新たな観光資源　”視力取り戻す”　再生医療のまちづくり

ラグーナ・テンボスや竹島などを抱える観光都市・蒲郡市が新たな目玉にしようとしている観光資源、「再生医療」。その中核を担う企業の取り組みと再生医療製品の最新事情を追いました。

愛知県の南に位置する蒲郡市。三河湾に浮かぶ”島まるごと国の天然記念物”の竹島や、4つの温泉街、さらには海のテーマパーク「ラグーナテンボス」などが人気の県内有数の観光都市です。

その蒲郡にいま、新たな観光戦略が…「再生医療のまち」です。

再生医療・遺伝子治療の市場規模予測

再生医療とは、病気やけがなどで壊れた体の組織や臓器を、細胞や人工の材料を使って修復・再生する治療のこと。これまで治せなかった疾患が治せるようになると期待され、世界的な市場規模は2040年に12兆円まで膨らむ見通しです。

そのため蒲郡市は市民病院に研究機能を持たせたり、啓発活動でPRしたりと、「再生医療のまち」づくりを進めているんです。

その中核を担うのは、ジャパン・ティッシュエンジニアリング「J-TEC（ジェーテック）」

J-TECは蒲郡市で1999年設立。以来、患者自身の細胞を増やす自家培養技術を高めてきました。

このツブツブは皮膚の細胞。培養すると、みるみる増えていきます。

細胞は年齢や持病などによって形や大きさ、増え方も千差万別なのですが、個体差に合わせて温度や時間を調節すると安定して培養できるといいます。

「バラつくものをいかに同じような品質に落とし込んでいくか、そこが難しいところだし、そこができるところが我々の強み」（J-TEC オキュラル開発責任者　小笠原隆広さん）

ジェイス

この技術で生まれたのが、重度のやけど患者用の皮膚細胞シート「ジェイス」。2007年に再生医療製品として国内で初めて製造販売承認を得ました。その後、3製品で承認を取得。

オキュラル

中でも今、売り上げを伸ばしているのが、500円玉より小さい「オキュラル」です。

原材料は、患者の口から切り取った粘膜。細胞を取り出し、“エサ”となる培養液に浸します。技術者が丁寧に世話をすると、細胞は分裂を繰り返し、集合体を形成。およそ1カ月で細胞シートが完成です。

オキュラルが使われるのは、黒目つまり角膜が白く濁る目の疾患、角膜上皮幹細胞疲弊症です。

角膜上皮幹細胞疲弊症

角膜の保護粘膜を作る細胞に異常が起きて発症。

角膜上皮幹細胞疲弊症

粘膜がなくなると、結膜と血管が徐々に浸食して角膜を覆い、視力をほぼ失うことに。

治療には、粘膜を作る細胞の移植が必要ですが…。

「角膜の病気は拒絶反応が非常に高頻度で起こる。これまでの（他者の角膜を使う）角膜移植では長期間維持することができない」（大阪大学　西田幸二教授）

その点、オキュラルは患者自身の細胞で作るので、拒絶反応はほとんどありません。保険適用で、費用は6万円から50万円程度です。

移植を受けた患者は、「当たり前の“見える”生活を送れるようになった」と話します。

J-TECは3月17日、新たに皮膚の色素を再生させる「ジャスミン」で製造販売承認を取得。皮膚が白くなる白斑患者にとって待望の製品です。

「われわれの（自家培養）のプラットフォームがよりたくさんの患者に活用できれば、これは事業としても収益性のあるものが出来上がる」（J-TEC 畠賢一郎社長）

「蒲郡市はJ-TECの技術・製品を基に、市民病院とも連携して「再生医療の町、がまごおり」を実現し、国内はもちろん、海外からの医療ツーリズムを呼び込みたい考え。日本の高度医療は人気が高く、日本政策投資銀行によると、年間43万人の潜在需要があり、経済波及効果は約2,800億円。蒲郡の既存の観光資源への回遊と組み合わせれば、大きな経済効果になる」（日本経済新聞社 名古屋支社 内山千尋記者）