27年前、名古屋市西区で主婦が殺害された事件。殺人の罪で起訴された女に対し、被害者の遺族が、損害賠償を求める訴えを起こしました。夫の高羽悟さんが3月30日に名古屋市内で会見を開き、提訴した思いを説明しました。

Q.安福久美子被告に損害賠償求め提訴したことについて
昨年10月31日、安福久美子被告が逮捕され、途中3ヶ月半くらいの鑑定留置を経て、3月5日、無事に起訴することができました。
被告に関してはなかなか報道されず、私自身も被害者としていろんな思いがありますが、今回は民事訴訟についての気持ちを述べさせていただきます。
2010年に「宙の会」で時効撤廃をしたのですが、「宙の会」の中では広島の事件の被害者である方の事件は1件すでに解決しましたが、その方は(事件解決まで)15年未満でしたため、実質、時効撤廃の恩恵に預かったのは私が最初ということで。
それも(事件解決まで)20年を超えており、今回、提訴する民事裁判における損害賠償請求ということになると、20年の除斥期間がございました。
私としては、自分が(事件現場の)家賃を払ったり、精一杯警察に協力をして、犯人捜しを2歳の子どもを抱えながら26年間やってきた。
そこで、民法が20年で除斥期間があって、26年目に逮捕しても、基本的には損害賠償を請求できないという建前になっているが、これは私が怠慢で訴訟しなかったわけでもなく、一生懸命家賃も払って、警察にも協力して、犯人を捜してということをやってきたので、これを20年の除斥期間をもって門前払いするのは、著しく社会正義に反する、また私を含め未解決事件として20年以上経って、今現在も犯人を捜している方も、(今後)犯人が捕まっても損害場所請求ができないということになります。
ここで私が、「それはおかしいだろう」と、「民事裁判をしないと」と思いやってまいりました。
それは、「宙の会」も含めて一緒にやってまいりました。
ここで、私としては「(被告に損害賠償請求ができないことは)著しく社会正義に反するので、何とかしてほしい」という思いで、弁護士の先生方の協力を得て、今回提訴しました。
3月27日には受理されていることが確認できたので、ひとまず門前払いということはなくなったが、今後、この裁判がどういくかは、公判が始まってみないと分からないので、そのためにも頑張って先生方と協力して向かっていきたいと思っております。
請求金額の公開は非公開に
Q.請求金額の公開については
金額については、非公開とさせていただいております。
これは私と息子の気持ちの中では、金額ではなくて「20年の除斥期間がおかしい」ということで裁判を起こした趣旨であるので、そこは(金額を)公開する必要もないのかなと、非公開にさせていただいています。
そんな形で後に続く方にも、私自身のためにも損害賠償の道が開けるように、何とか頑張って戦っていきたいという気持ちでおります。
除斥期間の期間制限を無くしたいという訴えについて
Q.除斥期間の期間制限を無くしていくんだという訴えについて思うことは
20年の条文を改正するのは時間がかかると思う。
それよりは(弁護士の)先生方が言ったような法律の立て付けみたいな形で、まず基本的に「社会正義に反する」ということで。「じゃあ私はどういうやり方をすれば損害賠償請求ができたのか」ということになると、私は人一倍、未解決事件の中でも犯人が捕まるようにビラ巻きもしましたし、アパートの現状もずっと維持して、警察に一番協力してきたと思っているので、そこの努力も見ないで、20年という除斥期間だけで排除するのは自分としては納得いかない。
ただ、先生方が今回、立て付けを考えてもらうような形でやれれば、法律の20年の除斥期間の条文を変えることなく損害賠償請求が認められれば、私に続いて20年以上経ってから事件が解決する方の道もできるので、何とか早期に決着できるようにと思って、今回は先生方のご提案でやってみようということになっております。
このうち「宙の会」として、20年の除斥期間の法律の条文を変えるかどうかは、また今後、「宙の会」では検討したいと思うが、とりあえず当面は今のやり方で、なんとか「(事件解決に)20年経ってからも損害賠償請求できるよ」という道筋をつけたいなという気持ちでおります。
民事訴訟をする上で不安なことは
Q.民事訴訟をする上で、解決まで時間がかかると思うが不安に思うことは
(民事訴訟にかかる)時間に関しては、当然まだ刑事裁判が始まっていないので、まだ被告が犯人だとまだ確定はしていない状況なので、当然民事訴訟もそれが確定してから裁判が進むだろうと解釈しておりますので、刑事裁判の時も言ったが、26年捕まえるまでかかりましたから、「ここから1年かかっても仕方ないかな」というふうに思っております。
Q.安福被告の関係者に尋問を要請することはあるか
民事訴訟の中で、安福被告の関係者を裁判に引っ張り出すかどうかということは、今のところ考えておりません。
いわゆる少年犯罪みたいな形で公判が公開されないという場合は、そういったことも考えられるでしょうけども、特段私としてはそういったことを考えていないですし、もちろん(安福被告の)家族も黙秘を貫くと思うので、そういったことは一切今のところ考えていないという形で、民事裁判は行います。
民法上で20年の制限があることの率直な思い
Q.刑法には時効があるが、民法上は20年の制限があることの率直な思い
2010年に刑法で時効がなくなり、それから16年たったが、(26年経ってから事件が解決するといった)そういうケースが今までなかったものですから。
そこに誰も気がついていないというか、触ろうとしなかったのか、不作為なのかよくわからないが、ただ、私みたいにこういうケースが出ないと、なかなか法律の矛盾点がみなさんもわからないし、自分自身もそこに活動の中で重きは置いてなかった。
どちらかと言うと、代執行制度を何とかということで。確定判決を受けても、全然加害者は払ってこないという、そちらばかり言って、実際自分がそうなったときの初めてのケースだと思いますので、それでこういったことをやりたいと。
ですから、科学の進歩とともにこれから20年たっても、(犯人を)逮捕できるケースがこれからあると思いますので、当面やっぱり20年たっても、今一生懸命犯人を捜している遺族の方が、やっぱり希望を持てるような形の道筋をつけたいなということですね、今の気持ちは。
Q.法制度上、足りないと感じる面は
私のケースが認められれば、立法府の方でもやっぱりまずいだろうということで、20年という除斥期間はそのままにして「こういうケースは除く」とか、そういった形で条文も変えていただくのが一番いいと思うんです。
真実を知る機会が奪われるかもしれない危機感は
Q.民事の裁判が仮にできない場合、真実を知る機会が奪われるかもしれない危機感はあるか
民事裁判において、奈美子に報告できるような、いろんなことを知りたいという気持ちはあんまりないです。現状、(安福被告は)黙秘しておりますので、常に最悪のことを考えてやってきましたから、公判でも黙秘するだろうということで。
半分は真実が明らかになることはないという覚悟はもう決まっているので、特段、奈美子のためにいろんな真実を知ろうというのは、ちょっと無理かなという気持ちでいます。
ただ民事裁判をやるのは、「現状ではおかしい」「社会正義に反する」という気持ちがあるので、私の後に続く人のためにも道筋をつけないといけないという意味で。
なかなか自分だけのことではこんなに頑張れないので、やっぱりみんなのためにやるだけのことだと思うが、みんなから託されていることだと思いますので、その思いで民事裁判はやっています。
刑事裁判で(安福被告が)黙秘をやめて、真実を話す時が来るのかどうかはもう分からないので、あんまりそこは期待していなくて、推測するに、彼女としてはやっぱり「家族に話ができない」という単純な理由なので。
私に、こうされたとかああされたとか、私に対する復讐ということが、今一番居心地が良くて、警察からも黙秘をすればその矛盾点を追求されないので、彼女自身が、黙秘することが一番気持ちが楽だというふうに思っているので、刑事裁判でも真実は明らかにならないという覚悟は決めております。
26年間、事件現場の家賃を払ってきたことについて
Q.請求額を非公開にする方針や精神的負担について
家賃を負担してきたのは、遺族から言うと、「風化させないためにどうしたらいいか」という思いがあったのと、(家賃を)払ってでも維持してメディアに取材してもらうことが1つの方法だと思ったこと、やはり最終的に加害者が決まったとき、そこで現場検証したいということ。
取り調べ室の一室で図面をもとにああだこうだというよりは、絶対(事件現場の)実物があった方が、犯人しか知り得ない情報だとか、いろんな供述も取れて、裁判に有利になると思いましたので。
その願いは、去年の10月31日にかなったということです。
損害賠償において、家賃を含んで請求をすることにはしていますが、裁判所でそれは原告が勝手にやっただけで、実際、「事件にあったから出た損害ではないだろう」と言われれば、その通りかもしれないので。
金額について、どうのという問題は全くないものですから、家賃が削られる部分については、致し方ないかなと思いますけれども、
当初の請求としては、そこに入れて請求はさせてもらっています。
代執行制度を求める思い
Q.国による代執行制度を求める思いは
2010年に私たちだけではなく、他の被害者遺族の団体も含めて、世論を高めて時効撤廃をしました。
それは各被害者団体みんなそうだと思うが、「1件でも殺人事件を日本から減らして、私たちのような遺族になってほしくない」という思いでやってきました。
ただ思ったより殺人事件は減らなくて、非常に残念な思いをしております。
ましてや損害賠償の請求をしても、単純に考えれば、お金がない加害者がお金のために人を殺したりするわけですから、そもそもお金のない加害者に対して「金を払え」ということ自体、無理があるかもしれません。
本当は、刑事の責任と民事の責任が問われるので、「殺人事件は割に合わないよ」というのを主張したかったんですが、実際現実は、殺人事件が思ったより減らないし、本当に被害者に何の落ち度もない事件は一向に減りません。
それをどうするかと言ったら、私の考えですが、これはもう社会で犯罪が起こるんだと、被害が起こるんだというシステムに変えていかないと、いつまでたっても落ち度のない人が被害者になって、家族が巻き込まれて、経済的に困窮するというサイクルは変わらない。
「日本の社会も、いつ殺人事件にあうか分からない」、そういった中でみんなで助け合いましょうと、損害賠償請求の裁判を起こしても払われなかったら、一旦国が払いましょうと。
実際、記者さんの中でも30代、40代の方は、まだ小さいお子さんを持つ方はいっぱいいると思うが、もし自分が殺された時に、奥さんと子どもがどれだけ困窮するかというのを想像していただきたいんですね。
これは喫緊の課題で、そういった家族を救うために、やっぱり代執行制度を取り入れて、(被害者家族を)経済的に安定させないと、残された子どもは、他の子どもたちが、塾へ行ったり、水泳を習ったりいろんなことしても、お父さんを殺された子どもたちは、そういったことも我慢して、高校を卒業したら働かなければいけないとか。
そうなったら将来の夢まで、狭められてしまうという現状があるわけですので。私が遺族を見てて思うのは、やっぱり経済的な根拠が、絶対気持ちを前向きにさせないんですね。
経済的に心配がないと、すごく前向きになれるんだけど、お金の問題が分からないので、みんないつまで経っても、加害者を恨む。「事件さえなければ」、「お父さんさえ生きてれば、こんなに経済的な困窮しなかった」、そういったことがあるので、これはもう社会的なシステムが、いつどこで、お互いに被害者になるか分からないという前提のもとで、子どもを助けるためにも私は、代執行制度で遺族が前向きに生きられるような社会にしていきたいと、常々思っています。
お父さんも殺されて、自分の夢も奪われて、そんな子どもたちに「前向きになれ」といっても、それは嘘ですよね。みんなが、国が救ってあげないと、その子たちがちゃんと大学を出れるようになれば、いったんそこで貧困のサイクルが止まるじゃないですか。
だからそのためにも、代執行制度はやらないといけないなと思っています。
国の支援制度を充実させるべきかについて
Q.犯罪被害者への国の支援制度もあるが、もっと支援制度を充実させるべきか
民事でしないと、100件遺族があっても、100件金額が違いますので、そこで民事裁判で(金額を)決めてくれれば、みんなが納得するじゃないですか。
(被害者が)1億を要求したばかりに、加害者が裁判にも出ず、欠席裁判で1億になったというよりは、やっぱりちゃんと裁判をやって、金額をちゃんと決めて、それが妥当だなという金額になったら、みんな納得できるじゃないですか。
例えば1億の判決が出たとしても、ご自身で生命保険3000万円かけていたら、7000万円にしてもいいじゃないですか。
その足りない分を、国が代執行制度で支払うとか、いろんなことをやってほしいんですよね。
今のように被害者給付金で最初、「ごめんなさい、事件起きちゃったので1000万円くらい出します」とかではなくて、ちゃんと「1億の判決が出れば、生命保険3000万円、犯罪被害者給付金1000万円も出してるので、6000万円だけは国が負担しますよ」でもいいじゃないですか。
そういったことを前向きに、国には取り組んでほしいなと思います。


