
また“台風の卵”=熱帯低気圧 いつまで影響?台風の「目」に突っ込んだ気象予報士が見た”らせん状の雲”【台風情報】

台風22号・23号は、立て続けに伊豆諸島付近を通過し大きな被害をもたらしました。14日現在、2つの台風は離れましたが、南の海上には、新たな熱帯低気圧(台風の卵)の発生が予想されています。
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仮に台風まで発達したとしても、現段階では本州に影響する可能性は低いと見られます。ただ、ことしは南海上の海面水温が高いため、台風が日本近海で発生したり、発達したりするケースが多くなっています。
台風シーズン終盤とはいえ、ことしは影響が長引く可能性もあるため、今後の情報にはご注意ください。
この雲画像は、台風は「22号」です。”日本近海で発達”しました。
気象庁の情報によると、22号は本州の南海上にあった7日午前0時で中心気圧が985hPaでしたが、8日午前0時に940hPaまで下がり、24時間で45hPaも低下しました。これは、急速に発達したことを意味しています。
ところで、この詳細な「気圧」や「風速」。海の上にあるのに、どのように観測しているのか、ご存じしょうか?実は、観測していないのです。
「台風」はどのように予測している?
台風の気圧や風速などは、現在、アメリカの気象学者「ドボラック」が開発したドボラック法という、衛星の画像で雲の形や構造を分析する手法を使っています。つまり「推定」された値です。
台風の予測は、この「推定値」を当てはめるため、予測にブレが大きくなります。
コンピュータの発達などでは、「進路の予測」に関しては、中心位置のずれが小さくなり、改善されていますが、「強度の予測」精度はほぼ横ばいで、強さの予測はあまり改善されていません。
そのため、正確な気圧や湿度などのデータがあれば、より精度の高い予測に役立てられると研究を進めているのが、名古屋大学・横浜国立大学の坪木和久教授らのグループです。
坪木教授は、2017年から台風の目に向かって航空機を飛ばし、台風の”直接観測”を行っています。(※1回のフライトで数千万円ともいわれるこの観測は、経費が膨大に掛かることなどから、現段階では毎回行うものではありません)
そもそも台風が列島に近づいた時は、航空機は欠航することが多い中で、飛ぶことはおろか、目に突っ込んでいくなんてことは危険ではないのか?と疑問に思うかもしれません。坪木教授によると「上空の風は、地表付近ほど縦横無尽に風が吹いているわけではない」とのこと。実際に現在もアメリカや台湾などでは、台風の観測は行っているようです。
坪木教授らは、台風22号が発達し、日本に大きな影響が出るおそれがあるため、この台風を直接観測することに決定。今回、このフライトに特別に搭乗させていただいた、わたくしCBCテレビの気象予報士・桜沢信司が、その舞台裏をお伝えします。
台風の目に突っ込み…どうやって調査?
観測するのは、ガルフストリームG-Ⅳ。航空機に「観測器」を落下させるための筒がある、台風観測のための特別仕様です。
上空で、ここから「ドロップゾンデ」という観測器を落とします。
航空機は、2025年10月7日正午過ぎに「台風22号」に向けて県営名古屋空港を出発。
約30分という短い時間で、台風の一番外側の雲=巻雲が見えてきました。
台風の内部だけでなく、台風の周辺も観測するため、ここで1つ目の観測器を落下。
「バタフライパターン」という“チョウチョ”を描いたようなルートで、台風とその周辺をくまなく観測します。
観測器は5分に1回投下しました。
ガタガタガタ…機体が揺れるのは“目”に近づいている証拠
観測開始から15分ほどで、急にガタガタと機体が揺れはじめました。
これは、台風の目に近づいている証拠です。
目の周りには、「アイウォール(目の壁雲)」という最も厚い危険な雨雲があります。その雲の中は激しい上昇気流があるため、機体が揺れるのです。
窓からの眺めは雲で真っ白になっていました。
そして、数分で機体が静かになり、急に外が明るくなりました。
これが台風の目に突入した証拠。
機体はほとんど揺れず、穏やかです。
窓から見上げると、空は青空が広がっていました。
遠くの方まで視界が開け、その先には、今通過したばかりの「アイウォール」が、まさしく壁のように立ちはだかっていました。
そして、下には、見たこともない景色が…。雲がらせん状に渦を巻いていました。
雲の高さは約1キロほど。気象予報士になって19年。いろんな雲を見ましたが、その渦を巻く雲は、自然がおりなす、なんとも言えない景色です。
「この数時間でさらに発達した」
研究者によると、このらせん状の雲は「メソ渦」と呼ばれ、1つの台風の目に、いくつも(多い時には5つほど)のメソ渦が存在することがあるそうです。
一般に、台風の目は晴れているといいますが、スッキリと晴れわたっているわけではなく「らせん状」の雲が渦巻いていました。
航空機は台風の目の中を2~3分で通過したあと、再びガタガタと揺れ始めました。目の中だけでなく、目の周りはくまなくドロップゾンデを投下。
4時間40分のフライト中、台風の目を通過したのは計3回。1回目よりも3回目の方が、アイウォールがクッキリとしていて、研究者は「この数時間でさらに発達した」と話していました。
投下した42個のドロップゾンデは、気圧、気温、湿度、風向、風速などを観測しながら、リアルタイムで情報を送信。その情報は、直ちに大学や気象庁、世界各国の気象機関に送られ、最新の予測に役立てられました。
今回の目的は、この台風22号の発達具合を観測するだけでなく、もうひとつの目的があります。
人の力で台風を弱めたい!
それは「タイフーンショット計画」。
台風の勢力を人為的に弱くしようと言うプロジェクトです。
台風の中心付近に含まれる極めて低い温度の水蒸気から雲を作り、台風の形を変えてしまうことで、台風の勢力を弱めることができると考えられています。
今回の観測では実際に0℃を下回る状態の水分が確認され、計画の実現に一歩近づく成果もありました。
横浜国立大学の台風科学技術研究センターの筆保弘徳センター長は「5%、10%台でも台風弱めることができれば、それ以上の被害の低下に繋がると思っています」
実用化の目標は2050年。果たして気象のコントロールは可能なのか。
年々甚大化する気象災害を少しでも減らすための取り組みが始まっています。
気象予報士・桜沢信司