大雨で倒れた“ご神木”が“バイオリン”に… 新たな姿で地域を守り続ける 岐阜・瑞浪市で演奏会

11月12日、岐阜県の「神社」で、バイオリンの演奏会が行われました。神社とバイオリン。少しミスマッチな印象もありますが、実は2年前のある出来事が関係していました。
2020年7月、大雨の影響で、瑞浪市の神明神社のご神木が根元から倒れました。
推定樹齢670年。室町時代からこの地を見守ってきたスギのご神木だといいます。
「(ご神木は)精神的なシンボル。町民の落胆は言い尽くせないものがある」(大湫町自治会長 足立亘さん)
住民のショックを少しでも和らげるために考えられたのは、ご神木をバイオリンにすること。
託されたのは、海外でバイオリン作りを学んだ池尻雅博さん(50)。
「バイオリンは何百年も寿命を持つ楽器。(ご神木を)ぜひバイオリンにして(残す)」(池尻雅博さん)
一般的にスプルスなど硬い木材で作ることが多いバイオリン。製作歴16年の池尻さんでも、柔らかいスギからバイオリン作るのは初めてで、「ひとつの挑戦になる」といいます。
ともに製作に当たるのは、池尻さんが授業を行う専門学校の生徒たち。スギが使われるのはバイオリンの表板。最も音に影響を与えるパーツです。まずは、ご神木のスギをノコギリで大きさを調整します。
「おそらくなんですけど、音的には柔らかい感じになるんだと思います」(池尻さん)
さらに、表板の形に切り出したご神木を厚さ4ミリまで削り、薄い板にしていきます。
ノミを使って削っていきますが、削りすぎてもいけないため、生徒たちも集中して作業します。
「ちょっと緊張しますね。おそれ多くなってしまいます」(生徒)。
そのころ、神社では、1年半倒れたままだったご神木を、再び起き上がらせる作業が行われていました。
少しでも在りし日の姿に戻ってほしい、それが住民の願いです。
バイオリン製作が始まって約1年。ご神木はバイオリンの形に仕上がっていました。
最後に弦を張り完成。ニスも塗られてピカピカに。スギの木目も特徴的です。「ちゃんとバイオリンの形になって、いいなぁ、かわいいなぁって感じですね。もう手塩に掛けて育てた娘」(生徒)
ご神木が倒れてから2年。
ご神木は地元住民の手で再び立ち上がり、モニュメントになっていました。
11月12日、一度離れたご神木が2年ぶりに還ってきました。完成したバイオリンの演奏会が開かれたのです。専門学校の生徒たちも会場に駆けつけました。
「深みのある、まろやかな素敵な音色に仕上がっているなぁと」(生徒)
「通常のものとそん色なく、むしろ、いいかもしれないぐらいのいい音が出ていたのでよかったです」(池尻さん)
「(ご神木が倒れてから)心に穴が開いたような感じだったのですが、心の中にしみわたるような、そういう思いで聴かせてもらいました」
「あぁよかったっていうね、そういうふうに残してくださるのは」(瑞浪市民)
この日は、ご神木を使ったストラップや楽器作り体験のほか、ご神木の香りをつけたビールも販売。新たな姿に生まれ変わったご神木を、地元の人たちが盛大に祝いました。
「(ご神木が)倒れたことで、次のご神木が地域を活性化させて、このイベントも(ご神木が)倒れなかったら、こうはならなかったのではないかなと思いますね」(瑞浪市民)
街のシンボルが倒れてから2年。ご神木は、新たな姿となって地域を見守り続けます。