
「小1プロブレム」に効果が!? 好きな活動を自分で選べる"やってみタイム" 幼・保から小への架け橋に「階段ではなくスロープのように…」

子どもたちがやりたいことを自由に選べる"やってみタイム"。岐阜市の小学校が実施するこの取り組みが、「小1プロブレム」の解消に効果を発揮しているといいます。学校生活へスムーズに適応できるようになり、遅刻や欠席も減少。「段差をスロープに」という発想で、子どもに寄り添う教育の新しい形を実現しました。
"やってみタイム"で小1プロブレムを解消
「小1プロブレム」とは、小学校に入学したばかりの児童が、環境が大きく変わったことで集中力が続かなかったり授業中に歩き回ったりするなど、学校生活への適応が難しい状態になることを指します。
岐阜市の長良東小学校では、今年度から小1プロブレム対策として、小学1年生向けの新たな取り組みを始めました。朝、登校後に"やってみタイム"という時間を設け、子どもたちが好きな場所で好きな活動をできるようにしたのです。
小1プロブレムは全国的な問題となっていて、多くの学校で対策が講じられていますが、長良東小学校が特徴的なのは、クラス単位で同じ活動をするのではなく、個々にやりたい活動を選べるところにあります。

1年生の児童は、登校すると教室の黒板に貼り出された「図書室で本を読む」「図工室で塗り絵や工作をする」「体育館で体を動かす」「教室で粘土遊びをする」など、その日の活動内容を確認。そして、各自で好きな場所に移動します。
それぞれの場所には担任教師だけでなくサポート教員も配置され、子どもたちが安全に活動できる体制も整えられています。
活動内容は、当日の天候や体育館などの空き状況を考慮しながら決めているということです。

これまで長良東小学校では、小学1年生も他の学年の児童と同様に、午前8時15分までに登校したら、朝読書や朝の会をした後、午前8時半から1時間目の授業を開始していました。
しかし、今年度からは1年生だけ特別なスケジュールを組み、登校後から1時間目が始まるまでの時間を"やってみタイム"に設定。特に4月からゴールデンウイークごろまでは、1時間目も充てるなど柔軟に運用しています。1年生の時間割はゆとりをもって組まれているため、1時間目を"やってみタイム"に変更しても、授業の遅れなどの影響は出ていないということです。
ゴールデンウイーク明けからは通常の時間割に少しずつ近づけていき、5月末現在では月曜日と金曜日のみの実施となっていますが、1か月間、活動を通して教師と信頼関係を築いているので、児童も戸惑うことなく受け入れられているといいます。今後、いつまで"やってみタイム"を継続するのかは、児童の様子を見ながら決めていくとしています。
"やってみタイム"が、学校生活へのスムーズな適応を促しているようです。
文科省出身の校長が語る"やってみタイム"の教育的価値

"やってみタイム"導入のきっかけを作ったのは、昨年4月に就任した中村有希校長です。
文部科学省や岐阜県教育委員会で教育行政に携わってきた中村校長は、小1プロブレムを全国的な課題として認識していましたが、実際に教育現場に立ち、児童用玄関で「行きたくない」と泣いていたり、母親と離れづらそうにしている児童の姿を目の当たりにして、なんとか改善できないかという思いを持ったといいます。
長良東小学校 中村有希校長:
「小学校では、子どもたちにきちんとさせたいという思いが強いんです。手を挙げるときはピシッとする、きちんと並んで校庭に行くなどルールが多い。それは良いところでもありますが、幼稚園や保育園から来たばかりの子どもたちにとっては、急に多くのルールに従うことが難しい場合もあります」
そこで中村校長は、子どもたちがやりたいことを選べる“やってみタイム”を提案。小1プロブレムについて問題意識を持っていた教員たちも賛同し、どういう仕組みを作ったらいいか議論を重ね、実現に至ったということです。

小学校に入学して初めて学校教育に出会う子どもたち。遊びの延長のような感覚で過ごしていた幼稚園・保育園の幼児教育と小学校の学校教育の間には当然段差があり、その段差自体は必要なものです。しかし、あまりにも段差が高すぎると子どもたちは適応できません。
長良東小学校が目指すのは、学校生活に適応することを子どもに強いるのではなく、子どもたちが無理なく乗り越えられる緩やかな移行だと、中村校長は話します。
長良東小学校 中村有希校長:
「段差をなくせということではなくて、段差の高さを調整したり、段差をスロープにしたりっていうことが求められていると思うんです。もちろん小学校なのできちんと勉強することにつなげていくのはすごく大事だと思うんですけど、つなぎ方ですよ。小学生になったんだからドーンと高い階段を上がれということではないかなと思いますね」
今年は98人が入学しましたが、「行きたくない」と泣いている子どもの姿はほとんど見られなくなり、遅刻や欠席も明らかに減少。“やってみタイム”が楽しみで早く登校する児童も多いといいます。

また、"やってみタイム"は環境の変化による不安を和らげるだけでなく、心身の発達にも重要な役割を果たしているようです。
ペンを持つ、文字を目で追うといった学習の基礎となる能力は、遊びの中で培われていくもの。"やってみタイム"で行っている運動や工作などの活動は、こうした能力を身につけるためのトレーニングにつながると強調します。
長良東小学校 中村有希校長:
「遊びは勉強の土台を作っていく上でとても重要。好きなことをして遊んでいいよって言うと、甘やかしている感じがするけど、決してそうじゃない。教育的にもすごく効果があること」
小1プロブレムに効果を上げている"やってみタイム"。来年度以降も継続する予定で、「今年の経験を踏まえてさらに良いものにしていきたい」と中村校長は意欲を見せています。
幼児教育と小学校教育の「架け橋」をどう築くか。長良東小学校の取り組みは、子どもに寄り添う教育の1つのあり方を示しています。