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ヘビはなぜ怖いのか 認知科学者「ポイントはうろこ」 遠い祖先からの長~い関わり

メ~テレ
01.01(水)06:00

巳年(へび年)の2025年が明けました。置物や年賀状にはかわいらしいヘビがたくさんありますが、本物のヘビは「絶対無理!」という人が多いはず。認知科学の専門家によると、そこには霊長類の長い歴史が関わっているそうです。

バラエティー豊かなヘビの置物。左・中央・右は「遊中川」、中央奥は「かまわぬ」の商品。価格は5千円前後(2024年12月、名古屋市中村区のジェイアール名古屋タカシマヤ)

 名古屋市内の百貨店には、ユニークな姿のヘビが並んでいます。

 陶器やわらでできたヘビの置物や、卵のように丸々としたヘビのこけしも。

 ヘビは七福神の一つ・弁財天の化身と言い伝えられ、五穀豊穣や金運上昇の縁起物として買い求めるお客さんもいるそうです。

 ところが…実物のヘビとなると怖いのはなぜなのでしょうか。細くて長い体にくねくねした動き、鋭い牙と目、先が裂けた舌…。いろいろありそうです。

 認知科学が専門の川合伸幸・名古屋大学大学院情報学研究科教授(58)によると、人間やサルなどの霊長類は、危険な動物や怒った顔などを本能的に素早く察知します。

 特にヘビは、実物を見たことがないサルでもほかの動物より早く見分けるほか、生後6~11カ月の人間の赤ちゃんもヘビの写真に脳波が大きく反応することが報告されています。

 ただ、ヘビのどこに反応するのかは、はっきりわかっていませんでした。

サルにヘビとイモリの写真を見せると…

川合教授の実験のイメージ。イモリにヘビのうろこを重ねると、サルはヘビと同じぐらい敏感に反応した

 川合教授は実験で、ヘビを見たことがない3頭のサルに、ヘビとイモリの写真を9枚見せ、1枚だけ違うものを見つけてもらいました。

 9枚のうち1枚だけヘビにした時にヘビを発見したのは、9枚のうち1枚をイモリにした時にイモリを発見した時よりも早いという結果になりました。

 両生類のイモリにうろこはありません。川合教授はイモリの写真を加工し、ヘビのうろこを重ねてサルに見せました。

 すると、2頭のサルはヘビを見つけるのと同じ早さで見分け、もう1頭はヘビよりも早く見分けました。

 ヘビの写真は前の実験と変えておらず、川合教授は「ヘビのうろこに敏感に反応している」と結論づけました。

ヘビを見た時の脳内メカニズム

脳が視覚情報を処理するイメージ。大脳皮質の視覚野から順次処理するが、「脅威」は上丘から視床枕を通して扁桃体に早く伝わる

 恐怖や不安、怒り、悲しみなどのネガティブな感情をつかさどるのは、脳の奥深くにある「扁桃体」という部分です。

 目から入った情報は視神経を通して脳に送られ、脳の表側にある「大脳皮質」の後ろにある「視覚野」と呼ばれる部分から順次処理され、何なのかを認識します。

 ただ、急を要する「脅威」の情報には、大脳皮質を通さずに近道するルートがあり、視神経から「上丘(じょうきゅう)」、そして「視床枕(ししょうちん)」を通して扁桃体に伝わると考えられています。大脳皮質を経由せずに扁桃体に到達するので、情報処理が早くなります。

 視床枕には、ヘビのうろこのような模様に反応する神経細胞があり、ヘビの写真を見た時に活発に反応することがわかっています。

 川合教授は「同じ爬虫類のトカゲにもうろこがありますが、ヘビのうろこの形とだいぶ違います。霊長類の脳は、ヘビ特有のうろこの形を無意識のうちに認識しているのです」と説明しています。

 この研究成果は、昨年11月にオンライン総合科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

ヒトの脳が発達したのはヘビがいたから?

脳の断面模型を手に説明する川合伸幸教授。差し示しているのは、脅威の情報が伝わる「上丘」の位置(名古屋市千種区の名古屋大学)

 霊長類がほかの動物より脳が大きくなったのは、ヘビを早く見つけて身を守るために視覚野を発達させたからだという学説があります。
 アメリカの人類学者リン・イズベル氏が発表した「ヘビ検出理論」で、川合教授の研究もこの理論に合致します。

 川合教授によると、霊長類が地球上に誕生したのは約6500万年前。この頃の地球は温暖で、高さ30メートルを超える巨木の上に枝葉が生い茂り、その中で暮らしていたといいます。

 ワシやタカなどの猛禽類は密生する枝葉の中にはなかなか入れません。ライオンやトラといったネコ科の大型肉食獣も高くまでは登れません。

 しかしヘビは霊長類のはるか前から繁栄し、高い木の上にも登ることができます。

「霊長類は、誕生した時から6500万年以上にわたってヘビに襲われ続けてきました。そのヘビを早く見つけられる先祖が生き残り、私たちにつながっているのです」と川合教授は話します。
 
 WHO(世界保健機関)によると、いまも世界中で毎年推定540万人がヘビに噛まれ、そのうち約8万~13万人が死亡、その約3倍にのぼる人に手足の切断や一生続く障害が残るといいます。

 ヘビは現代の人類にとっても大きな脅威です。

楳図かずおさんの漫画に通じるもの

漫画「へび女」(C)楳図かずお/小学館

 川合教授によると、ヘビは世界各地の伝説に登場します。「竜」もヘビのようなうろこがある姿で描かれ、「逆鱗に触れる」という慣用句からも、ヘビのうろこへの怖れがうかがえるといいます。

 また、この研究を通して、昨年10月に88歳で亡くなった漫画家の楳図かずおさんの代表作の一つ「へび女」を思い出したといいます。

 表紙をめくると、目次の背景にヘビのうろこがびっしりと描かれています。冒頭の「ママがこわい」という章で、主人公の女の子は入院している母親から「この病院にへび女がいる」と聞きます。「からだじゅうウロコがはえていて 口が耳もとまでさけて すごい顔をしているそうよ」というせりふがあります。

 川合教授は「楳図さんは、人間が本能的に感じるヘビの怖さをとてもうまく表現しています。改めてすごい方だと思いました」と話しています。

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