日本国内のワイン市場に“新風”を 東海地方の企業が手掛けたのは、意外な素材でできた“ワインタンク”

東海地方の企業が手掛けたのは、私たちの生活でも身近なある素材でできたワインタンクです。国内の市場に新たな風を起こせるのでしょうか。
国内でワインの一大産地として知られる山梨県勝沼で130年以上の歴史を持つ「丸藤葡萄酒工業」がつくった「甲州醸し」です。2022年、木の樽と「新たに導入したタンク」を使って熟成されました。

コンクリート製のワインタンク
その「新たに導入したタンク」とは、コンクリートでできたワインタンクのこと。中には人が入れるほどの空間が。約1000リットル分のワインを貯蔵できます。ワインの醸造といえば、木の樽やステンレス製のタンクを使うのが主流ですが、コンクリートのほうがフレッシュな感じに仕上がるのだとか。
「ナチュラルで柔らかいタッチを作るなら、こちらが良いと思います」(丸藤葡萄酒工業 大村春夫社長)
日本国内で作れば輸送費を抑えられる

ゴトウコンクリート
コンクリートで熟成させたワインが生まれた理由は、愛知県新城市に工場を構える「ゴトウコンクリート」にありました。ゴトウコンクリートでは主に、雨水を排水する道路の側溝などを手掛けています。このコンクリートメーカーが、ワインタンクを作っていたのです。
「世界中でコンクリートタンクが使われていることを知って、今主流になりつつあります。自分もコンクリートメーカーなので、挑戦してみようと思いました」(ゴトウコンクリート 松林秀佳社長)
日本国内でのワイン出荷量は、2008年以降増加が続きましたが、2015年以降は横ばいが続き伸び悩んでいます。そんな市場に新しい風を吹き込むかもしれないのが、海外で、昨今メジャーになりつつあるコンクリート製のタンクです。
重さは約1.5トン。海外から輸入すると、莫大な輸送費がかかりますが、日本国内でつくれば、その費用を抑えられるといいます。
「水は地下水を使って、石も石灰石にして完全に天然の物だけでコンクリートを練っています」(松林社長)
コンクリートならではの3つのメリット

3つのメリット
さらに、ワインづくりに最適なコンクリートならではのメリットが3つあります。
1.「温度変化に強い」
ワインは急激な温度変化に弱く、温度の管理が欠かせません。しかし、コンクリートは熱をゆっくりためこむ特性があり、温まりにくく冷めにくいんです。ステンレスに比べ外気の影響を受けにくいので、急激な温度変化に左右されないメリットがあります。
2.「透気性」
ステンレス同様に密閉性は高いものの、樽のように微量の空気が通るのでワインが緩やかに酸化し、まろやかな仕上がりになるそうです。
3.「無臭」
樽でワインを醸造すると、木の成分が溶け出して樽の香りがワインにうつります。しかし、ステンレスのように無臭のコンクリートは、ブドウ本来の味を引き出すことができるそうです。

丸藤葡萄酒工業がつくったワイン「甲州醸し」
「コンクリートは上手に使えば100年ぐらいは使えると思うので、日本のワイナリーがいろいろなワインをつくるときに、選択肢の1つとして役立つのではないかと考えています」(松林社長)
一方、ゴトウコンクリートのタンクを使用した丸藤葡萄酒工業では、このタンクが国内で普及するには、もう少し時間がかかるのではないかと話します。
「今のところまだ様子見なので、いろいろなもので熟成させて味やバランスを見ていますが、なかなかすぐ結果が出るものではありません。ステンレス製と明らかに差が出れば、将来的にはコンクリート製タンクだけでというのが出てくるかもしれません」(丸藤葡萄酒 大村春夫社長)
「昨今、日本で栽培されたブドウを100%使用し、国内で醸造した『日本ワイン』が世界からも評価されるなど注目が高まっています。国内のワイナリー数もこの5年で1.5倍近く増加しています。このコンクリート製のワインタンクが今後、新たなワインの味を引き出し、国内のワイン市場で一役を担えるか注目です」(日経新聞社 名古屋支社 内山千尋記者)