
ロケット大好き元気少女が見守った最後の雄姿⁉ H2Aロケット最終号機の打ち上げ成功

ロケットに恋する女の子・桃佳(ももか)ちゃん(10)。
ロケットが好きすぎて愛知県を飛び出し、約800キロメートル離れた鹿児島県の種子島に移り住みました。
彼女は「H2Aロケットはミラクルな存在。最後は絶対に見る!」と話します。
H2Aロケットは、20年以上にわたり日本の主力ロケットとして数々の人工衛星を宇宙に運んできました。しかし、50号機を最終号機として運用を終え、H3ロケットが後継機になることが決まっています。
今年6月29日未明、H2Aロケットの最後の打ち上げが行われました。
桃佳ちゃんは、待ちに待った打ち上げの瞬間に思わず…。
ロケットが大好きで、鹿児島県の種子島に移住した桃佳ちゃん
小学5年生の桃佳ちゃんは、愛知県豊田市からおよそ800キロ離れた種子島で暮らしています。
島で有名なのは、サトウキビとロケット発射場。
「日本で宇宙に一番近い島」といわれています。
桃佳ちゃん:
「ただいま~。5、6時間目はプールだったよ!」

彼女が学校から帰宅すると最初にするのは、制服からお気に入りのロケットTシャツに着替えること。
そして、取材スタッフに見せてくれたのは「宇宙ファイル」でした。ファイルの中からは、ロケットが描かれたシールがたくさん。

次に桃佳ちゃんが披露してくれたのは、小型月着陸実証機の模型です。手に取って、目の前で見せてくれました。
桃佳ちゃんは実は、種子島の南種子町が定めている宇宙留学という制度で種子島にやってきました。
ロケットや宇宙をもっと身近に感じたい子どものほか、種子島での生活を体験したい子どもが他の地域から移り住み、島で生活しながら町内の小中学校に通うことのできる制度です。

桃佳ちゃんは、母と2人で暮らしています。
彼女はすっかり島の生活になじんでいる様子。
サラダに入ったオクラを「これはお友達のお父さんが作っているオクラ」と話し、おいしそうに口にします。

学校が休みの日は、決まって行くのがここ。種子島宇宙センター内にある「宇宙科学技術館」です。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の施設でもあります。
ロケットや宇宙に関連した展示を豊富に備え、宇宙センターのある種子島ならではの施設。
桃佳ちゃんは声を弾ませて、館内の展示を説明してくれます。
「これ、H3(ロケット)だよ! これは、はやぶさ2が打ち上げられた時の映像じゃないかな」

館内のクイズコーナーだって、何度でも挑戦します!
「種子島から火星に向かうロケットを打ち上げる場合、どの方向に向かうと最短距離となるでしょうか?」という設問に、桃佳ちゃん「東!」と即答。見事、正解です。その後の設問も難なく回答し、正解を選んでいきます。
そして、桃佳ちゃんのお気に入りは、地上管制官の仕事を体験できるコーナー。
桃佳ちゃんの夢は地上管制官です。
地上管制官は宇宙飛行士と交信し、地上からサポートする役割を担います。

こんな桃佳ちゃんが心待ちにしている一大イベントが、H2Aロケット50号機の打ち上げ。同型の最終号機となります。
桃佳ちゃん:
「H2Aロケットはミラクルな存在! 去年からずーっとまだかなー、まだかなーって待ってました。ついにって感じです。最後を絶対に見る!っていうのが、桃佳のひとつの夢でした」

そのH2Aロケット50号機は2024年9月、愛知・飛島村にある「三菱重工業」の飛島工場で組み立てられていました。
H2Aロケットは2001年の1号機打ち上げ以来、日本の宇宙開発を支えてきましたが、今回の打ち上げに臨む50号機を最後に引退します。

50号機打ち上げの責任者が、プロジェクトマネージャーの矢花純(やばな・じゅん)さんです。
H2Aロケットに20年近く携わっています。
同じプロジェクトに加わっている女性からは「“そこに気付くのか”と感性が鋭くて、さすがだなと思っています」と称賛の声。
矢花さんは、着々と50号機に関連したプロジェクトをまとめ上げてきました。
三菱重工業・矢花純さん:
「ここからが勝負だという思いでいます。最終号機を打ち上げ切らなければいけない。まさにアンカーの覚悟です」
国の宇宙開発にとって、重要な役目を背負う矢花さん。

でも、子どもたちには「家に帰ってきたら普通のお父さんっていうか、仕事バリバリしてる感じじゃ全くないから。家では寝てばっかいるし」という父親像。「逆に(職場での様子が)気になります」と、職場で働く父親の姿が想像つかないようです。
矢花さんは複雑な表情を浮かべていました。

いよいよ最後のH2Aロケットが旅立つ日。
ロケットは飛島工場でコンテナに収められ、大きな船で愛知県から種子島へと運ばれていきました。

ロケットを収めた巨大なコンテナは種子島に到着し、そこからは陸上での大移動です。
ぶつからないように、信号機は向きをグイーっとチェンジ。障害物を避けながら、打ち上げ場所となる種子島宇宙センターまで、コンテナは慎重にゆっくりと運ばれます。
この珍しい光景を、夜にもかかわらず多くの人が見守りました。
当然、桃佳ちゃんも観客の列にいます。
「自分の好きなH2Aロケットの最終機なので張り切って見に行きます!」と宣言しました。

桃佳ちゃんが通っているのは、全校生徒24人の小学校です。
種子島に来てから、およそ1年4か月が経過しました。学校生活にもすっかりなじんでいます。
「誰がいちばん宇宙のことに詳しい?」との取材スタッフの質問に、クラスメートは一斉に「桃佳ちゃん!」と彼女を示しました。
クラスメートは「宇宙センターにいっしょに行って、ロケットについて教えてくれる」「人工衛星のことをよく知ってる」と、桃佳ちゃんのことを話します。
ロケットが身近な存在の種子島。
「打ち上げ成功祈願」の旗が道路でなびいていたり、公園の遊具の一部がロケットだったりします。
桃佳ちゃんは「なんかもう夢の環境!」と歓喜の表情です。でも、父親と離ればなれの生活については、ちょっと寂しいといいます。

桃佳ちゃんの父親は、豊田市に残って一人暮らしをしています。
2人の共通の日課は、スマホでのオンライン通話。今日の天気のことなど、日常的な会話を交わします。
食事は自炊。自分で料理をすることにも慣れました。桃佳ちゃんや奥さんに心配をかけないように健康に気遣い、野菜を積極的に取り入れています。
そうした辛抱も、桃佳ちゃんの夢のため。

桃佳ちゃんの父:
「ロケットって、宇宙に物資や衛星を運ぶもの。(すごくカッコイイこと言いますけど)『桃佳の夢を乗っけてくから、そういう手伝いをするから、お父さんはロケットだ』」
H2Aロケット最終号機の打ち上げを見届けた桃佳ちゃん
H2Aロケット50号機打ち上げの前日、桃佳ちゃんは朝からうれしさが込み上げて仕方ありません。
日付が変わった後、深夜1時半すぎにロケットが打ち上がります。
その前に桃佳ちゃんには「絶対に行きたい場所」がありました。
「行きたい場所」に向かう車の中でも、彼女は「珍しくてドキドキしてる」と興奮を隠しきれません。
向かった先は、ロケットの発射場所が見える地点。

この日、H2Aロケットが発射場所に初めてセットされました。ロケットがセットされるのを待ち望んでいた桃佳ちゃん。
「あー!きたきたきた!!」と歓声を上げ、双眼鏡を手にしてロケットの方を見つめます。
H2Aロケットがついにその姿を現し、発射場所に移動して止まりました。
めったに見られない光景です。
桃佳ちゃんは感激し、「宇宙に行ってこい!みたいな感じ」と満面の笑顔。

すると、取材スタッフと共にいる桃佳ちゃんの前に車が停まり、1人の男性が現れました。
彼女にあいさつし、スタッフに囲まれた彼女を見て「密着取材受けてんの?」と声を掛けてきます。
桃佳ちゃんが、岡田匡史(おかだ・まさし)さんを紹介してくれました。
新型主力ロケット「H3」の打ち上げ成功に貢献したJAXA(宇宙航空研究開発機構)の理事で、桃佳ちゃんにとっては憧れの人です。
そんなすごい人物とも、彼女は仲良し。
岡田さんは、「桃佳ちゃんのピアノが上手になったら、いつかいっしょに弾こう」と彼女と約束していることを明かします。
このとき、ロケットの打ち上げは約14時間後に迫っていました。

そして夜10時過ぎ。ロケットの打ち上げを見られる公園には、最後のH2Aロケットを見ようと多くの人々が詰めかけました。
種子島からほど近い屋久島から訪れた人のほか、名古屋からはるばるやって来た人も。
いずれも、ロケットの最後の雄姿を見届けようと駆け付けました。寂しさのあまり、H2Aロケットを買い取りたいという人まで。
その頃、桃佳ちゃんは仮眠をとったものの、ちょっぴり眠そうです。
母は「2時間くらいはぐっすり寝てたよ」と告げますが、「眠れてない」と言う桃佳ちゃんは、「楽しみでわくわくしてるけど、最後になるからさみしい気持ちと半分くらい」と胸中を打ち明けます。
桃佳ちゃんたちがH2Aロケットの最後の姿を見届けるのに選んだ場所は、打ち上げが公園より近くで見られる地点でした。
彼女は、ロケットが描かれた応援バルーンと双眼鏡を持って、ロケットの発射を待ちます。

一方、三菱重工業プロジェクトマネージャーの矢花さんは、種子島宇宙センターの総合指令棟にいました。
矢花さんはうつむき加減で目を閉じ、両手を合わせてひたすら打ち上げ成功を祈っています。
発射直前の段階まできたら、祈るしかありません。

そして、H2Aロケットが宇宙に向けて発射された午前1時33分。
桃佳ちゃんは、巨大な炎を噴き上げて空へと昇っていくロケットの姿をずっと見届けていました。
その間、気分が高揚した彼女は、大興奮で声援を送り続けます。

ロケットが噴射する炎はやがて小さくなり、そして夜空に消えていきました。
桃佳ちゃんは、少し安堵した笑顔を見せました。
しかし、ロケットが宇宙へ打ち上がっただけでは、プロジェクトは終わりではありません。ロケットに乗せている人工衛星を予定の軌道に投入するまでが、果たさなければならない使命です。
それが成功するまでは、スマホに映し出されたJAXAの配信動画から桃佳ちゃんも目を離せません。

しばらくして「衛星分離確認」の号令がかかると、矢花さんらプロジェクトに関わった人たちの間からは拍手がわき起こりました。
無事、打ち上げ成功です。
立ち上がって喜びをあらわにする矢花さん。
そこには、矢花さんを祝福するJAXAの岡田さんもいます。
桃佳ちゃんは、憧れの思いを抱く岡田さんが歓喜する姿を、JAXAの配信動画の中に見つけました。
プロジェクトの成功を見守った彼女は、喜ぶ岡田さんを発見し気分は最高潮といった様子です。

ロケットの打ち上げ成功を見届け、安心したのか桃佳ちゃんは笑顔で大あくびをしました。
桃佳ちゃん:
「(ロケットの炎が)水面に反射してピカーンって、最後にふさわしい打ち上げでした!」

ロケットの打ち上げによって、夜空と海が輝き、桃佳ちゃんの笑顔も輝く瞬間がありました。
ロケットに夢を抱く少女・桃佳ちゃんの挑戦はこれからも続きます。