洋食器にボールペン、ゴルフボールまで金ピカに 市場縮小の「金箔」で毎年100種の新商品開発し勝機

石川県金沢市は「金箔」が有名ですが、多くの伝統工芸と同じく、市場は縮小しています。そんな中でも、新しいものを生み出し、売り上げを伸ばし続ける会社がありました。

石川県・金沢市。街で見つけたのは、金色の車の「幸運の金箔タクシー」です。約1200枚もの金箔が使われています。
金沢は、日本の金箔のほとんどをつくる街ですが、今、金箔の生産量は仏壇仏具の需要の減少などから激減しています。

金箔タクシーを手掛けたのは、業界大手の「箔一」。金箔市場が縮小する中で、毎年100もの新商品を開発し、売り上げを伸ばし続けています。飾り皿や屏風といった伝統的な商品はもちろん、現代的な洋食器、ボールペンなどの文具、ゴルフボールに、保湿性などをうたう金箔入り化粧品まで。商品は2000種類あり、そのすべてが自社製品です。
一気通貫の生産体制を構築

自社製品を可能にするのが、「一気通貫」の生産体制。金のかたまりを、薄い金箔に仕上げる職人から、加工する職人まで自社で行っています。
従業員:
「狙ったところに金箔を置くという作業がすごく難しくて、ここに(一片)置いただけでも世界観がちょっと変わるんです」

抱える職人は約100人と、従業員の4割を占めます。工程ごとに別々の会社が担う金箔産業で、この「一気通貫」体制は異例です。
「仏壇仏具では生き残れない」金箔の用途を開拓

そんな生産体制をつくったのは、会社を1975年に創業した浅野邦子氏。仏壇仏具だけでは生き残れないと、金箔のさまざまな用途を開拓したのです。

箔一 浅野達也社長:
「女性の目線で、もっと世の中にこういう箔を使ったら面白いよね、という製品をうちの創業がつくってきました」
その路線を、創業者である母から受け継いだ浅野社長。売り上げを2倍に増やし、黒字経営を続けています。商品を次々生み出すにはアイデアも必要でした。

浅野社長:
「面白そうなの、あった?」
社員:
「この扇子立てをやりたいなと思っています。同じ着眼点が店舗からもありました」
インバウンド向けに扇子立てをつくりたいという、現場の意見。この「ものづくりカード」で、本社から店舗まで全従業員からアイデアを集めているのです。
従業員のアイデアをきっかけに、3カ月で店頭販売をした商品も

例えばこちらは「金箔がついたカトラリーを」との声から商品化。月に30枚は集まり、早いものでは企画から3カ月で店頭に並ぶこともあります。
浅野社長:
「伝統産業の中にも新しいアイデアを常に入れることによって、売場を常に新鮮にしていくことがすごく大切だと思っています」
さまざまな企業からOEM生産の依頼が舞い込む

一気通貫の生産体制を持ち、短期間で商品化できる箔一には、多くの企業からOEM生産の依頼が。ヘッドホンに新幹線、高級車の内装など多種多様です。

浅野社長:
「金という世界に、日本の文化をどう乗せ込むか。日本人の持っている心、センス、アイデンティティーとか、我々の箔を使って世界中に広がればすごく良いことだなぁと」
日本経済新聞社 坂田 耀記者:
「輪島塗や九谷焼といった伝統工芸が北陸は盛んですが、後継者不足や能登半島地震による打撃も受けました。新たな用途を開拓していく箔一の姿勢が、伝統産業の生き残りのヒントとなるのではないかと思います」





