
「ポイ捨て」に「意図しない流出」藤前干潟で漂着ごみの実態調査 種類別の把握が海洋ごみ対策の一歩に

2050年には魚より量が多くなると言われる海洋ごみ。海洋ごみの多くは河川周辺に散乱するごみが原因と言われていて、国や県などでは河川の「散乱ごみ」に注目した議論もすすめられています。
今回は愛知県の藤前干潟周辺で行われた河川の散乱ごみの調査に密着。藤前干潟には上流の河川から流れてきた「散乱ごみ」が漂着しています。河川の散乱ごみの実態から海洋ごみを減らすヒントを探りました。
伊勢湾に流れる年間1.1万トンの海洋ごみ 削減のヒントは藤前干潟周辺での実態調査

今回、散乱ごみの実態について調査を行うのは三重県と八千代エンジニヤリング。伊勢湾に流入する河川の河川敷などに散乱するごみの実態を把握することに加え、参加者に身近な場所のごみの散乱状況を実際に見て知ってもらうことで、伊勢湾の海洋ごみの削減につなげることが目的です。
伊勢湾の流域で発生する海洋ごみは、年間1万1000トンを超えると言われています。河川から流出したごみは伊勢湾に流れて海洋ごみとして漂い、一部は離島に流れ着き大きな問題となっています。伊勢湾の海洋ごみは主に愛知県、岐阜県、三重県の流域圏から発生していて、3県が連携を図りながら実態の把握と発生抑制の対策がすすめられています。

調査は10月19日、藤前干潟クリーン大作戦実行委員会による愛知県の藤前干潟周辺での清掃活動、「藤前干潟クリーン大作戦」と連携して行われました。調査の場所は新川と庄内川の下流、可燃ごみ焼却工場「南陽工場」の向かいにある護岸です。縦30メートル、横20メートルの中の1区画で約1時間かけて行われました。

調査に協力したのは、海と日本プロジェクト岐阜が企画した「藤前干潟海ごみ学習体験ツアー」に参加した岐阜県の小学生とボランティアスタッフ、伊勢湾の漂着ごみ問題を研究する四日市大学の千葉賢教授、分析を行う八千代エンジニヤリングの社員など合わせて23人です。
取りきれないほどの漂着ごみ 大量のペットボトルにマイクロプラスチックも

今回の調査は、ペットボトルとプラスチック製食品容器、レジ袋の3種類のごみが対象。対象のごみを採取して数量を計測し、その他に拾ったごみもあわせてデータシートに記入します。

調査では、斜めになっている護岸を降り、護岸の下でごみを採取。かごにごみを入れ、かごをロープなどで引っ張り上げ、護岸の上で採取したごみを分類します。

目立ったごみはペットボトル。護岸の下のあちらこちらに落ちており、どこから手をつけいいかわからないほど。中には土に埋まっているペットボトルもありました。

作業を始めて約10分。拾われたごみでかごはすぐいっぱいに。
岐阜から参加したボランティアの大学生:
「ごみが多いとは聞いていましたけど、こんなに多いのにはびっくり。正直拾いきれないですね」

プラスチックごみ以外に、細かな木も流れてついています。他にはこんなごみも。
岐阜から参加した小学生:
「ボールあったー! なんでこんな所にあるの?」

さらにごみ拾いをする護岸の下の足元にはきらきら光るものが。これは、近年問題となっている「マイクロプラスチック」。プラスチックごみの中でも、直径5ミリメートル以下の破片です。プラスチックが劣化して細かく砕けていて、海面を浮遊し、一部は海中や海底に沈んでいきます。

岐阜から参加した小学生:
「カニ見つけましたー! かわいい」
こんな大量のごみの中でも、懸命に生きている生物もいました。
今回の調査では、45リットルのごみ袋で換算すると、ペットボトル15袋、プラスチック製食品容器6袋、レジ袋は数枚、その他のごみはボール10個や流木などが採取されました。
「ペットボトルがめちゃくちゃ多い」プラごみを種類別で把握することで対策しやすくなる

今回の調査結果でどのようなことが分かるのか。調査や解析を行う八千代エンジニヤリングの吉田拓司さんに話を聞きました。
―――河川のごみの調査によってわかることはどのようなことですか
「最終的にそれぞれのプラスチックの使用、廃棄、漏洩の流れが調べられます。あるプラスチック製品が作られて、どのくらい使用されて、適切に廃棄、リサイクルされ、どの程度が漏洩しているか、漏洩も含めてそれぞれの割合がわかることになるので、将来的にはプラスチックごとに(ごみを減らすには)どこの段階で対策を打つのが効果的なのかがわかる基礎情報になるんです」

―――今回の藤前干潟の調査ではどのようなことがわかりますか
「ペットボトルがめちゃくちゃ多いというのは間違いないです」
―――結果を受けて、どのような対策が考えられますか
「ペットボトルに関連した企業にごみの現状を伝えて、一緒に対策をしていくことが将来的には必要なのかもしれないです。ただ、ペットボトルだけが悪者というわけではなく、いろいろなプラスチック製品を対策しなければならないと思うんです。今回はペットボトル、食品容器、レジ袋に着目しましたが、他の場所ではペットボトル以外のごみが多い可能性もあるので」
伊勢湾の防波堤「藤前干潟」 調査や清掃活動の役割とは

調査に参加した四日市大学環境情報学部の千葉賢教授は、藤前干潟周辺で調査や清掃活動をすることは、伊勢湾の海洋ごみ問題を解決するために大きな意味があると話します。
―――伊勢湾の海洋ごみ問題とはなんですか
「伊勢湾の海洋ごみは流木などの自然ごみと、いわゆる人間の生活で出てくる人工ごみです。プラスチックごみであるとか缶、瓶であるとか、生活から出てくるごみが我々の生活圏から海に流れ出て、伊勢湾の海岸に漂流して環境に影響を与えているという。これが伊勢湾にとっての海洋ごみ問題です」

―――藤前干潟での調査や清掃活動が果たす役割はどのようなものですか
陸から出てきて、海に出るところのちょうど境界の河口部ですよね。ごみが陸から出てきて海に出る前に、どれぐらいごみがあるのか、溜まっているのか、ということに関係していて、特にこの庄内川の河口は葦が生えているので、植物が生えているとそこにごみが引っかかるんです。
干潟はごみの防波堤になっているので、調査やクリーン大作戦でごみを取って分析することで、伊勢湾に出るごみを減らせる可能性が高く、非常に役割があるなと思います
―――藤前干潟のごみを減らすために必要な対策はなんですか
「ポイ捨てごみ」「不法投棄」「意図しない流出ごみ」。3つの対策がそれぞれ必要です。
「ポイ捨てごみ」は学校教育や市民の意識喚起の活動が必要です。特に車からのポイ捨てごみを社会問題として大きく取り上げていただくことも重要だと考えます。「不法投棄」は統計的には減ってきていますが、廃棄物処理法に基づく罰則で取り締まるのが適当と考えています。「意図しない流出ごみ」は市町村や自治会に呼び掛けて、ごみステーションの管理を徹底的に行うのが適切です。
OECDなどの調査によると、陸から海へ流出する海洋ごみは「廃棄物の不適切な管理による漏洩」と「ポイ捨てごみ」の2つだと言われていますが、日本では河川や河川敷の「ポイ捨てごみ」が多いと言われています。調査や清掃活動を続けることで河川のごみの実態を把握して、市民や企業に意識喚起を行うことが、海洋ごみの発生抑制に繋がっていくと考えられています。
※この記事は、テレビ愛知と三重県、八千代エンジニヤリングよる共同企画です。