
災害関連死ゼロ イタリアの避難所事情 日本では無理なことを実現「TKB48」【暮らしの防災】

前回に続き、災害時の避難所での暮らしの改善についてです。いくつもの自然災害の被災地に入り、被災者を支援し向き合ってきた医療関係者、福祉関係者、防災の研究者、防災関連用品のメーカーのスタッフなどによる「避難所・避難生活学会」は、その名の通り、避難所での暮らしの改善を目的に活動しています。お手本にしているのがイタリアの避難所です。「避難所・避難生活学会」のキーワードは「TKB48」。T=トイレ、K=キッチン(食事)、B=ベッドを、災害発生後48時間で整えるということです。この日本では無理なことを実現しているのが「イタリア」なんです。
イタリアのTKB

イタリアも日本と同様に「災害大国」です。大災害が発生し避難所を開設することになると国の機関である「イタリア市民保護局」が手配します。全国にある市民保護局の倉庫には避難所のユニット(機材など)が備蓄されていて、大災害が発生するとトレーラーで被災地に運びこみます。発災から48時間以内に避難所が完成すると言います。(写真は全て避難所・避難生活学会の提供です)
<イタリアのT>
トレーラータイプのトイレ・シャワーコンテナが、すぐに避難所に来ます。広くて清潔です。
イタリアのK

トレーラータイプのキッチン車が出動します。メニューは、いつも食べているもの。栄養面より「いつものご飯」を重視。「いつものご飯」で元気になって欲しいという考えに基づいているそうです。
最初はパスタ、調理の態勢ができてくると(数日後)、肉料理やワインも提供されます。「美味しい」「楽しい」「食べて元気になる」がメニューの基本だそうです。
イタリアのB

大きなテントが家族ごとの避難所=家になります。冷暖房機が備わった大型テントが用意されます。家族、個人のプライバシーを守れます。ベッドはキャンプで使う簡易ベッドです。避難所にはランドリーコーナー、子どもの遊び場もあります。
<なぜイタリアにはできるのか>
「イタリア市民保護局」という国家機関が、避難所を設営しています。この機関の存在が大きいのですが、私は、それ以前にイタリアという国の歴史、その歴史で醸成された国民性があるからだと考えます。古代から自分の国を守るために戦ってきた歴史、宗教に基づく命への考え方、そしてあの情熱ある国民性がベースにあると思います。
<イタリア市民保護局>
イタリア市民保護局は、昔からあったわけではありません。きっかけは1980年にイタリア南部で起こった大地震。この時、イタリア政府は何もできず、約3000人が亡くなりました。この一件の反省から2年後には市民保護局を作って、現在の仕組みができました。わずか2年で…国内に巨大な備蓄基地が3カ所あり、常時約10000人が長期避難生活を不自由なく過ごせる資機材が備蓄されています。緊急時にはトラック(トレーラー)で48時間以内に必要な物資が届けられるとのことです。もちろん要員もすぐ出動します。
また、避難所関係の一連の作業に、被災し疲弊している地元自治体の職員は関わりません。
イタリア方式を日本に導入するには
イタリアでの災害関連死は「0」です。日本では、ようやく防災庁の設置に向けた検討が行われていますが、関係者によると先行きは見えていません。なぜ災害関連死者が減らないのか、わかってきました。
イタリアでなぜ2年間で組織づくりができたのか?それは強いリーダーシップ、スタッフの問題意識、執着心、情熱にあると考えます。日本でも次の大災害に備えて、TKB48を実現してもらいたいと思います。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。