票がとれなければ300万円没収…教師を辞めて出馬した落選候補が問いかける供託金制度【衆院選】
選挙の立候補に必要な供託金ですが、10月に行われた衆院選でも得票が足らずに没収されるケースがみられました。落選した候補者からは制度自体への疑問の声も聞かれます。
5日朝、名古屋市西区の地下鉄駅前で通勤する人たちに向け、あいさつをしていたのは山本耕一さん(47)。
10月に行われた衆院選で日本維新の会から立候補しました。
山本さんが戦った「愛知1区」は前職2人に加えて「選挙モンスター」の異名をもつ前名古屋市長の河村たかしさんら「強敵」が名を連ねました。
河村さんが次点の候補の倍近い票を獲得し、他の候補の比例復活も許さない「圧勝」の結果に終わった愛知1区。
山本さんは1万7810票を獲得しましたが、事前に預けていた「供託金」が没収されることとなりました。
「私の場合は衆議院選挙で小選挙区に立候補したので300万円でした。比例(重複)にも名前を載せてもらったので300万円。あわせて600万円かかりました」(山本さん)
有効投票数の10%下回れば「没収」
山本さんが没収された「供託金」。
総務省によりますと、「供託金」とは当選を争う意思のない人が売名などの理由で立候補することを防ぐために納める現金などのことです。
衆院選の小選挙区の場合、300万円。選挙区内の有効投票数の10%以上であれば返還されますが下回れば「没収」となります。
山本さんの場合、政党の公認候補として立候補したため供託金を含め、ある程度の費用は政党から支給されたお金で賄えたそうですが、選挙にかかる費用は供託金だけではありません。
山本さんは印刷物や車、人件費など約200万円を自己負担しました。
「200万円でもご支援をいただかないと厳しい状況」(山本さん)
「1回は出られるが次が苦しい」
山本さんは20年ほど教師をしていましたが、政治の道を志すために去年退職。
生活費は貯金を切り崩しつつ、フードデリバリーの仕事で賄ってきました。
山本さんは供託金制度については否定的な考えです。
「いろんな人が政治家にいるべき。お金持ちや経営者、弁護士や医者や私のように教師。生活が苦しい人も、それがわかるからこそ政治に反映できる。政治はそういうもの。幅広い人が政治家になるためにはお金のハードルはなくしたほうがいい」(山本さん)
政党の支援を受けずに出馬した場合、300万円の供託金は「自己負担」となります。
「よく『それぐらいが払えないなら(選挙に)出るな』とか『人から借りられないの』と聞く。私のように公務員だと辞めないといけない。(仕事を)辞めて出馬すると1回は出られるが次が苦しい。それが平等かといわれると、私はそうは思わない」(山本さん)
供託金制度に専門家は―
今回の衆院選、東海3県の小選挙区からは前回よりも20人多い87人が立候補し、供託金が没収されたのは山本さんを含め19人。
前回の衆院選から5人増えています。
選挙制度に詳しい愛知学院大学の森正教授。高額な供託金が立候補を阻むという指摘もあるといいます。
「数百万のお金をすぐ用意できない人もたくさんいるわけで、そうした人にとっては国会に出る、議会に出るといったかたちでの政治参加、これを妨げるといった批判というのはあると思う」(愛知学院大学 森正 教授)
「供託金制度を見直す時期に来ている」
さらに森教授は売名を防ぐために設けられたとされる「供託金制度」自体が、時代にそぐわなくなりつつあると指摘します。その例が7月の東京都知事選でした。
「選挙のポスターのエリアをある程度売りに出すとか。YouTubeなどと連動して、登録者を増やすことによって、お金を得るといったような選挙を使ったビジネスモデルのようなものが出来上がりつつあるというのが現状。供託金以上にそうしたかたちでお金を儲けてしまえば、売名を防ぐといった当初の目的は達成されない。供託金制度を見直す時期に来ていると思う」(森正 教授)
売名を防ぐという、本来の目的のためには「供託金」以外の制度についても議論する時期にきているといいます。
「海外では供託金といったお金を納める制度の代わりに、有権者の一定程度の推薦があれば立候補できるといった仕組みがある。日本も目的にかなうといった制度であるならば署名制度も十分検討に値するのではないかと思う」(森正 教授)