近鉄はこの秋、車内でフレンチのフルコースなどを提供する新たな観光列車の運行を始めます。運行開始に向けて着々と進む車両のリニューアル作業の現場を取材しました。
近鉄初の挑戦!豪華料理を楽しむ「Les Saveurs(レ・サヴール)志摩」

大阪府八尾市にある、近鉄の車庫。ここで作っていたのはレストラン列車です。
近畿日本鉄道 鉄道本部 花岡靖浩さん:
「近鉄初のレストラン列車『Les Saveurs志摩』になります」

「Les Saveurs志摩」は、この秋運行を始める、レストラン列車。名古屋と伊勢志摩を、およそ2時間半で結びます。食をテーマにしていて、車内では志摩観光ホテルの総料理長が監修した本格フレンチのフルコースや、近鉄・都ホテルズ監修の「フレンチ膳」を味わうことができます。
運行開始まで半年ほどとなった現在は、車両のリニューアルや職員の研修などを進めています。新たなレストラン列車の土台となるのは、4両編成の特急列車「12400系」の車両です。1977年に投入され「サニーカー」の愛称で親しまれてきました。
この車両のデザインやレイアウトを一新して、レストラン列車に生まれ変わらせます。特別に、車両の内部を見せてもらいました。
近畿日本鉄道 鉄道本部 花岡さん:
「元々、特急車両ですので、たくさん椅子が並んでいたんですが、一旦撤去した状態になります」
伝統の12400系がラグジュアリーな空間へ生まれ変わる

車内の設備の配置は一から作り直しに。現在は、骨組み作りが行われていました。
この車両の完成イメージでは、ラグジュアリー感のある椅子とテーブルの2名席と4名席が配置されています。4号車は定員16人で、食事をゆっくり楽しむことができるよう、座席の空間にゆとりを持たせています。また、レストラン列車ならではのこだわりもあります。
近畿日本鉄道 鉄道本部 花岡さん:
「12400系では元々違う車両にトイレがあったんですが、今回レストラン列車ということで、キッチンからお客様がおられる客室の方に食事を運ぶ際に、トイレの前を通るというのはいかがなものかということで、別の車両に移設しました」
今回、キッチン車となる3号車にあったトイレを、4号車に移設することに。食事をより楽しんでもらうための、細やかな工夫のひとつです。
近畿日本鉄道 鉄道本部 花岡さん:
「こういう古い車両につきましても、こういった大改造をすることで、また新たな魅力が生まれることを楽しみにしていただければなと思います」
なぜ今7億5000万円を投じてレストラン列車なのか

近鉄は、初めての試みとなるレストラン列車の投入に、7億5000万円の費用をかけています。なぜ、レストラン列車の投入に乗り出したのでしょうか。
近畿日本鉄道 鉄道本部 矢部元さん:
「お客様のニーズの調査と分析等々したところ、食をコンセプトにした列車に非常に関心が強いことが判明しましたので、当社沿線の中でも、食材の宝庫と言われている伊勢志摩をターゲットに投入することになりました」
名古屋ー伊勢志摩間の近鉄特急列車の利用人数は、まだ新型コロナウイルス流行前の状態には戻っていません。新たな列車の投入で、近鉄沿線の地域の盛り上がりにも期待がかかります。
近畿日本鉄道 鉄道本部 矢部さん:
「地方というのは人口減少が進んでいますので、今企画を皮切りに伊勢志摩の地域の魅力をPRしていって、弊社の電車を利用して伊勢志摩に訪れる方を増やしていきたいと考えております。将来的にはインバウンドの需要も取り込みたいと思っております」
全国で激化する観光列車ブーム!JR・私鉄各社の最新動向

今回近鉄は初めてレストラン列車を導入しますが、全国的にものような観光列車が増えています。全国の主な豪華な観光列車、レストラン列車の一部は以下の通りです。
JR北海道 赤い星(2027年2月予定)
JR東日本 TRAIN SUITE 四季島、TOHOKU EMOTION、海里など
近畿日本鉄道 Les Saveurs志摩(2026年秋に運行開始)
南海電鉄 GRAN天空(4月運行開始)
JR四国 伊予灘ものがたりなど
JR九州 かんぱち・いちろく、ななつ星in九州、或る列車など
しなの鉄道 ろくもん
長野電鉄 北信濃ワインバレー列車
えちごトキめき鉄道 雪月花など
「Les Saveurs志摩」のように車窓から見える風景を楽しみながら本格的な料理を堪能するといったコンセプトの列車は、スタッフが調べただけでも全国で20以上ありました。
近鉄の観光列車は2026年秋に運行開始の予定ですが、同じく関西の南海電鉄も4月から豪華な食事がついた特急の運行を予定しています。また、JR北海道「赤い星」は札幌ー網走間でランチが楽しめる列車を2027年2月から運行する予定です。このように、各社が次々と豪華な観光列車の運行を計画しています。
鉄道ジャーナリスト梅原淳氏が語る「観光列車の経済学」

ここからは鉄道各社の運営に詳しい、鉄道ジャーナリストの梅原淳さんにお話を伺います。
ーー各社趣向を凝らした列車を走らせているんですけれども、なぜ多くの鉄道会社がこのように観光列車やレストラン列車に取り組んでいるんでしょうか。
鉄道ジャーナリスト 梅原淳さん:
「多くのお客さんを取り込みたい・客単価を上げたい、という中で、その鉄道会社の沿線にある著名な観光地をPRしたり、その景色を紹介したりすることに注力しています。また第三セクター鉄道にとっては、とにかくお客が乗ってくれること自体が非常に重要ですので、そのPRにもなるということで、各社その観光列車を導入しています」
ーー鉄道会社が話題を作って注目を集め、集客もし、客単価も上げて、地元の観光地の魅力もPRする、というところまで担っているということなんですね。
鉄道ジャーナリスト 梅原さん:
「そうです。鉄道会社のPRとともにその地域の街おこしにもつながるということですね。JR四国もそうです。四国の瀬戸内海を臨む観光列車の景色が絶景というのはもう鉄道を知っている人には知られていたんですが、一般の方々には知られていなかったので、大きなPRになっています。しなの鉄道の長野県の観光列車は、軽井沢と長野駅を結んでいるんですが、浅間山などの綺麗な景色をゆったりと楽しめるということで。これは第三セクター鉄道ですので、より多くの乗客が集まるということが重要なんですね」
豪華列車は儲かるのか?高い固定費と利益率のリアル

ーーちょっと豪華な旅だなというイメージがあるんですけれども。先ほど梅原さんも仰ってました、客単価を上げたいとありました。ズバリ収益は見込めるんですか?
鉄道ジャーナリスト 梅原さん:
「そもそも鉄道会社は売上の9割ぐらいが固定費として出ていくんですけれど、その中でも特急列車は利益率が高く、2割から3割ぐらいあると言われているんですね。観光列車ももちろん大きな利益が得られますが、車両の改造費がかさむほか、食事を出すとなるとシェフやスタッフの人件費、食材費も発生します。そのため、利益率そのものはそれほど高くならないと推測されます。ただもちろん、料金は高く設定できますから、赤字ということはないと思いますね」
深刻な人材不足と大手私鉄が抱える「高すぎる利用率」の悩み

ーー東海地方において、名鉄とかJR東海がレストラン列車とか観光列車を運行していないというのは、収益の問題も挙げられるんですかね。
鉄道ジャーナリスト 梅原さん:
「たとえばJR東海でいうと、飯田線でトロッコ列車などの観光列車を走らせていたことがありますし、2000年ほどまで新幹線でも食堂車を走らせていたことがあるんですが、JR東海や名鉄は、そもそも利用者が非常に多く、通常の特急列車だけで十分に需要があります。特別な列車を走らせる車両の余裕や、深刻な人手不足といった課題もあり、導入が難しい側面があるのでしょう。これはもう鉄道会社の考え方次第なのですが、たとえばJR東海では新幹線への個室導入も予定されていますし、今後余裕ができれば、豪華なレストラン列車が生まれる可能性もゼロではありません」
ーーそれぞれの役割を果たしながら、人材不足が解消できるのであれば、ということですね。
鉄道ジャーナリスト 梅原さん:
「そうですね。各鉄道会社のそれぞれの事情があるので、一律にはいかないんですが、その魅力を感じていることは確かです」
目的地への移動から旅の過程を楽しむ時代へ

ーー鉄道会社の課題をクリアしつつ、魅力を発信することが求められているのですね。一方で、利用者側の「観光列車へのニーズ」は高まっているのでしょうか?
鉄道ジャーナリスト 梅原さん:
「近鉄さんの説明にもあった通り、単なる『目的地への移動手段』としてではなく、『旅のプロセスそのもの』を楽しみたいというニーズが非常に強まっています。日常的に利用する列車とは異なる『非日常の体験』を求めているんですね。たとえばシニア層の方々にとっては、かつての食堂車のように『車内で食事が楽しめる旅』は、どこか懐かしさを感じる魅力的な体験になります。JR九州の『ななつ星 in 九州』が良い例です。今では全国的に珍しくなった寝台車や食堂車を連結し、車内販売すら減りつつある現代において、あえて『豪華な鉄道の旅』を提供することで絶大な人気を博しています。ツアー形式の販売ですが、過去には倍率が300倍に達したこともあるほどです」
ーー今後は、より多様なニーズに応える列車が登場しそうですね。
鉄道ジャーナリスト 梅原さん:
「そうですね。たとえばファミリー層向けに、もう少し手頃な価格帯で特別な体験ができる列車や、インバウンド(訪日外国人)向けに、現代の日本では見かけなくなった『純和風』な装いの列車など、ターゲットを絞った新しい形が生まれる可能性があります。」


