「待ちに待っていた」 89歳の絶品アップルパイが復活 90歳を前に次のステージへ 三重・志摩市

7月17日、三重県志摩市の住宅街にできた行列。
「待ちに待ってましたんで、うれしいです」
「ずっと待ってました。インスタグラム(SNS)をチェックして」(お客さん)
みなさん、口をそろえて待っていたというお目当ては?
「やっぱりアップルパイ」
「アップルパイですね」(お客さん)
お店自慢の商品はアップルパイ。平成元年に全国菓子大博覧会で金賞に輝いたお墨付きの逸品です。
近鉄鵜方駅から徒歩で約15分。住宅街のど真ん中にオープンした「洋菓子 潮騒」。
お客さんの中にこんな話をする人が…。
「楽しみにしてたけど、(お店が)無くなって、いっぺんショックやった」(お客さん)
実は、このお店、一度、長い歴史に幕を下ろしていたのです。
私たち取材班が初めてお店へお邪魔したのは去年の7月。
アップルパイを作っていたのは、当時88歳のご主人の中島巨さんと、当時84歳の奥さんの久子さんです。
生地を伸ばしては折り重ね、これを何度も何度も繰り返します。食べた時のサックサクの食感の秘訣です。
アップルパイの生地にリンゴのジャムをのせるのは久子さんの担当。お箸とフォークを使って器用にのせていきます。
リンゴジャムをのせたら170度ほどのオーブンに入れ、40分かけて焼き上げていきます。
こんがりと焼けたアップルパイ。たっぷり手間をかけて作った逸品です。
おしどり夫婦が作るアップルパイ。実は、この時、久子さんはガンと闘いながらお店に出ていたのです。
しかし、去年9月。85歳の誕生日を迎えたすぐ後に亡くなりました。
「ばあさんも良かったなと思う。一番みんなに親しまれて、あの世に逝ったんだから」(店主・中島巨さん)
久子さんがいなければ続けられない。ご主人は今年90歳になるのを区切りに、お店を閉めることにしました。
「寂しいですね、わたし小さいころから(お菓子を)いただいてましたんで」(常連客)
名物のアップルパイが食べられなくなりました。
ところが…。
「息子が家で少し老けるといかんから、やれというもんですからね。家の方でボチボチとやろうかなと思っとるんですけどね」(店主・中島巨さん)
洋菓子職人として65年間。がむしゃらに働いてきたご主人。その姿を見てきた息子さんの勧めで自宅を改装し、小さな工房を作ることに。
長年使い込んできたオーブンも運び込みました。
「5か月間なんにもしなかったもんですからね、体がなまっちゃって」(店主・中島巨さん)
そして7月17日、午前10時の開店前からお客さんが続々とやって来て、約20人も待っていたんです。
この日は息子さん夫婦に孫娘と家族総出でお手伝い。
飛ぶように売れるアップルパイ。予約も次々と入ります。
「しばらく食べてなかったもんで楽しみです」
「ここのアップルパイ食べて、アップルパイ大好きになったんです」(常連客)
長男の治久さんはこの日のためにご主人の手ほどきを受けていましたが…。
中島巨さん:「ギリギリやな」
長男・治久さん:「えー!これでかい。これでギリギリ?」
90歳になるまで焼き続けてきたアップルパイ。微妙な焼き目の違いでおいしさが全然違うといいます。
ひと通り、作業が落ち着いたらご主人、居間の椅子に横たわり、休憩タイム。朝5時に起きて、ひとりで仕込みをして、ずっと立ちっぱなし。
ほんとにこの日が来るのを楽しみにしていたんです。
「みんなと仲良くして、今まで通りやってもらえればいいですわ」(長男・中島治久さん)
午後5時を過ぎても仕込みは続き、午後6時すぎに閉店。
ご主人、ちょっぴりお疲れモード。90歳を前に次のステージへと歩きはじめました。
「なんとか95まで行けるか。あと4年間頑張ってみようかなと思っているんですけどね」(店主・中島巨さん)