「もう社員は休み」日中関係悪化で相次ぐ中国団体客のキャンセル 「団体客は政府命令で中止」専門家

高市総理の台湾有事発言に端を発した、中国政府による渡航自粛の呼びかけから10日余りが経過しました。愛知県内の観光業にも影響が出ています。打撃が大きいのは中国からの団体旅行です。
東海日中関係学会の会見:
「日中関係の悪化を憂慮し、早期の関係修復を求めます」
11月26日に愛知県庁で声明を発表したのは、日中関係について研究する東海地方の学者たちです。声明は26日、総理や外務大臣などに郵送します。

日中関係悪化のきっかけは11月7日です。
高市早苗総理:
「台湾を完全に中国政府の支配下に置くようなことのために、どのような手段を使うか。戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても『存立危機事態』になり得る」
この発言に中国は強く反発。14日には中国国民に対し、日本への渡航自粛を求める注意喚起を行いました。
キャンセル相次ぐ中国の団体旅行客

それから10日余り、愛知県内への影響について、東海地方で中国人向けに団体ツアーを提供する旅行代理店に話を聞きました。
旅行代理店担当者:
「先週末(11月22日)からの稼働はゼロ。仕事がないので、もう社員は休みにさせますよ」
また中部国際空港周辺のホテルは11月22日から中国の団体客のキャンセルが相次ぎ、1000室以上が空室に。大打撃を受けたといいます。
「意外に影響はない」名古屋マリオットアソシアホテル

一方で、名古屋市内のこちらのホテル。中国からの宿泊者の大半が「個人旅行」です。影響について、ホテルの総支配人に話を聞きました。
名古屋マリオットアソシアホテル 杉本篤史総支配人:
「大半がキャンセルにはなっておりませんので、(キャンセルは)ほんとにわずか。報道されている内容からすると、意外に影響はない」
同ホテルによりますと、例年よりは少ないものの新規の予約が今も入っているということです。今後の見通しについては次のように話しました。
名古屋マリオットアソシアホテル
杉本総支配人:
「見えない部分が多いので見守っていくしかない」
自粛ではなく「やめなさい」という強い勧告

日中関係悪化による観光業への影響について、キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司上席研究員に話を聞きました。
――団体客のキャンセルが相次いでいるという取材結果でした。これについてはどう受け止めれば良いでしょうか。
キヤノングローバル戦略研究所
峯村健司上席研究員:
「習近平国家主席がある意味一強体制で、習近平氏の命令を受けて、旅行会社などが一気に団体旅行を止めたという効果がさっそく出ているのだと思います。
今回、テレビで日本への渡航の“自粛”と説明する専門家が多いのですが、正確に言うと自粛よりもっと強い『やめなさい』という意味なんですね。中国が出している勧告で一番強いレベルです。だからこそ、ピシッとやめている状況なんです」
――個人客については、愛知県内ではあまり影響がなかったという取材結果になりました。峯村さんはこの結果をどうみますか。
「渡航をやめている理由としては、日中関係が悪化しているため日本の治安が悪くなり、中国人に対して被害が出るかもしれないというようなことです。しかし個人の旅行客はマルチビザを持っていて、何度も日本に来ている人が多いので、中国政府の勧告を信じている人は少ないです」
団体客と個人客、渡航に“温度差”

――団体客と個人客の動きの違いは、何を意味しているのでしょうか。
「団体客は、政府の方針。つまり、対日強硬という政府のラインの言うことを聞いています。個人客は『政府がなんか言っているけれど、私は日本に行って寿司を食べたいんだ』と。日本に行って、ひつまぶしを食べたいんだという人たちは、もうあまり政府の言うことをちゃんと聞いていないので、個人客はどんどん来ている。この差だと思います」
――中国政府の思惑については、どのように考えていますか。
「日本に対して強硬な姿勢を示して、旅行を止めたいという思いはありますが、一方で国民の不満が出てくるのは怖いわけですよね。今、日本に行きたい中国の国民は結構多いです。なので、あまり無理に止めすぎて国民の反発が中国の政府に向くことを恐れている、というのが中国政府の状況ですね」

――今後の流れはどういったかたちで終わりを迎え、どのような展開になるのでしょうか。
「これが難しいところですが、トップの習近平氏が『やれ』と言ったからには、2~3日で終わる話ではないと考えています。少なくとも年単位でくすぶり続けるとみたほうがいいでしょう」
――ホテル関係者の方は「見守っていくしかない」と話していました。こうした受け止めは、やむを得ないのでしょうか。
「中国は“経済の武器化”をしているんですね。経済を武器に使うというのは、中国のやり方で、そのうちの武器の1つが観光客を制限すること。相手国に対して経済的なダメージを与えるのは、最近の習近平政権の特徴です。
だからこそ、この武器化は今後も日中関係悪化によって起こることを前提に、さまざまな計画を立てたほうがいいと感じます」





