商店街火災のその後 “もらい火”で全焼…がれき撤去に最大1000万円? 火災1か月で見えた課題を記者リポート

「まさか自分の家が火災に巻き込まれるなんて、人ごとだと思っていた」
ある日突然、近隣で起きた火事のいわゆる“もらい火”によって所有する建物が全焼。残ったのは、がれきの山。そして、高額な撤去費用が降りかかってきた。
■22棟が焼けた商店街火災から1か月
こうした問題が浮き彫りとなっているのが、ちょうど1か月前に火災が起きた愛知県幸田町の駅前商店街。当時、強い風にあおられたとみられる火は、次々と建物に燃え移っていった。
商店街には古い建物が密集していた。和菓子店に文具店。空き家もあった。消防への通報から約13時間後に消し止められ、けが人はいなかったが、全焼15棟を含む22棟が焼けた。
警察によると、火元とみられる建物付近で当時、「ドラム缶で衣服を燃やしていた人がいた」という目撃情報があるが、出火原因の特定には至っていない。
■重くのしかかる“がれきの撤去費用” 最大1000万円?
この火災で、所有していた“空き家”が全焼した55歳の女性。18年ほど前に手狭になって別の場所に引っ越し、その後は、人に貸すこともあったが、2年前からは完全に人の出入りがなくなっていた。
女性は、火災の後、がれきが飛散していないか気になり、毎日のように現場を訪れている。そんな女性が今、最も困っているのが、がれきの撤去費用だ。
「撤去費用がどうなるのか。途方に暮れている」
がれきの撤去は、基本的には仮に“もらい火”であっても自己負担となる。しかも、女性は、火災保険に入っていなかった。保険会社から、空き家を理由に保険の継続を断られたという。
幸田町の火災で生じたがれきの撤去費用については、現在、幸田町が業者に見積もりを依頼している。被災した軒数が多いのに加え、“街の顔”ともいえる駅前が現場だったことから、町が調整役として動いている。
近く、住民に見積もりが示される予定だが、町によると、一世帯あたり最大で1000万円近くになる可能性があるという。
建物の所有者に重くのしかかるがれきの撤去費用。関係する住民が足並みをそろえて費用負担をしなければ、復興に向けた歩みは前に進んでいかない。
■がれき撤去めぐり異例の支援策 市が土地を買い上げ
こうしたがれき撤去の問題は、他の地域でも起きている。
2020年5月、岐阜県飛騨市神岡町で起きた火災では、街の中心部の11軒が焼けた。その後、幸田町と同様に、がれきの撤去が問題となった。
飛騨市神岡振興事務所の職員は、当時をこう振り返る。
「がれきでいつまで通行止めにするのか、どうするんだという声が市に寄せられました。市としても、何かしら早急に対応しなければなりませんでした」
現場は街の中心部であり、速やかな整備が求められていた。
ただ、ネックとなったのは、住民らの費用の確保だった。そこで、飛騨市は、異例の支援策に動いた。火災のあった現場の土地を市が買い上げることにしたのだ。さらに、無利子の貸し付けも行うことにして、住民らには、こうした資金を元手にがれきを撤去してもらうことにした。
ただ、これには、別の事情もある。焼けた古い建物が建てられたときと建ぺい率など建築上の条件が変わっており、元通りに再建できないことが判明。さらに所有者らは高齢で、市は、公的なサポートが必要と判断したのだ。
今では、現場の大部分が更地となり、市民の駐車場として使われている。
■夏ごろの撤去完了を目指すが、住民の足並みはそろうのか
幸田町では、今のところ飛騨市のような支援策は検討されておらず、町としては、6月末までのがれき撤去を目指したいとしている。ただ、住民にとってみれば、撤去後の土地利用をどうするかなども検討する必要があり、町の想定よりももっと時間がかかる可能性があるだろう。