
ジョブズも愛読「弓と禅」 サガミHD会長が学んだ「とことんやる」極意

サガミHD鎌田会長 私の一冊「弓と禅」

鎌田敏行(サガミホールディングス 代表取締役会長)
経済界で活躍する企業のトップや功労者たちは、どんな本を読み、どのような影響を受けてきたのか?誰もが気になる、その人にとっての“特別な一冊”をインタビュー形式で紹介します。 今回は、和食麺類レストランチェーン・サガミの鎌田敏行さん。社長時代、低迷していた業績をV字回復させた鎌田さん。特別な一冊は、スティーブ・ジョブズも愛読していたという「弓と禅」。ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルが日本の弓道から学んだ禅の真髄を解き明かす一冊です。 私の一冊:弓と禅
弓道から学ぶ「一つのものを極めること」の大切さ

弓と禅 オイゲン・ヘルゲル著
(鎌田敏行 サガミホールディングス 代表取締役会長) 著者のドイツ人の哲学者オイゲン・ヘリゲルが「日本の文化を勉強したい」ということで、選んだのが弓道。その師範が、弓聖と呼ばれる阿波研造さんという大変有名な方。この本は、阿波研造さんとドイツ人哲学者の魂の交流の物語です。 ヘリゲルは弓を一生懸命練習するのですが「当たれば良いんだろ」と思っているんですね。ただ、その先生がおっしゃるには「それが射ってくれるんだ」と。「それ」がなにか今ひとつしっくりこない。腹落ちしないということで、疑問をぶつけたところ「今晩いらっしゃい」と言われて、夜の道場に行くんですね。 先生は電気を全部消して、28メートル離れている的の前に蚊取り線香を1つだけ灯します。真ん中に黒い点があるもののはっきりと見えない中で、師範が弓を2本射ると、1射目が的のど真ん中に命中する。2射目は最初に弾いた一本目の矢の尻を貫きます。 「これはとても人間技じゃない」とヘリゲルは思って聞くと、師範は「矢を自らの意志で放すな。それが放すまで待て」と訳の分からないことを言うんですね。 私が思うに、自分とは違う大きな存在のものが、この弓を引かせてくれているんだ、大自然と一体化する、ということになるんでしょうか。そこに一つのものを極めた者の強み、哲学があるということなんですね。 ここから学んだことは「とことんやることの大切さ」ですね。人間は神様ではありませんが、最上級のところまで近づく努力をすることによって、人として成長することができる部分があるんだと、気づかされました。
とことんお客様起点に立つ 業績がV字回復

2011年に社長に就任 業績をV字回復
私は伊藤忠からサガミに来ましたが、決算状況がとても悪かった。その理由を考えると、お客様視点に立っていなかったんですね。もちろん社員は上から下まで「お客様のために」と思ってやってきているんですが、それが結果としてお客様のためになってない。お客様から評価されてないってことに、気がつかないということがあったわけです。 そこで、発想の転換の表現として「天動説を地動説の考え方にしましょう。自分がお客様の立場に本当に立つんです」と社員に伝えました。お客様の視点からということじゃなく、お客様を起点として、自分たちがやっていることが本当に正しいのかどうか見直そうと改革に取り組みました。まずは100万人アンケートと銘打って大規模なアンケートを行い、1つ1つ分析していきました。 社長になったのは2011年なんですが、20ほどの改革を出して1年で全部達成しました。初年度が最終損益は赤だったんですが、さらに改革を進めて、翌年には最終損益もプラスになりました。この「とことんやる」発想は、「弓と禅」の思想も生きているかと思います。
T字人間からπ字人間へ もう1本の軸を持とう

読書は「強み」を見つけるきっかけとなる
いま社員に「T字型人間からπ型人間になりましょう」と呼びかけています。ギリシャ語のπの大文字は、縦がまっすぐ下まで降りてるんですね、それをイメージしての話なんですけど、π字型人間になりましょうと。 我々は飲食業界にいますから、飲食に関しては深く知っていて、これがT字型になるわけなんですね。しかし、もう1本強みを持ちましょうよ、と。 さらに深く伸ばすと同時に、もう1本探すということができれば、自分の将来が豊かになるんじゃないかなと思っております。