
いま日本の“現場”は外国人なしに成り立たない 新たな在留資格「特定技能」をもつ人たち

ものづくりの現場ではいま、日本人が減り、外国人なしでは成り立たなくなりつつあります。新しい制度のもとで増加する「日本で働く外国人」。その現場を取材しました。

今年2月。まだ暗い午前6時、岐阜県各務原市の会社に続々と従業員が出勤してきます。
会社の前に止まっているのは、大型のポンプ車。従業員は2人ペアでポンプ車に乗り込み、現場に向けて出発します。
ハンドルを握るのは、中国出身の翁飛さん(38)。「33メートルブーム車」と呼ばれる長いアームのついた車を運転して、この日の現場、愛知県岩倉市へ。
1時間半ほどで現場に到着。 他の会社の人たちと一緒に朝礼に参加し、この日の作業が始まります。
翁さんの仕事はコンクリートの圧送。ポンプ車を使って、生コンクリートを型枠に流し込んでいきます。
手元のリモコンで、アームを操作します。この日は、朝8時から夕方ごろまで作業が続きました。
深刻な人手不足、求人に応募ゼロ

翁さんが勤める各務原市のコンクリートポンプ社は、人手不足を理由に20年ほど前から外国人の受け入れを始めました。今では現場の職人18人のうち、7割以上にあたる13人を外国人が占めています。
「真面目で一生懸命ですね。感心します。最初のうちは日本語が難しかったり、日本語が分からないから作業が分からなかったりということはありますけど、言葉が分かると一気に伸びますね」(北川雄司社長)
求人も出していますが…。
「ゼロです。応募自体がないですね、5年ぐらいは」(北川社長)
翁さんは今、アパートで妻と息子の家族3人で暮らしています。翁さんが日本に来たのは15年ほど前。
「友達に聞いたら、日本は仕事は楽、給料は中国よりだいぶ高い。それで日本は生活も楽、街はきれい。自分で考えたら、僕も日本で仕事したいと」(翁飛さん)
技能実習生として、単身で日本に来た翁さん。それ以来、在留資格を更新しながら仕事を続け、2022年4月、日本で初めて「特定技能2号」を取得しました。
国も「海外から労働者に来てもらわないと」

政府は2019年、「特定技能」という外国人の在留資格を新設しました。
「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人」で、外国への技術移転を目的とした従来の「技能実習生」とは異なります。
「日本では少子高齢化で生産年齢人口がずっと減少している。将来に向けて働き手を確保するのが難しくなる。経済や社会の基盤を維持するのも危うくなるのではという危機感が、この制度を取り入れる背景にある」
「海外から労働者に来ていただかないと問題を解決することが難しい中で、外国人の受け入れ制度を見直していこうということになった」(出入国在留管理庁 在留管理支援部 福原申子 部長)
特定技能は転職が可能なほか、「1号」であれば在留期限は5年間、「2号」は更新すれば期限はなく、家族の帯同が認められます。
翁さんは2022年に妻を、翌年には息子を日本に呼び寄せ、家族3人で暮らせるようになりました。息子(17)は、日本の高校に通っています。
「日本語は知らないので、国語はとっても難しいです。高校生活は本当に楽しい。部活(ラグビー)と、友達と一緒に遊ぶことが楽しい」(息子)
Q:特定技能2号を取ってよかったと思う?
「絶対よかったです。家族と一緒に生活できるようになった。できなかったら多分中国に帰っていたと思う。10年ぐらい1人で日本で生活して、とても寂しかった」(翁飛さん)
愛知県は「特定技能」の外国人が全国最多

特定技能2号で働く外国人はほかにも。
橋げたや水門の溶接を行う岐阜市の会社。高速道路の橋げたの仕事が増え始めた15年ほど前から、人員確保のために外国人の受け入れを始めました。
現在は中国やベトナム、インドネシア出身の15人が働いています。
ベトナム出身のバオさん(37)は、日本に来て10年。今年3月、特定技能2号を取得しました。
「図面を理解するためちゃんと見て、間違ったら大変だからいつも気を付けます。長い時間頑張って、今はだんだんできるようになりました」(バオさん)
「(技能)実習生のお手本となってやってもらっている。会社としてはなくてはならない戦力」(メタル・クラフト 辻雅彦 社長)
特定技能は、1号と2号あわせて現在全国に約28万人。制度の導入以来、業種も人数も増加しています。
なかでも愛知県は2万3千人ほどと全国でも最多。
東海・北陸7県の届け出を受ける名古屋入管では、急増する申請に対応するため、壁に穴が…?
名古屋入管は申請増に備え部屋を拡張

名古屋入管では、急増する「特定技能」の申請に対応するため、審査にかかわる部署の部屋を拡大しました。
「まずは執務室、審査をする事務室の拡張。ギリギリでしたのでそれを広げようということで、もともと女子更衣室とトイレがあったところを事務室に改造して増設する工事をした。1月から人が入って審査をしている」
「申請数はこれから増えていくところなので、(処理が)追いつかなくなる前にこのような体制がとれて、増え始める当初から人数を強化しているのは、今後増えた時に効果が出ると思う」(名古屋出入国在留管理局 小杉清子 首席審査官)
特定技能制度の定着のためには、登録支援機関と呼ばれる民間の組織の支援が求められます。
申請手続きや面談などのほか、キャリアアップのための助言などを通じて、外国人と企業のサポートをします。
「企業が(外国人に)特定技能2号を取得させるため、どのようにキャリアアップを支援していくか。私たちもしっかり寄り添って、成功事例を共有しながら増やしていきたい」(登録支援機関エコ・プロジェクト協同組合 澤村美喜 副理事長)
特定技能2号を取っても手続きに負担

特定技能2号の取得には、日本人と同じ資格試験を受ける必要があります。
コンクリートポンプ社では、勉強会を開催するなど、特定技能2号を目指す外国人の支援もしています。
彼らは会社が借り上げた一軒家で、共同生活をしています。
インドネシア出身で特定技能1号のキキさん(26)は、今後2号を取得して、妻を日本に呼びたいと考えています。
Q:結婚してからずっと離れ離れは寂しい?
「そうです。将来的には一緒に住みたいです。とりあえず日本で」「仕事終わってから帰って午後9時から勉強します」(キキさん)
特定技能2号を取得し、家族とともに暮らせるようになった翁さん。
「毎日現場が違うので、新しい場所を走ってきれいな景色がみえるのが楽しい。日本はやっぱりきれい」(翁飛さん)
一方、特定技能2号でも、在留期間を毎年更新しなければならないため、手続きを負担に感じています。
「毎年更新は大変。永住者になりたい。これだけ、とりあえずは」(翁飛さん)