性暴力を受けている子ども年間39万人 父親からの性的虐待に少女「黙って泣きながら受けた」治療の現場

年間39万人。この数字は、厚生労働省が発表していてる性暴力を受けている子どもの数です。性暴力の体験は、長期にわたり子どもの心に深刻な影響を及ぼします。
「お久しぶりです。どうされました?お父さんが出所すると、もうそういった時期なんですね」(藤田医科大学病院 児童精神専門医・古橋功一医師)
児童精神専門の古橋功一医師。全国的にも数少ない子どもを対象としたトラウマ治療を行っています。
患者の4割は、父親などの親族からの性的虐待や知人からの性暴力被害を受けた子ども達。その多くは、児童相談所に保護された深刻なケースです。
「胸やお尻を触ることから、性行為も含めて多くの子たちがそういった虐待にあっている。一番目立つ症状として心的外傷後ストレス障害、PTSDと呼ばれる症状で悩まれる方は非常に多い」(古橋医師)
古橋医師が治療する子どもの多くは、幼い頃から長期にわたり日常的に性的虐待を受けてきました。
医師:「(体調は)どうです?この1カ月」
患者:「体調が崩れることが多くて。昔のことを思い出すことが増えてきて」
症状を訴えるのは、10代半ばから4年間、治療を受けている少女です。小学校低学年から7年に渡り実の父親からの性的虐待をうけじっと耐えていたといいます。
「怖かったので抵抗もできないし何も言えないから黙って泣きながら受けた」(患者)
中学生になり、自分の置かれた状況を理解できるようになると、深刻なトラウマの症状に苦しめられるようになりました。
「毎日毎日、自分じゃない誰かの声が聞こえるとか自分がここにいないとか、 昔のお父さんのことから抜け出してないような感覚がずっとまとわりつくような感じがあって、それで楽になりたいとか早く死にたいのがあって」(患者)
信頼関係を少しでも作る

心に深い傷を負った子どもたち。古橋医師が治療をするうえで、大切にしていることがあります。
「虐待を受けた子は、基本的に大人や社会に対して不信感だらけです。この医者は大人だけど自分にとっての敵じゃない信頼関係を少しでも作るとか本当にそういうとこから始めなきゃいけない」(古橋医師)
古橋医師は、子どもたちの心を傷つけてきたその原因を言葉で表し、苦しみを緩和していきます。この少女も、実の父親による性的虐待を受けてきました。
医師:「毎日フラッシュバックして、パパの影におびえて、怖い夢を見て薬飲んだり自傷行為しないと生きていけない」
患者:「そうなんだって、切羽詰まってるから」
医師:「ずっとああいう(性的虐待)環境に置かれて育つと毎日生きていくために、常に警戒心で」
患者:「守りに入っちゃって」
医師:「守りに入っちゃって『周りの人間がすべて悪いことをするんじゃないか』とか『だますんじゃないか』とかそういう思いでしかなかった」
患者:「マジでとがっているんだと思う。そういう思考になるととがり始めるやん言動がトッキントッキンだったよ」
中学生から治療を始めて5年が経ちました。少女は、自分の気持ちを理解し支えてくれる古橋医師に信頼を寄せるようになりました。
「安心できる場所、安全基地の1つというかそれができたのが良かったと思う。普通の人は感情が言葉や態度に出るけど(古橋先生は)それがないから警戒心を張らなくていい」(患者)
明日への希望を持てなかった少女が大学への進学を目指せるまでに回復しました。
「バイト終わったら勉強したり本読んだりと生産性のあることをしようと思っている」(患者)
「心の苦しみ」に絵本を利用

また、子どもが自分で被害を認識できなかったり、認識していても、心の苦しみが、被害による症状なのかが分からなかったりするため、古橋医師は、絵本などを用いて、時間をかけて説明。回復へと導きます。
「訳のわからないカオス、混沌とした世界で毎日生きていた子が、自分の苦しみの正体が分かり自分のせいじゃない、これ一番重要ですけど、自分のせいじゃないことがわかり、かつ治る方法があることの3つが分かるだけでも、子どもたちに希望を与えたりすることができるわけですよね」(古橋医師)
心のケアは、子どもだけではありません。この日、知人から性被害を受けたという児童の母親が訪れました。
母親:「加害者と同じ名前を聞くと動揺していて目が泳いでいて、心の中では一瞬パニクッているんだろうなと」
医師:「お母様が『あ、もしかしてそのことで動揺しているな、心の中でつらいだろうな』と思った時に、(子どもに)直接的に声をかけることはあります?」
母親:「しない」
医師:「それはしない」
医師:「日常生活の中でそういうことが多かったり『結構我慢しているんだろうな』ということが目立ってきた場合に、声掛けをしてあげることはプラスになると思います
「子どもを間接的に治療するために、お母さんに子どもへの具体的な対応をアドバイスすることプラスお母さん自身のダメージやつらさ、しんどさ、悩みに寄り添って支持して対応していくという両方が求められる」(古橋医師)
トラウマ治療できる若手医師の育成も

この日病院を出て、古橋医師が訪れたのは、名古屋市の児童相談所です。
虐待のトラウマに苦しむ児童が増えていることを受けて、古橋医師は、施設で暮らす子どもたちへの理解やケアの知識を職員らに広める活動を行っています。
また、トラウマ治療ができる医師を増やすため若手の育成にも力を入れています。
「究極的には性的虐待が減るなくなる、性暴力被害がなくなる減るのはもちろん大目標ですが、現実はそうはならないわけで、毎日のように性的虐待は起きる毎日のように性暴力被害が起きている。医者としてはできるだけ早く、子どもたちにケアを届ける支援を届ける、それに尽きますよね」(古橋医師)





