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映画『ディア・ファミリー』の原作者・清武英利さんが語るノンフィクションの苦悩 「プロデューサーとはいつも取っ組み合い」

こんにちは!テレビ愛知アナウンサーの長江麻美です。


先日、テレビ愛知の番組「キン・ドニーチ」のスタジオに、映画『ディア・ファミリー』の原作「アトムの心臓」(文春文庫)の著者である清武英利さんが来てくださいました。MCの小島よしおさんと共に、著書の裏側についてたっぷり伺いしたので、その内容を公開します!


清武英利さん
1950年10月12日生まれ・宮崎県出身
ジャーナリスト・ノンフィクション作家
読売新聞社時代には数々のスクープ記事を執筆

「アトムの心臓」を書くことになったきっかけ

  • 本を持つ著名人2人


長江:「ノンフィクションということで、清武さんが取材をされてこの本を書かれたということですよね?」


清武英利さん(以下、敬称略):
「そうです。22年〜23年前、名古屋の読売新聞の社会部にいましたが、当時は幸せなニュースだけでまるまる1ページ埋めるという幸せの新聞を作ったんです。ある日、筒井さんのご家族の話があって。僕は編集長でもありましたから、見た瞬間に目頭が熱くなりました。こんなことが世の中にあるんだ、と。


それ以来、いつか本に書き残したいという気持ちが芽生えてきて、やっとチャンスが巡ってきました。本になるまでに6年かかりましたね」


土足で踏み込めない領域の先にあったもの

清武:「文系出身の筒井さんが、まったく医療知識のないところからスタート。人工心臓に挑んで、ついにカテーテルにたどり着いたんです」


小島:「すごい話ですね」


清武:「そんなことができるのかな、というのがまずあるじゃないですか。そういう人たちの物語を書きたいと思うじゃないですか。それからもう1つは佳美さんという3姉妹の2番目のお嬢さんが、先天的な心臓病を患っていて。その子を助けたいという気持ちから人工心臓に挑む。


無謀な挑戦かもしれないけど、その話を聞くうちに、佳美さんの青春ってなんだったんだろうって。全人像、全体の人の成り立ち、青春とか人生とか、そういうものを知りたいって思うようになりました。でも、それはご家族にしてみたらなかなかね……もう一度喪失感を味わいたくないとかあります」


長江:「話を聞くことで思い出しちゃいますよね」


清武:「話をすると、皆さん必ず泣くんですよ。家族をなんとしても救いたいという気持ちが、涙としてあふれるんでしょうね。それは土足では踏み込めない領域です。本を書きたい、と思ったときに何か足りないと思っていたものは、お嬢さんの青春、家族の青春だったんです」


小島:「だから時間をかけて、ご家族との距離を縮めていくという感じだったんですね」


清武:「長い間社会部の記者をやっていて、土足で踏み込んでしまったこともあります」


小島:「確かに、私も立場上インタビューに答えるということがあるんですけど、同じ質問でも近い人に聞かれるのと、はじめましての人に聞かれるのだと、答え方が変わってくるみたいなのはありますね」


清武:「インタビューしていても、とにかく記事を書かなくちゃいけないと思うと、どんどん踏み込んでいくじゃないですか。そうすると扉がどんどんどんどん閉まることもあるでしょ?」


小島:「分かる! 俺も急にはじめましての人に『なんで消えちゃったんですか?』『死亡説出た時はどう思いましたか?』とか聞かれたことがありました。時間も限られているから、インタビュアーもグイグイくるんです。いや、もうちょっと……みたいな」


長江:「心の扉は閉まっていきますよね」


実話だからこその苦悩 プロデューサー・監督とは取っ組み合い

長江:「映画ご覧になってみて、どのように感じましたか?」


清武:「僕の作品で映像化されるのは4作目です。正直に言うと、毎回、プロデューサーと監督と取っ組み合いしているようなものなんです。脚本こうじゃないとか、こうしてもらいたいとか、それはあなたが間違っているとか言われるんです」


小島:「原作者なのに?」


清武:「捉え方が違うんだと。結局、映画製作人と私と当事者がいるんですよ。そういう三角関係にあるんですよね。中には当事者が、『俺はあんなに喋ってあなたに書いてもらったけど、映像化されると違う! 俺はもうあなたとは付き合わない』と言われたこともある。映像は、とにかく摩擦とか色んなものを乗り越えなければいけないんです」


小島:「今回は乗り越えていらっしゃる?」


清武:「取っ組み合いでしたよね、やっぱり。本と映像は少し違うんですよね。でもね、今回は感心しましたよ。完成披露試写会にも行ったんですけど、会場からすすり泣きが聞こえるんです。私の隣の隣くらいに長女の筒井奈美さんがいて、彼女も震えたって言っていました。無理に泣かせようとしないで、希望の物語に変えているんです。それがこの映画の工夫だと思いました」


小島:「今の話を聞いて、ますます映画を見たくなりました!」


清武:「映画とノンフィクションは常に競い合ったり争ったりするんですけど、手法が違っても面白いもんだなと思いましたね」


ノンフィクション作家が人間になった瞬間

清武:「初めて見たときは泣かなかったのに、2度目で泣いちゃって。隣にプロデューサーから『泣いてましたね』と言われて、ものすごく恥ずかしかった(笑)人間になった瞬間ですね。あの会場の不思議な空間というのは、これから先、全国に広がっていってもらいたいです」


原作と映画どっちを先に楽しむべきか

長江:「映画と原作、両方に心を打たれた私は、どちらが先でも構わないけれど、とにかく映画も見て原作も読んで、ご家族のことを深く深く知っていただきたいと思いました」


小島:「どっちを先に読んだ方がいいですか? 原作者としては」


清武:「悩むな~これは悩みだな~。僕は本が好きだから本を多分先に読みますよね」


小島:「本からかな、本からいこうかな」


長江:「私は映画を見てから本がオススメです! 映画を見て感じて、より深くじっくり本でご家族のことを知れるので」


清武:「やめて~」


小島:「それならこうします! 本、映画、また本で!」


長江:「大正解です」


清武:「映画からだと6月14日まで買ってもらえないから(笑)」

長江:「あ、そうか! じゃあ、本、映画、本でお願いします」


映画『ディア・ファミリー』、原作『アトムの心臓』の見どころ

清武:「佳美さんの青春とか、青春を支えた人々がどう生きたのかというのを知ってもらいたいと思います。それから、お父さんとお母さんも学校に潜り研究室に入って勉強した人なんですよ。まさに“鈍感開発力”。無知であっても、粘り強くまっすぐに生きることで、鈍感な開発力を持ちうる。それが名古屋発のバルーンカテーテルです。先進国だけじゃなくてアジアで子供たちの命も救っているので、なかなか得難い開発だったと僕は思います」


小島:「知識ではなくて、気持ちの部分が大きいですか?」


清武:「絶対に書かなくちゃいけない、と思ったのは、筒井さんが僕に『個人としては上場したいけど、上場すると儲からない仕事はできなくなってしまうから、上場しないで儲からないものもやる』と言ったこと。儲からないものを、どう工夫して作っていくか、潰れてはだめだから。それをなんとかしてやっていくというのが開発者としてのプライドだと思いましたね」


清武英利さんからメッセージ
主人公の筒井さんは、人間は自分が思っている10倍の可能性を秘めていると話しています。僕の人生は色々やってきたけれども、せいぜい2倍くらい。でも、人それぞれ秘めた可能性を持っていると思うので、否定的にならずに頑張ってもらえたらなと思います。

  • 3人が並んで撮影する様子


    「僕は本が好きだから、(映画と本なら)本を先に読みます」と話す清武さん。