“2000円備蓄米”は名古屋の中小スーパーに届かない? 専門家「次の一手は輸入拡大、そして減反廃止」

政府が新たに放出する備蓄米に、早くも19社から申し込みがあったと小泉進次郎農水大臣が明らかにしました。東海地方の店頭にも並ぶのでしょうか。
農水省が新たに放出する備蓄米。
5キロ2000円程度での市販をめざし、新たに採り入れるのが随意契約方式。
国が販売価格や販売相手を決めて売り渡す方法で、大手の小売業者を対象として、26日夕方から受付を開始しました。
27日午前9時までに19社から9万トン余りの申し込みがあったと発表されました。早ければ27日にも契約を完了させ、29日には引き渡しができる可能性があるとしています。
申し込んだ19社には、カインズやサンドラッグ、楽天グループ、「すき家」など外食チェーンを展開するゼンショーホールディングスなどの名前があります。
また、東海地方ゆかりのスーパー「ユニー」の親会社「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」も申し込みをしています。傘下にはディスカウントストア「ドン・キホーテ」などもありますが、メ~テレの取材によりますと、どの企業、どのエリアで備蓄米を扱うかなど詳細は決まっていないということです。
このほかにも、東海地方を中心に食品スーパーを展開する「バローホールディングス」も27日に申請を出したということです。

一方、今回の随意契約には条件があり、中小スーパーは申請できないという状況になっています。
その理由が「年1万トン以上を取り扱う業者限定」という条件です。
東海3県に60店舗を構える「ヤマナカ」、名古屋市内に5店舗を構えるスーパー「サンエース」、同じく名古屋市の「ウオダイプラス」などがメ~テレの取材に「申請できない」と回答しました。
この状況について「中小は取り残された感じがあり、不公平感がある」「中小の小売事業者にも出回るような仕組みを考えてほしい」「中小つぶしだ」という声もありました。
「スピード重視」を掲げる小泉農水大臣は30万トンの備蓄米を随意契約で放出するとしています。
すでに3割弱の9万トンの申し込みがあったわけですが、状況をみて、中小にも配慮した条件も検討するとしています。
生産農家「備蓄米2000円台は適正価格」

5kg2000円台の備蓄米放出という、思い切った方針を打ち出した“小泉農政”。
生産現場は、この事態をどう受け止めているのでしょうか。
「こちらの農家ではコメ不足により、例年より主食用に4%から5%ほど生産量を増やしているといいます」(浅野翔伍 記者)
愛知県弥富市や蟹江町などでコメを生産する「鍋八農産」。
140ヘクタール(バンテリンドーム約29個分)の田んぼで例年約600トンのコメを生産しています。
コメ不足の今年は生産量を増やすため、加工米をつくるための農地を5%ほど食用米に切り替えました。
小泉農水大臣が備蓄米の店頭価格を2000円台まで下げると宣言したことについては「適正価格ではないか」と話します。
「古米は安くて当たり前だと思っているので、古米ならそんなものではないかという感覚です。一過性のものだと思っているので、大事なのは今実際にとれた令和6年産の価格が動くかが大事だと思います」(鍋八農産 八木輝治 代表)
消費者が求める価格と現在の価格には、大きな開き

全国のスーパーで5月12日から18日までに販売されたコメの平均価格は、5キロあたり4285円で、2週連続で値上がりし、過去最高値を更新しています。
依然として止まらないコメの価格上昇。
ウルフィアプリでアンケートをとったところ、コメの適正価格は2000円台が妥当だとする回答が大半でした。
消費者が求める価格と現在の価格には、大きな開きがあることが分かります。
「高すぎるとコメ離れしてしまうような気がする」

では、農家が思う適正価格はいくらなのか、聞いてみました。
「今の4000~5000円は高いかなと、僕らは3000円~3500円がいいと思っています。確かに高いに越したことはない。それで経営はしやすいが、高すぎるとコメ離れしてしまうような気がします。農家を助けてもらうという気持ちも込めると、その値段がありがたい」 (八木代表)
相次ぐ物価高騰で、肥料や農機具に使う燃料などが高騰してる背景もあり、生産コストは数年前と比べると1割ほど割高に。そのため、あまりに値下がりしてしまうと経営的にも困るといいます。
ただ、今後のコメ政策の方針について、小泉農水大臣は、コメの過剰生産による米価の下落を防ぐために、未だ続いている実質的な“減反政策”の廃止を明言しています。
Q.増産体制になると米価が下がる恐れがあるが?
「そこは一番懸念します。僕たちの収益で圧倒的に多いのはコメ販売。コメの価格にすごく左右されて、少しでも変わると1年間影響するので、そこはしっかりと確保していきたい」(八木代表)
専門家「今回は特売のようなもの」

「スピード感」重視で備蓄米の放出を進める小泉農水大臣。
農水省出身でコメの流通に詳しい専門家はどう見たのでしょうか。
「今回、小売りに売るということは評価できると思います。ただしその備蓄米を売ったからといって、全体の価格水準が下がるわけではない。特売をしているようなものだから、全体の価格や標準的なコメの価格が下がるわけではない」(キヤノングローバル戦略研究所 山下一仁 研究主幹)
政府が当面の放出枠としているのは約30万トン。
数量が限られることから、価格引き下げへの効果は限定的だと指摘します。
Q.政府として“次の一手”は何になる?
「来年9月までかけて国内生産と供給を拡大するという手がないから、輸入で賄う。次の小泉さんの一手は輸入の拡大。来年は減反の廃止です。もうストーリーはできている」(山下研究主幹)
抜本解決には減反政策をやめ、コメを増産するしかないといいます。
「もし減反をやっていなければ、今回のような事態は生じなかった」(山下研究主幹)
専門家「直接支払い制度にすればウィンウィンの関係に」
一方で、米価が下がることに抵抗を感じる農家の声に対しては――。
「困っているのは明らかに消費者なんですよ。消費者にいかに安い価格で必要な量を安定的に供給することが農政の使命。もしその主要農家が米価が下がって、経営が収益に影響すると言えば、その人たちに限ってアメリカやEUがやっている直接支払いをやればいい」(山下研究主幹)
山下さんは耕作面積に応じた交付金を政府が生産者に払う仕組みを導入すれば、消費者と生産者がウィンウィンの関係になれるのではと言います。
「農業の問題は、小さな農家がたくさんいるから収益が低い。地代収入を稼いでもらって、規模の大きな人や農業に長けた人がやるべき。そうした農業をすれば、日本の農業は前途洋々です」(山下研究主幹)