意思に反して声や体の動きが出てしまう病気、「トゥレット症」をもっと知ってほしい」。そんな願いが1冊の本になりました。出版のきっかけは、CBCテレビが放送したドキュメンタリー番組です。
【写真を見る】「胸がきゅっとなる」 意思に反して声や体が動くトゥレット症 “あるある”を描いた1冊の児童書に込められた思い
名古屋市千種区の書店。この日、ウーバー配達員の棈松怜音さん(31)の姿が。CBCテレビでは、怜音さんが主人公のドキュメンタリー番組を3年前に放送しています。
今回、怜音さんが探しにきたのは、5月に出版されたばかりの1冊の「児童書」です。タイトルは、「ぼくのいうことを、きかないぼく」。自分の意思に反して大きな声が出たり、体が動いたりするチックの症状が重い「トゥレット症」がテーマです。
「トゥレット症」はどんな症状?
チックは大きく分けて2種類。咳払い・叫び声・うなり声などの「音声チック」。
そして、まばたき・首ふり・肩すくめなどの「運動チック」です。
このうち、1つ以上の音声チックと複数の運動チックが1年以上にわたってみられる状態が「トゥレット症」。怜音さんも小学生の頃から、こうした症状と闘っています。
本文に出てくる全ての漢字にはルビがふられ、小学校低学年でもすらすらと読めるようになっています。
(ウーバー配達員 棈松怜音さん 31歳)
「トゥレット症が世の中に認知されだして、お子さんも読める形で“ハード”としても残るのは、めちゃくちゃ価値があることだと思います」
幼少期のトゥレット症“あるある”を描写
この物語の主人公は、「トゥレット症」の症状に悩んでいる小学6年生の「駿」。そして、駿の姿にはじめは戸惑いながらも、駿の気持ち・苦しさを理解しようと向き合う幼なじみの「遥斗」です。
(駿)「スン…スン…ッ」
(先生)「ティッシュ、忘れたの?鼻かんでくださいね」
(駿・心の声)
「鼻がつまってるわけじゃないんだけどな…。でも、先生の目が『早くかみなさい』と言っている。俺はみんなに迷惑をかけている」
(遥斗・心の声)
「駿はやたらと首をかしげる。そのたびに肩も少し上がる。視界に入るとなんだか落ちつかない」
本は全部で14のエピソードがフィクションとして展開され、当事者と周囲の人達の思いや葛藤する様子などが描かれています。
(怜音さん)
「幼少期のトゥレットの子“あるある”が描かれていて、解像度が高いですね。ちょっと胸がきゅっとなる感じがする」
出版のきっかけは「ドキュメンタリー番組」
本の作者は、愛知県在住の児童文学作家・柴野理奈子さん。実は、柴野さんがトゥレット症をテーマに選んだのは、怜音さんが主人公のドキュメンタリー番組「僕と時々もう1人の僕」を見たことがきっかけでした。
(児童文学作家 柴野理奈子さん)
「(トゥレット症を)それまで聞いたこともなくて、番組審議委員をやっていなかったら、絶対に見ることがなかった番組。この番組がきっかけで、トゥレット症を題材にした作品が書きたいと」
2024年まで2年間、CBCテレビ番組審議会の委員を務めていた柴野さん。審議の対象になった「僕と時々もう1人の僕」を目にした時に感じたこととは…
(柴野さん)
「怜音さんがスーパーで買い物している時に症状が出て、そばにいた人がぱっと振り返った。ふと我に返って、あれ?私もそうじゃないか。私だってやってきたじゃないかと思うと、本当にいたたまれなくて…申し訳なくて。1人でも多くの人に知ってもらいたいと、強く心を揺り動かされた」
「病気の大変さを伝える本だけにはしたくない」
本の企画段階から伴走してきたポプラ社の編集者は、当時をこう振り返ります。
(ポプラ社 杉本文香さん)
「病気の大変さを伝える本だけにはしたくない。本を読む人の多くは、トゥレット症を患っていない立場なので、(当事者と)どういう気持ちで最初接していたのか、リアルに描きたいよねと」
多くの子どもたちに「トゥレット症」を知ってほしい。そんな願いを込めて書き上げた物語は、トゥレット症啓発月間(5月15日~)のスタートに合わせて5月に出版されました。
(柴野さん)
「歩み寄ろうとすること、知ろうとすること、それが全ての“第一歩”だということを伝えたかった」
怜音さんの新たな挑戦 「フードデリバリー専門店」
CBCテレビがウーバー配達員の怜音さんの取材を始めて4年。怜音さんもまた、新たな一歩を踏み出していました。
配達員の仕事を続けながら、立ち上げたのはフードデリバリーの専門店です。店の名前は「あいよキッチン」。名古屋の繁華街にある小さなアパートの一室を改装してスタート。
(怜音さん)
「僕がチックの症状で『あいよ』というので、あいよキッチンという名前になっています」
4年間の配達で蓄えた資金でオープン。看板メニューは、トロトロになるまで煮込んだ豚軟骨をのせた油そばです。
外食できないトゥレット症の子どもに“当たり前の経験”を
いまは店内に客席はなくテイクアウトのみの対応ですが、いつかは店舗を構えたいという怜音さんは…
(怜音さん)
「飲食店にご飯を食べに行けないトゥレット症の子はたくさんいるので、(自分の店を作って)そういう子たちに“当たり前の経験”をしてほしいと常々思っています。まだまだ資金も信用も足りないので、一歩一歩 毎日確実にオーダーに対応していく」
「トゥレット症をもっと知ってほしい」その思いから生まれた1冊の本。そして、怜音さんもまた「誰もが当たり前を楽しめる社会」を目指し、新たな挑戦を続けています。
トゥレット当事者会と著者の柴野さんは、本の寄贈先となる小中学校を全国で募集しています。
【学校関係者向け問い合わせ窓口】bokukikakizou@gmail.com


