ナフサショックの現場取材を続けてきた。自動車、住宅、塗装、水道、美容カット、農業など多岐にわたる現場で取材を重ねて実感したのは、危機が今そこにある業界と、危機がこれから別の形で訪れるだろう業界に分かれているということだ。
【写真を見る】ナフサショック 第1波は品不足 第2波は値上げ?医療現場に迫る危機… 全国の7割が赤字経営の中、医療崩壊のリスクも【大石邦彦解説】
前者はシンナー、エンジンオイル、塩化ビニル管などに代表される自動車、塗装、住宅業界。そして、後者の代表例は医療機関ではないだろうか。
名古屋市にある地域の拠点病院、名古屋掖済会病院を取材した。「石油製品がなかったらやっていけない。医療機関は多くの石油製品に支えられている」そう語るのは北川喜己院長だ。
日常的に使用されるマスク、ゴーグル、ゴム手袋、ガウンなどは全て石油製品であり、これらは衛生上の観点から使い捨てになる。つまり、節約が叫ばれても医療機関では当たり前のように大量消費される物品なのだ。
また、注射器も点滴パックも日々消費される医療品になる。掖済会病院の病床数は約600、日々訪れる外来患者も1200人超と多いため、消費されるスピードも早い。もちろん、これは全ての医療機関に言えることだ。
「薬」にも石油から分離された成分が
薬にも石油が使用される。薬は袋やパッケージなどに使われるのは想像がつくが、実は薬自体にも石油から分離された成分が使われていて、北川院長の言う通り石油製品にいかに支えられているかを実感せずにはいられない。
ただ、現時点ではナフサショックによる医療品不足はないという。政府も、品不足による医療崩壊があってはならないと優先度をあげて対応していて、例えば、医療機器の素材製造に使用する重油についての供給を確保するなどしている。
確かに、医療機関の品不足は国民の命に直結するため、賢明であり当然の判断だろう。しかし、この品不足を乗り切っても、それとは異なる課題がこれから想定される。
専門家「解決しても以前のように中東産原油は調達できない」
それは、石油製品の値上げの問題だ。依然として中東情勢の解決が見えないだけでなく、「例え解決しても以前のようには中東産原油は調達できないだろう」と指摘するのは、アメリカの内情に精通している明海大学の小谷哲男教授だ。
政府の6月の原油調達は中東のホルムズ海峡を経由する原油から、ホルムズ海峡を経由しない中東産とアメリカ産の原油に切り替えられるが、このアメリカ産原油が高くつくというのだ。
確かにホルムズ海峡を通過する原油と比べ、パナマ運河を通過するアメリカ産は輸送距離が長く、コストがかかるからだ。中東であれば通常20日で運べる原油が、アメリカであれば35日かかるという試算もある。
タンカーの大きさも影響?原油コストに上乗せか
しかも、運ぶタンカーのサイズの影響も受けそうだ。アメリカ産は、パナマ運河を通過するケースではタンカーの大きさは運河を通過できる中型、小型のタンカーに限定される。
つまり、中東の大型タンカーより小さく輸送できる原油量も少なくなるため、輸送効率が悪く、それは原油コストに上乗せされるとみられる。
つまりは、原油を無事に調達でき、ナフサショックの品不足を解消できても、今度は石油製品の価格上昇というフェーズが押し寄せてくると予測できる。
全国の7割の医療機関が赤字
話を医療機関に戻す。現在、医療機関はコロナ禍の黒字化から暗転し、赤字経営に瀕している。全国の医療機関の7割が赤字となっており、昨年度の倒産は71件。愛知県にある稲沢市民病院は2024年度の決算で約14億円の赤字となり「稲沢市民病院のあり方検討委員会」を立ち上げた。
ただでさえ、苦しい病院経営の中、この医療品の値上げが赤字経営をさらに圧迫するのは間違いないだろう。特に厳しいのは、やはり地域の医療機関だと考えると、今後は地方から品薄ではなく、値上げによる医療崩壊が訪れることも想定されるのだ。
「この状況が続けば、医療が立ち行かなくなる」
北川院長は「いま地方の医療機関はただでさえ厳しい。この状況が続けば、医療が立ち行かなくなる」と警鐘を鳴らす。ナフサショックの第一波は品不足、そしてその次にやってくるのが値上げだ。
このナフサショックが医療崩壊の時計の針を進めないような対策を、各医療機関が、そして地方や国が打てるのか?目先の対応はもちろん大事だが、次のフェーズも想定する必要がある。国民の健康、生命にも関わる重大事態の波が、連日報道されているナフサショック騒動の影で静かに押し寄せていることを忘れてはいけない。
【CBCテレビ論説室長 大石邦彦】


