子どもの頃の川遊びの定番、水切り。その水切りの大会が岐阜県で開かれました。大会に人生をかけて挑む名古屋の水切り名人に密着です。
【写真を見る】「石と一緒に棺桶入りたい」 トレーナーの個人指導まで受けて理想のフォームを追求 “水切り”に人生をかける32歳名人
河原で平たい石を見つけると、つい水面を目がけて投げてみる…そんな経験ありませんか?
子どもの頃、誰もが一度はやってみる「水切り」に、人生を賭けて夢中になる大人たちがいるんです。
岐阜の清流・長良川。広い川幅に、河原にはたくさんの石。水切りにはもってこいです。
そこで5月に開かれたのが「第3回ぎふ長良川水切り大会」。ルールはシンプル。「石が水面を跳ねた回数」を競います。しかし、水切りと言って侮るなかれ。日々鍛錬を重ねる名人たちの技は…
名人たちが口にする「1人の男性」
石はまるで、水面スレスレを飛んでいるかのよう。大会は国の内外で開かれ、世界大会も存在します。
そんな名人たちに話を聞くと、「1人の男性」の名を次々と口にします。
(横浜から参加 侯寧さん)
「名古屋に住んでいる選手というと木子さん。結構強力な相手」
(大阪から参加 小阪洋平さん)
「東海といったら木子さんでしょ。真剣に取り組んでいるからこそ、変態に見えるっていうか」
石に人生を懸ける人々に密着しました。
「こだわらないと結果は出ない」6時間かけて河原で理想の石探し
5月上旬、長良川の河原には、うつむいて歩き回る人たちが。
その1人が“変態”と評されていた木子晃成さん32歳。2年前の長良川大会で準優勝するなど、児童福祉に関わる仕事をしながら、全国の大会を回る実力者です。
このは名古屋の水切り仲間とともに、大会に向けた「石探し」。
木子さんが求めるのは、指の引っかかりが良く、平たくてなおかつ、指の太さより厚みがある石。石が薄すぎると、指に引っかからず、すっぽ抜けてしまうのだそう。
直射日光を受けながら河原を歩き回ること、実に6時間。袋いっぱいの石を集めましたが、大会で投げる“一軍候補”と呼ぶ石は、わずか2、3個。
(木子晃成さん)
「(石にこだわらないと)結果は出ない。絶対出ない。どれだけいい石を、こういう河原に来て見つけるかが一番大事です。技術云々より、まずは」
理学療法士のトレーナーを付けて投げ方のレッスン「理想の水切りフォーム」追求
大会前のある日には…
(理学療法士・トレーナー 伊藤宏治さん)
「重心がこっち(左側)に乗り切っていない。手元で投げちゃっている」
隣にいるのは、理学療法士の伊藤宏治さん。なんとお金を出して個人レッスンを依頼し「理想の水切りフォーム」を追求しているのです。
(伊藤さん)
「あ~いいですね!今のは良かったです」
伊藤さんも最初は驚いたと言いますが、今では木子さんの熱量の虜に。
(伊藤さん)
「僕も経験がなく(まず練習に)お邪魔したんですけれど、そうしたら木子さんの水切りに対する熱量がすごくて。遊びをもっと進化して競技という形に持っていくことができるんだと感じた。遊びを超えているということ」
「水切り」の研究論文も 大切なのは「回転」と「傾き」
そもそも、石はどのように水面を跳ねるのか。実は水切りに関する学術論文も存在します。
それによると、重要なのは石の「回転」と、水面に対する「傾き」。高速の横回転は石を安定させ、水面との角度は「約20度」。これが最もスピードを落とさず、跳ねる回数も増えるといいます。
論文を書いた仙台高専総合工学科の永弘進一郎教授に、木子さんの水切りを見てもらうと…
(仙台高専総合工学科 永弘進一郎教授)
「1回目の衝突で石の姿勢が変わって、2回目の衝突の時にはうまいこと適切な角度になっているので、石が滑っている状態の時は石と水面の角度20度が回転によってきれいに保たれていて、水面を這うように滑るような状況が実現できている」
(木子さん)
「ただ川に石を投げているだけ。なのに、みんな水切りを見たら『わー!』って言う。心を突き動かす何かがそこにあるんじゃないですかね。見た人が感動するような水切りをしたい」
研ぎ澄ませた技と執念を、長良川の水面にぶつける時。いよいよ、大会本番です。
元世界チャンピオンや国内4大会を全制覇した強者との対決が
今年、名人の部に出場したのは14人。その中に木子さんが最も意識する水切り名人がいました。世界チャンピオンになった経験もある橋本桂佑さんです。
(木子さん)「(橋本さんは)ライバルでもあり仲間でもある」
(橋本桂佑さん)「(木子さんは)優勝するには越えなければいけない壁」
長良川大会名人の部2連覇、去年開催された国内4大会を全て制した、中国出身の侯寧さんも、木子さんをライバルとして意識していました。
(国内4大会全制覇 侯寧さん)
「(木子さんは)これからさらに強くなると思う。強敵になる」
水切りには厳しい「長良川」 今回の大会は…?
水切りにとって、とりわけ厳しいのがここ長良川。川の流れが速く風も強いため、水面が荒れ、回数が伸びにくいのです。
トップバッターは木子さん。まずは、1投目。
(1投目)「12回です」
(2投目)「…あーっ」「3回です」
記録は12回と、3回。
(木子さん)
「波が強いんで、三日月系のこういう石に変えて」
波を読んだ木子さんは、その場で使う石を選択。背水の陣で迎えた3投目。記録は…10回。
残るは、最後の一投。
(4投目)「5回です」
悔しそうな木子さん。最高記録は一投目の12回で、14人中6位タイでした。
(木子さん)
「個人的にはすごくいいリリース、投げ方はできたんですけど、川やられちゃった感じはある」
名人の部の優勝記録は16回でした。
それでも水切りは生きがい…「石と一緒に棺桶に入りたいぐらい」
全てをかけて臨んだ大会でしたが、及ばなかった木子さん。それでも…
(木子さん)
「(水切りとは)自分が生きていると感じられるものなのかもしれない。自分の投げた石が水面の上に残っている時って、自分が自然の中に受け入れられたような気分になる。目標は死ぬまで水切りを続ける。石と一緒に棺桶に入りたいぐらい。ハハハ」
水面を跳ね続ける石のように。木子さんの挑戦も続きます。


