「オルカン一択」でいい? 元ゴールドマン・松井雅章さんが語る“国債NISA化”と個人投資家の強み

名古屋証券取引所とテレビ愛知が共同で運営するYouTubeチャンネル「あしたのマネー」。
今回も、元ゴールドマン・サックス証券で、現在は「金融経済アカデミー」の共同代表を務める実業家・松井雅章さんを迎えます。
株を買うとき、その株を「売っている人」のことまで考えたことはあるでしょうか。
自分が「ここだ」と思って買った瞬間、その反対側には、必ず「今は売る」と判断した誰かがいます。
金融市場で20年以上の経験を持つ松井さんが語る、マーケットの“生々しさ”。さらに、個人投資家だからこそできる「甘い球が来るまで待つ」という投資の考え方、円安が続く日本の構造的な課題、そして議論が続く個人向け国債のNISA対象化まで、幅広く聞きました。

株を買った瞬間、反対側には「売った人」がいる

松井雅章さん

「松井さんは、お金が好きですか?」
岡田アナのストレートな質問から話は始まりました。
松井さんにとって、お金は「自分に多くの選択肢を示してくれるツール」。一方で、20年以上にわたって金融の世界に身を置いてきた理由を問われれば、金融市場そのものが「好きだから」だといいます。
証券会社を離れ、以前より自由に個別株を見ることができるようになった今、改めて感じているのが、金融市場に映し出される「人間模様」の面白さです。

株式市場では、「絶対に上がる」と思って自分が株を買っても、売ってくれる人がいなければ取引は成立しません。
つまり、自分が「ここは買いだ」と判断したその瞬間、必ず反対側に「売る」と判断した誰かがいることになります。
その相手は、損失に耐えられず強制的に売却している投資家かもしれません。
逆に、これから数千億円規模で売ろうとしている巨大な機関投資家かもしれません。
もし後者なら、個人投資家の自分よりはるかに大きな資金力を持つ相手が、確信を持って反対側に立っていることになります。
「自分が売買した時には、必ずその裏に、同じくらい確信を持って反対サイドにいる人がいるかもしれない」
松井さんは、そうした相手の存在を意識するだけでも、マーケットの見え方は変わってくると話します。

大きなリスクを前にしても動じなかった「天才トレーダー」

松本慈子さん(SKE48 )

松井さん自身、トレーディングの仕事で「胃が痛くなる」ような経験は何度もあったといいます。
そんな松井さんが、ゴールドマン・サックス時代に「天才だ」と感じたトレーダーがいました。
現在、AIスタートアップ「Sakana AI」の共同創業者兼CEOを務めるデイビッド・ハさんです。

松井さんがゴールドマン・サックスで営業を担当していた当時、ハさんはトレーダー。松井さんが大きな金額の取引について相談を持ちかけても、その反応はいつも驚くほど冷静だったといいます。
「OK。いつでも決めていい」
市場の状況を考えれば、「この時間はやめてほしい」と言われてもおかしくないような取引でも、動揺することはなかったそうです。
松井さんは、その理由を「自分が今、どんなリスクを取っているのかの解像度が非常に高かったからではないか」と振り返ります。
リスクがないのではありません。
大きなリスクを取っていることを分かったうえで、その大きさを把握し、必要な判断ができている。
だから慌てない。
その姿を間近で見た松井さんは、「こういう人たちと、トレーディングというゼロかイチかの世界で対峙するのは大変だ」と感じたといいます。

個人投資家は「甘い球が来るまで振らなくていい」

岡田愛マリーアナウンサー(テレビ愛知)

では、そんなプロの世界を知る松井さんは、今、自分のお金をどう運用しているのでしょうか。
キーワードは「甘い球」です。

「ホームランを打つぞ、全打席で振ってやるぞ、という感じではない。甘い球が来た時だけ振らせてもらえれば」

松井さんが例に挙げたのが、ウォーレン・バフェット氏の投資哲学です。
プロの機関投資家には、「何もしない」という選択が難しい場面があります。
例えば、生成AIや半導体関連株が大きく上昇しているとき。
その銘柄を全く持っていなければ、「これだけ上がっているのに、なぜ持っていないのか」と問われることがあります。
野球で言えば、ストライクが来ているのにバットを振らない状態です。

しかし、個人投資家は違います。
「明らかにストライクが来ても、『まあいいか』と言っても誰に怒られるわけでもない」
相場が上がっているからといって、慌てて参加する必要はありません。
自分が理解できない投資先なら見送る。
本当に「これはチャンスだ」と思える場面が来るまで待つ。
松井さんは、それこそが個人で運用する人が持っている大きな強みだと話します。
プロと同じように毎回バットを振ろうとするのではなく、自分が納得できる「甘い球」が来るまで待つ。
投資を始めると、つい「何かを買わなければ」と思ってしまいますが、「買わない」という判断もまた、一つの投資判断なのです。

円安は「日銀が利上げすれば終わる」ほど単純ではない

現在のマーケットは

話は、日本を取り巻く経済環境へ。
松井さんは現在のマーケットを「誰がやっても難しい」と表現します。
円安一つを取っても、「日銀が利上げすれば流れが変わる」という単純な話ではないといいます。

日本は原油や食料など、生活に欠かせない多くのものを海外から輸入しています。
海外から何かを買うためには、当然、その代金を海外に支払わなければなりません。
一方で、日本から世界へ提供し、海外からお金を受け取る商品やサービスが十分になければ、お金は外へ流れていきます。
さらに現在は、デジタルサービスでも海外企業への支払いが増えています。
「ChatGPTに聞いたら課金しなければいけない。またデジタル赤字。Gemini……GoogleでGmailを使って、YouTubeで配信されて……『これもそうか』って」
松井さんは冗談を交えながらも、日本から海外へお金が流れていく構造は「根深い」と指摘します。

では、どうすればいいのでしょうか。
エネルギーの輸入量を少しでも減らす。国内で生み出せるエネルギーを増やす。国産のAIやデジタルサービスを育てる。そして、世界から必要とされる商品やサービスを増やしていく。
一つの政策ですべてを解決できるものではなく、時間をかけて一つひとつ取り組んでいく必要があると松井さんはいいます。

「そんな危険な債券を買わせるな」で終わっていいのか

「国債を得か損かだけで見るべきではない」と松井さん

こうした日本経済の話から、議論は「国債」へ移ります。
片山さつき財務相が、個人向け国債のNISA対象化を含む税制措置について言及したことを受け、SNSではさまざまな意見が飛び交っています。
その中には、
「そんな危険な債券を買わせるな」
といった反応もあると松井さんはいいます。
しかし、松井さんは、国債を単に「投資商品として得か損か」という視点だけで見てしまうと、重要な部分を見落とすと指摘します。

国は、医療や社会保障、防衛、インフラなど、私たちの生活を支えるために多くのお金を使っています。
その財源の一部を国債によって調達していますが、国がお金を借りるコストが上昇すれば、国債の利子を支払う「利払い費」も増えていきます。
利払いに充てるお金が増えれば、その分、私たちの暮らしを支えるために使えるお金は圧迫されます。
道路や水道管などのインフラが老朽化しても十分な予算を確保できない。医療をはじめ必要な分野へお金を回しにくくなる。
国債をめぐる問題は、金融市場の中だけで完結する話ではありません。
「どんどんしわ寄せが来るのは、まさに僕たちの生活。全然これ、他人事ではない」
松井さんはそう話します。

「俺はオルカン一択」で思考を止めない

自分で考えて選ぶことが大切

新NISAをきっかけに、「オルカン」と呼ばれる全世界株式型のインデックスファンドを積み立てている人も増えています。
松井さんは、そうした投資を否定しているわけではありません。
問題にするのは、
「危ない商品だから知らない。俺はオルカン一択」
と、それ以上考えなくなってしまうことです。

自分たちが暮らす社会では、どこからお金が入り、どこへ流れているのか。
国が国債を発行することにはどんな意味があり、その調達コストが上がれば自分たちの生活にどう影響するのか。
そうした仕組みを理解したうえで、「それでも自分はオルカンを選ぶ」というのであれば、それは一つの投資判断です。
大切なのは、誰かの意見をそのまま受け入れるのでも、反射的に否定するのでもなく、自分で考えたうえで選ぶことだと松井さんはいいます。

投資も日本経済も「自分事」として考える

金融も経済も自分事として考えることが大切

今回の話には、株式投資と国債、日本経済という一見別々のテーマに共通するものがあります。
株を買うなら、自分の反対側にいる人を想像する。
相場が上がっていても、自分が納得できなければ「甘い球」が来るまで待つ。
国債の議論を聞いたときには、「自分には関係ない」と切り離すのではなく、その先にある暮らしまで考えてみる。

松井さんが繰り返し語ったのは、金融や経済を「誰かの話」にしない姿勢でした。
マーケットで自分のお金をどう動かすか。
そして、自分たちが暮らす国で、お金がどう動いているのか。
その両方に目を向けることで、ニュースや投資情報の見え方も少し変わってくるのかもしれません。

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