JAXAも注目 プラスチックメーカーが「音を吸収する」パネルを開発 岐阜

騒音は、モノづくり現場では避けて通れない「厄介ごと」の一つです。でも、ある白い板が問題を解決してくれるかもしれません。一見ただのプラスチックパネルのように見えますが、驚きの特徴を秘めているんです。

発電機にパネルをかぶせる
作っているのは岐阜県大野町にある岐阜プラスチック工業。パネルの性能について、ある実験をしてもらいました。工場の騒音を再現するために発電機をセット。この時の音の大きさは82デシベル。走行中の電車内やパチンコ店に相当します。この音が、このあとどうなるのか。
(パネルを被せると音が減少)
パネルをかぶせた状態では68デシベルと、10デシベルほど音が小さくなりました。
(開発担当 柴垣リーダー)「従来、防音パネルと言いますとと金属の大きな重量物=遮音性能になるんですけども、こちらは「テクセルセイント」という製品で、対象物を入れると音が減衰する、吸音性能があるパネルになります。」

ウレタン素材と比較
こちらは「テクセルセイント」が「どのくらい音を吸収したか」を表したグラフ。工場での騒音は主に紫色の音域に当たります。吸音性に優れているウレタン素材と比べてみても、この音域ではテクセルセイントがより多くの音を吸収していることがわかります。

パネル表面の穴から音を吸収
一体なぜ音を吸収できるのか?秘密はパネルの中にありました。表面をはがしてみると中は3層構造になっていて、中央の層は六角形の空洞が並んでいます。このパネルをマシンにセット。すると表面には何やら黒い点が…。作業終了後のパネルには直径1ミリにも満たない穴が等間隔に空いていました。
(開発担当 柴垣リーダー)「中に中間空気層がある状態で(表面に)穴を開けることで、もともと発生する音よりも小さくなる原理。」
音は空気の振動によって発生していて、障害物にぶつかったとき、同じエネルギーが
反射して私たちの耳に届きます。テクセルセイントを使用した場合、振動のエネルギーの一部が穴を通過する過程で摩擦熱に変化。反射するエネルギーも小さくなり、音が小さく聞こえる、というわけなんです。

全国2000社以上で採用
実際の工場ではこのように使用。現在、全国2000社以上で採用されています。

強くて軽い素材に吸音要素が追加
騒音対策としての評価が高いこのパネルですが、実は当初の開発目的は、「音」には全く関係がありませんでした。
(開発担当 柴垣リーダー)「もともとは軽く強い、軽量の中空構造(中に空洞がある)板ということで販売し始めました。」
六角形が並ぶこの構造は「ハニカム構造」と呼ばれています。外からの力を効率よく分散させ、これが「強度」を生み出します。また、使う材料も少ないため軽量で、通常のプラスチック板と比べると、同じ強度でも重さは3分の1程度です。国内では唯一、岐阜プラスチック工業が量産に成功し「テクセル」という商品名で2009年に販売を開始。主に、荷物を入れるボックスの素材として使われています。
「軽くて作業員の負担が軽減できる」「頑丈だから2段に積むことが出来る」といった理由で、物流の世界では重宝される存在です。強くて軽い、さらに吸音という要素が加わったことで思わぬ分野が興味を寄せました。宇宙航空研究開発機構・JAXAです。航空機のエンジンから出る騒音を減らせないか、いま共同で研究開発を進めています。
(日本経済新聞社名古屋支社 田崎睦記者)軽くて強い板に音の吸収という付加価値がついたことで、その用途は大きく広がりました。自社製品の持つ潜在的な強みを分析したことで、あらたな市場開拓につながった良い事例だと思います。
(岐阜プラスチック工業 杉田二郎副社長)「今まで付き合いのなかった会社ともテクセルを通じてお付き合いができるようになりました。そういった意味でも軽量かつ吸音性能を有した素材の持つ意味は大きいなと思ってます。いろんな商品を出して、市場を広げていきたいと思っています。」