で、(IOT機器の)基盤が入っているものはあまりなくて。インソールの形で、靴の中に入れても違和感がないもので、 GPSが動作するような形状を探していくのが本当に難しかったです」(山本さん)
最初は名古屋産業振興公社の実証実験プログラムの中で、改良を重ねていたという山本さん。現在のインソールの形になったのは、今年に入ってからだと言います。
「今年に入って、大阪の靴メーカーさんに形状のアドバイスをもらいました。技師装具士の先生と整形外科の先生に顧問に入っていただいて。そこから一気に形状のアップグレードがかかり、現在の形までブラッシュアップしていきました」(山本さん)
「必要な人に必要なサービスを届けたい」
「みまもりイル!」の専用アプリには自宅や喫茶店など、利用者がよく行く場所を登録できる「みまもりスポット」や、普段の行動範囲を登録できる「みまもりエリア」の2つの機能があります。
外出や帰宅を自動で通知したり、バスの乗り過ごしや、遠出したときもPUSH通知で確認することが可能です。
現在商品は12月の予約販売を受け付けていて、自治体などと連携した実証実験も進められていると言います。
「高齢者が日常生活で外に出た場合や、日中に人が見ていられない時間帯の行動把握が結構課題になっている。なのでこういった製品でデータをとって、『介護DX』に繋げていくことに強いニーズがあるみたいで。介護施設というよりも、行政側の課題に商品がフィットしている感じが今はありますね」(山本さん)
山本さんは、今後商品を通して「必要な人に必要なサービスを届けたい」と語ります。
「実際に必要な人に必要な量の介護が届いてない現状があるので、そういったところに僕らのサービスを通じて、普段の日常生活の行動を正確に把握して、必要な人に必要なサービスを届けていくっていうのが大事だと思います」(山本さん)
(メ~テレ 飯田莉穂)





