脱炭素社会に向けた対応に苦慮するバス会社 「EVバス」で活路を見出す 古いバスを「新しく」活用

脱炭素が叫ばれる中で、大量のバスを抱えるバス会社は対応に苦慮しています。そんな中、福岡県のバス会社が、古いバスを活用するある秘策を考案しました。

福岡の街を13年間走り続けてきたバス
西日本鉄道(西鉄)は約2500台を保有する日本屈指のバス会社です。一見、きれいなバスですが、長い距離を走った古い車両も少なくありません。福岡の街を13年間走り続けてきたバスも、走行距離は62万キロです。
バスのボディーの後方を見てみると、付いているはずのマフラーが見当たりません。

エンジンを取り外す
実は、このバスは去年11月に北九州市の工場で巨大なエンジンを取り外しました。その2か月後には、エンジンがあったスペースに多くのホースを設置。
「ホースを設置した場所にはバッテリーが載ります。『結線』といって回路を組み上げていくんです。これから難しい段階に入ります」(西鉄車体技術 設計課長 登本 隆司さん)
エンジンからバッテリーのEVバスに改造

バッテリーで走行できるように回路を組み上げていく
古くなった車両を電気で走るバス「EVバス」に改造するというのです。
「我々のバス事業は、コロナ禍で大変厳しい環境にありました。そんな中で脱炭素はそれなりの投資が必要です。どのように対応すれば良いのか悩んでいました」(西日本鉄道 自動車事業本部 技術部長 山口 哲生さん)
EVの部品を利用して改造することでコスト削減に

EVバスでコスト削減
EVバスならCO2の排出が4割減ることが期待できます。新車を買うと1台約4000万円。バス全体の1割でも100億円に達します。そこでたどり着いたのが、EVの部品を買って改造する方法です。価格も3割安く抑えられます。
貴重な人材がグループに在籍

設計に携わっていた人材がグループに在籍
とはいえ、簡単ではないEVへの改造。西鉄が自前で取り組めるのには、ある理由がありました。
「(2011年まで)西日本車体工業というバスメーカーがグループにあったんですけど、そこで設計に携わった人材がまだ多数、グループに在籍しています。バスの運行会社でありながら車体も造っていて、当時の技術者が残っていたのです」(山口さん)

登本 隆司さん
登本さんもその1人でした。
「私が入社したときからずっと付き合いのあるボディーなので、私のバス人生はこのモデルと歩んできたといっても過言ではありません」(登本さん)
課題はバッテリーの配置場所

1つ163キロのバッテリーを10個積み込む
今回、課題となったのがバッテリーです。バッテリーは1つ163キロ。それを10個バスに積載する必要があるので、以前よりも1トン重くなります。もしエンジンのあった空間に置いた場合、重心が一か所に集まり、バランスを崩してしまいます。
「車体のバランスを保つために、車内の前方と後方に分配して配置する必要があるのでどうしても室内に置く必要があるんです」(登本さん)
生まれ変わる古いバス

バッテリーの入った白い箱を前方に設置
そこで車両の入り口付近に白い箱を設置。通路が少し狭くなって、席も3つ減りましたが、62万キロ走った「新しいEVバス」が誕生しました。音の大きさも、ディーゼルエンジンに比べてEVバスは比較的静かです。
「電気バスに改造することで、少しでも長く利用してもらえるのはうれしいです」(登本さん)

EVバスは6月に走り出す見込み
■日本経済新聞社 黒沢 亜美記者
「今後は改造費用をどれだけ抑えられるかが課題となります。西鉄は再生可能エネルギーの分野にも進出しました。グループで発電もしていき、EVバスにも供給する計画です」
生まれ変わったEVバスは、6月にも走り出す見込みです。他社のバスの改造も請け負う考えで、古くて新しいバスが全国に広まるかもしれません。