
年間約3000トンのごみが流れつく海岸 拾ってもすぐ流れつく現実 解決の鍵は周辺県が連携した発生抑制

三重県鳥羽市の答志島。風光明媚なこの島を悩ませているのが、島の浜を埋め尽くす大量の漂着ごみです。浜の清掃活動に密着すると、ごみによる深刻な被害とともに島にごみが集まる理由が明らかになりました。答志島だけでは解決できない漂着ごみの実情を調べました。
三重県最大の離島「答志島」 年間約3000トンのごみが漂着

答志島は鳥羽市沖に浮かぶ県内最大の離島で、シラスやワカメ、サワラをはじめとする漁業や観光業が盛んです。奈佐の浜は島の真ん中、伊勢湾に面した場所にあります。
第8回川ごみサミットの資料によると、伊勢湾流域を発生源とする海ごみは年間1万1000トンを超えると言われています。そのうち約5000トンが三重県鳥羽市に漂着ごみとして打ち上げられ、答志島には約3000トンのごみが漂着するとされ、漁業や周辺環境にも深刻な被害を与えています。

答志島の浜、奈佐の浜の清掃活動が始まったのは2012年。2011年、答志島桃取地区の漁師からSOSを受けて関係者が見に行ったところ、海岸の漂着ごみの惨状を目の当たりにします。
奈佐の浜を守ろうと、2012年に地元の漁師と東海3県の環境団体が「22世紀奈佐の浜プロジェクト実行委員会」を立ち上げ、清掃活動を主催。2024年で12回目の清掃活動となります。
漂着ごみに仰天! 漁具や流木など驚きのごみが

2024年10月13日、奈佐の浜に集まったのは約230人のボランティア。三重県をはじめ、愛知県や岐阜県、長野県など県外からも参加者が集まり、浜の清掃を行いました。
清掃エリアは全長約300メートルの浜周辺で、朝10時から11時までの1時間ほど行われました。ごみ拾い用のトングを使って拾い、トングでは掴めないような大きなごみは仲間に協力を仰ぎながら手で拾いました。
テトラポットや岩場など危険な場所にあるごみは無理せず、拾える範囲で清掃活動を行っていました。

奈佐の浜のごみの多くは流木とプラスチックごみ。劣化により原形がわからなくなったプラスチック片のほか、プラスチック製品や漁具と思われるごみもありました。

長野県から参加した子ども:
「ごみが多すぎてどこから手を付けたら良いのかわからなかったけど、とりあえず拾うしかないので。それにしても酷いですね」

漁をする際に網に取り付けておくウキのごみ。大きな漁具も漂着しています。
参加したボランティアの男性:
「どこの漁師さんが出したごみかは分かりませんが、海を使った仕事をしている以上は汚すのはどうかと思いますよね」

どこから流れてきたか分からない「来客車」と書かれた謎の看板も。

まだ使えるというマーカーまで。いったいどこから流れてきたのでしょうか。
参加したボランティアの女性:
「どこから流れてきたのかわからないごみが、海に流されて姿や形を変えてここにたどり着いた。それは悲しいことだけど、もしこの浜にもたどり着かなかったらと思うと、ここで拾えて良かったのかな」
この1時間で拾われたごみの総量は約750キロでした。
ごみはなぜ鳥羽市に流れつくのか? 漂着ごみ問題の原因と現状

答志島になぜ大量のごみが流れつき続けるのか。伊勢湾の漂着ごみ問題を研究する四日市大学環境情報学部の千葉賢教授に話を聞きました。
―――答志島の奈佐の浜に大量のごみが流れつく原因はなんですか
「伊勢湾に入るごみは伊勢湾の奥部、木曽三川から流れてきます。(木曽三川の)流域面積が非常に広いので、そこから流れ込む流木とか、人口も多いですから、川に入ってくる人工ごみもあります。それ以外に三重県の河川から出てくるごみもあります。答志島はこれらの河川の出口に1番近い場所にあるので、木曽三川から入ったごみも三重県から出たごみも答志島に集まる傾向があります」

さらに、ごみが流れ着く原因には地球の自転の影響もあるといいます。地球が時計回りに回転し、ごみが三重県沿岸に沿って太平洋の方向に流れて下ります。そのため、この流れの下流に位置している答志島にごみは漂着しやすく、特に奈佐の浜は北西側に開いた形になっているので、ごみを受け止めやすくなります。
北西風の吹く10月以降は特に漂着しやすくなるそうです。

―――漂着ごみの与える影響はどんなものがありますか
「伊勢湾に発生するごみのうち、半分ぐらいはこの鳥羽周辺に漂着するんじゃないかと言われています。例えば大きな流木が流れて港に入ったりすると、港の機能が阻害されて船が港に着けなくなります。
また、流木が海を流れているということは船が走るときに危険で船の航行の障害になるんです。他にもごみが漂着したりすると見栄えがすごく悪くなりますよね。観光資源的な意味でもよくないです」
「伊勢湾のごみ問題は他県の協力がないと改善しない」 漂流ごみ対策で期待される「伊勢湾広域連携」

伊勢湾の漂流ごみの対策として期待されているのは「伊勢湾広域連携」。伊勢湾の海洋ごみは、主に愛知県、岐阜県、三重県の流域圏から発生したものであることから、3県で連携を図りながら海洋ごみの発生抑制対策等について検討・実施するというもの。「伊勢湾のごみ問題は他県の協力がないと改善しない」と千葉教授は話します。
―――「伊勢湾広域連携」とはどのような仕組みですか?
「伊勢湾のごみ問題を考える時に愛知県、三重県、岐阜県そして長野県の4県からごみが出ているわけです。ただ、海岸を持っていたり、被害が実際発生しているのは、三重県だったり愛知県だったりするわけです。そうすると三重県と愛知県だけがごみ問題をなんとかしたいと思っていても、内陸地域の協力が得られなかったらごみ問題というのは改善していかないです」
―――2024年3月に連携に大きな動きがあったそうですね
「沿岸の総合的管理と言うんですけど、県を越えて一緒に協力するのは難しい部分があって、日本ではなかなかできていなかったんです。ただ、3、4年前に環境省から、複数の自治体で協力する体制を作った方がよいというすすめもあり、今年3月に伊勢湾広域連携の計画を作るところまで進みました。これは全国初の取り組みです」
拾うことだけでは解決にはならない「ボーっと生きてんじゃねぇよ」

奈佐の浜の清掃活動を立ち上げた「22世紀奈佐の浜プロジェクト委員会」の事務局長、近藤朗さんは「拾うことだけでは解決にはならない」浜の現状を知って欲しいと話します。
――――今回の清掃活動の結果はどうでしたか
「毎回そうですけど、浜にボランティアに来ていただくといったんは綺麗になります。今回もごみは完全に取りきれないですけど、きれいにはなりました。ですけど結局、またすぐ流れてくるっていうのが現実なんです。拾うことが解決にはならないっていうことは元から分かっているんです」

―――清掃活動の狙いはなんですか
「この浜の現状を見て、自分たちの生活がこういう結果を招いているんだという事実を見てほしい。そこを理解してもらって、物を売る側、買う側、作る側みんなで社会を変えていかなきゃいけないなと感じてもらうのが目的です。
1番言いたいのは「ボーっと生きてんじゃねえよ」ということを全ての人に伝えたくて。
誰も悪いことをしているとは思ってないんですだけど、ゴルフ場やテニスコートの人工芝の切れ端とか細かいごみがたくさん浜に漂着しています。これは誰も捨てているという意識がないですよね。でもボーっと生きているとそういうことになってしまうんです」
※この記事は、テレビ愛知と三重県、八千代エンジニヤリングよる共同企画です。