泡沫候補はなぜ選挙に出たのか 巨大テーマパーク旗印に名古屋市長選に挑んだ男性のSNS選挙にかけた戦い

2024年11月の名古屋市長選挙には、過去最多の新人7人が立候補し、前市長の後継者と各党相乗り候補の戦いに注目が集まりました。
そんな中、選挙戦に挑んだひとりの男性がいました。泡沫候補と呼ばれながらも、なぜ選挙に出るのか。選挙戦を追いました。
訪日客の“名古屋飛ばし”「何とかしたい」

「皆さん、おはようございます。この度名古屋市長選挙に立候補しました水谷昇(のぼる)と申します。私は東山動植物園みたいに楽しいテーマパーク、巨大なテーマパークを、名古屋に誘致したいと考えています」
名古屋市長選挙に立候補した水谷昇さん(61)。名古屋で外国人観光客向けの旅行会社を経営する水谷さんは、ある危機感を抱いています。訪日客の”名古屋飛ばし”です。

水谷昇さん:
「だいたい年間20本のツアーをやっているが、そのうち名古屋に寄ったのは1本だけ。こういうふうに名古屋をぐるっと飛ばす。ここを何とかしたいんです」

2024年11月1日、水谷さんは出馬会見に出席しました。
水谷さん:
「なぜこんなどこの何物でもない61歳のじいさんが名古屋市長選挙に出るのかということだが、名古屋はインバウンドの場所として存在感がほぼゼロに近い。私の国際的な感覚で、名古屋を国際都市にしていきたいと考えています」

名古屋市長選挙には、前職の後継者や各党相乗り候補をはじめ、あわせて7人が出馬しました。前市長の後継候補の広沢一郎さんと、4党相乗り候補の大塚耕平さんとが激戦を繰り広げた注目の選挙です。
組織の裏付けがない“泡沫候補”

注目の選挙戦に単身で乗り込んだ水谷さん。巨大テーマパークの誘致を公約の筆頭にかかげ、1人、街頭で支持を訴えました。しかし、演説中に仕事の電話がかかってきます。
水谷さん:
「じゃあそれキャンセルしといて、自分でやって、私忙しいからお願いします。大変なトラブルだ……」
オーストリア人のツアーの日程調整に手違いがあったようですが、体は1つしかありません。

水谷さん:
「今回初めてなのでこんなに大変だと思わなかった。アナログの労力という面、組織はアナログの肉体的な労力を動員できるので、あと組織力があると、何々党の推薦だとメディアが有力候補扱いするので、そういった組織の裏付けがない候補は泡沫(ほうまつ)候補で、結局当選する見込みがないということで、メディアも取りあげてくれないわけですよ。
そうするとますます可能性がなくなる。市民がそれ(政策)を評価する前の段階で足切りですよね」
SNSの普及で変わる選挙の在り方

近年は“SNS選挙”によって、ニッポンの選挙の在り方は大きく変わろうとしています。いままでのように、組織の後ろ盾があてにならない世界です。水谷さんはそのSNSに希望を見いだしました。組織の後ろ盾があろうとなかろうと、同じ土俵で自らの政策を世に訴えることができます。
「名古屋にディズニーランドみたいなテーマパークあったらすごくね!」

そして選挙戦最終日。水谷さんはまだ当選をあきらめていませんでした。
「皆さんこんにちは、名古屋市長選挙に立候補している水谷昇と申します。よろしくお願いします。次の選挙、名古屋市民にとってとても大切な選挙です。ぜひ投票してください」
水谷さん:
「投票率が上がらないと組織票が強い。とにかく投票に行ってくださいということを前面に出してやっています」
投票率は前回比2.49%マイナスの、39.63%。広沢一郎さんが当選しました。水谷さんは4位で、1万2000人以上の有権者から支持を得ました。

年が明けて水谷さんは、高校の同級生と4年ぶりに同窓会を開きました。
水谷さん:
「俺は当選するつもりだったけどね」
同級生:
「当選みたいなもんだよね、1万票も入って」
水谷さん:
「本当に頭が下がります」
同級生:
「びっくりしたよ、テーマパークは引っ込めるの?」
水谷さん:
「いや、テーマ―パークは絶対に必要なの。東京と大阪に置いていかれないために。だからそれを俺がつくる」

水谷さんは今回の選挙の経験を次に生かしたいと力を込めます。
「今回の選挙は、最初で最後だと思っていました。ところがやってみて、1万2000人の支持も得て、この経験を生かしたいと思っています。名古屋を東京と大阪に負けない街にしていくために、また別の選挙に出てこれを訴えていきたいです」