【独自取材】愛知県蒲郡市の土砂崩れから1年 なぜ発生、原因は 遺族が激白 現場で何が起きたのか

「異変を感じたらすぐ逃げてほしい。“あの時”って思ってほしくないです」。2024年8月27日午後10時ごろ、蒲郡市竹谷町で土砂崩れが発生。現場の近くに住んでいた鋤柄(すきがら)さん一家は、この土砂に飲み込まれました。長女の尚美さんは家具と家具の間にできたわずかなスペースで奇跡的に助かりましたが、父と母、弟の3人は帰らぬ人となりました。
なぜあの日、予期せぬ土砂崩れは起きてしまったのか。亡くなられた3人の遺族の思いに迫りました。
突如襲った土砂の恐怖

「砂が天井から落ちてくるのを確認した瞬間、ドンと。次の瞬間は完全に土砂で埋まっていました」と当時を振り返る尚美さん。3人の家族を亡くし、その複雑な胸の内を明かします。
尚美さん:
「自分自身は前に進めている。気持ちの面でも吹っ切れることはないんですけど、自分の中である程度の消化ができてきたかな、と。前はここに(蒲郡市に)帰ってくるだけでも泣きながら帰ってきていたのが、いまはそれもよっぽどなくなってきたので」
三女の泰代さん:
「正直、顔を確認したときのフラッシュバックがいまだにあって、1年経っても気持ちの面ではあまり…」
「納得できない」調査結果

発生当時、蒲郡市に大雨警報は発表されていませんでした。土の中に雨水がどれくらい含まれているかを示した土壌雨量指数は「警戒」ではなく「注意」というレベル。では、なぜ土砂崩れが起きたのか。
原因究明のため、県の職員や専門家らが中心となり、現場で5回ほど調査を実施。地中水の有無や周辺を通る農業用水管の設備などを調べました。

しかし、その報告書には疑問が残るといいます。
報告書では、地下水や農業用水管からの漏水は確認できず、地表を流れる大量の「表流水」が土砂崩れを引き起こしたと推測されました。その発生源を特定することはできなかったのです。
報告書の内容の一部

《ガリ(大きな溝)の起点部や斜面の途中に湧水の痕跡(パイピングホール)や湧水は確認できなかったため、地下水が大量に流出したものとは考えにくい》
《蒲郡支線の菅水路(パイプ)や21号空気弁(農業用水管の設備)などに漏水等の異常やその痕跡は確認されず、施設の機能は確保されていることを確認した》

泰代さん:
「これで調査終わりでは納得できない。『表流水がなにかは特定できなかった』では、私は納得できないです」
尚美さんは、「どこの水が?山がそれだけの水を貯水していたとは思えない」と疑問を投げかけます。

2人に疑問が残る理由が《大量の表流水の関わりにより流動化した土砂が土石流の形態で斜面を高速で流れ下った》という部分。
表流水とは、地上に存在した大量の水のこと。この表流水が土石流を起こした要因だと推測されるといいますが、次のページには《表流水の発生元を特定する客観的なデータや目撃証言を得ることができなかった》との記載が。

報告書にも携わった名古屋大学の田中隆文客員教授は「雨では説明できないものだと思う。量的に。大量の表流水がどこからきたのかはわからない。なかなか手掛かりがない。今回の報告書も謎が残った形の報告書になったと思う」と見解を示します。
土砂崩れが起きる前に気づいた“山の異変”

実は土砂崩れが起きる6時間ほど前、次女は外出中の父に「山から結構な量の水が流れてきているんですが大丈夫ですか?」とメッセージを送っていました。また、当時のドライブレコーダーの映像には、雨が降っていないにもかかわらず、自宅前の地面が広範囲に濡れている様子が映っていました。

この水こそが、原因と推測される「表流水」ではないかと、尚美さんと泰代さんは考えています。「あの水はどこから流れてきたのか」と、原因究明を強く願っています。

亡くなった家族のためだけでなく、もう二度と悲劇が繰り返されないために、2人は訴えます。
泰代さん:
「うちはもう起こってしまったので、これ以上、ほかが起きないでほしいというのが強いですね」

尚美さん:
「亡くなるかもしれない人を減らしたい。家族を亡くされて後悔する気持ちはすごくわかってしまうので。不安にさせてしまうかもだけれど、大丈夫なところはたぶん、どこにもない。異変を感じたらすぐ逃げてほしい。“あの時”って思ってほしくないです」