
「人生が終わったと思った」配偶者と死別したシングルファーザーが直面する社会的孤立 相談できる場所もなく…本音が語り合えるコミュニティーが心の支えに

「心がぐちゃぐちゃで、なんと言っていいのか…」と、オンラインの画面越しに苦しい胸の内を明かしたのは、妻を亡くし、幼い娘をひとりで育てている男性です。配偶者と死別したシングルファーザーは、社会の中で孤立しやすい状況にあるといいます。そんな彼らの心の支えとなったのは、あるコミュニティーでした。
収入の差はあっても…シングルファーザーが直面する社会からの“孤立”
全国に134万4000世帯いるといわれている、ひとり親世帯。そのうちの多くは母子世帯(シングルマザー)で、父子世帯(シングルファーザー)は14万9000世帯と全体の約1割となっています。※厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」
家庭環境や経済状況などはさまざまですが、平均年間収入を見ると、シングルマザーは272万円、シングルファーザーは518万円と大きな差があります。シングルマザーは経済面などで負担が大きいため、支援の動きも活発です。
収入面では比較的余裕があるように見えるシングルファーザーにも、切実な問題があるようです。

一般社団法人ひとり親支援協会(エスクル)の今井智洋代表は、シングルファーザーは「社会的に孤立」してしまうリスクが高いと指摘します。
今井智洋代表:
「ひとり親と一言でいっても離婚や死別などさまざまな状況がありますが、死別の人でいうと1割ほど。すごくマイノリティーで、シングルファーザーも1割ほどなので社会的に孤立しています。『世界で自分だけだ』と思うぐらい周りにいないという状況です」
特に深刻なのは、相談できる場所が少なく、精神的に追い詰められてしまうことだといいます。
「自分ひとりではない」死別したひとり親が集うコミュニティーが心の支えに

そんな孤立しがちなシングルファーザーを支える取り組みがあります。
11月8日の夜、オンラインで行われていたのは、死別で配偶者を亡くし、ひとり親となった人を対象に開かれた「エミナル」というコミュニティー。
この取り組みは2018年の秋ごろから始まり、現在も月に1回開催されています。この日も約30人が参加していました。参加者の多くが20代から50代のシングルファーザーです。
3か月ほど前に妻を亡くし、2歳の娘と生活しているという男性は、精神的にも苦しい心情を語りました。
3か月前に妻を亡くした男性:
「保育園でインフルエンザが流行していて、熱で1週間休んだり…職場には申し訳ない…心がぐちゃぐちゃです。なんと言っていいのかわからない。実生活で同じ状況の人と出会うことがないので、皆さんと話していると心強くなったり、いつかこうなれるのかなと希望をもったり、勇気づけられています」

また、約4年半前に妻を乳がんで亡くした岐阜県多治見市の加藤豪さん(47)は、ほぼ毎月「エミナル」のコミュニティーに参加しています。
当時中学生だった2人の子どもの育児に追われ、大変な時期があったと、シングルファーザーとしての経験を振り返ります。
約4年半前に妻を亡くした加藤さん(47):
「当時は何もする気力もわかない。ご飯も食べたいと思わない。人生が終わったと思った。(初めて参加したとき)すごくありがたかった。とにかく子どもが心配だったので参加者に聞いてみたら、心がすっきりした。ここでは死別の人は珍しくない。自分がひとりではないというだけで勇気づけられる」
マイノリティーであるがゆえに相談できる場所が少なく、社会的に孤立してしまいがちなシングルファーザー。今井代表は、こうした場所があることを、もっと広めていきたいと語ります。
今井智洋代表:
「シングルファーザーなど社会的に孤立してしまっている人たちが集まれる場所が行政も含めてなかなかないので、こうしたひとり親が集まる場所があるということを知ってほしい。継続的に参加してもらい仲良くなればなるほど深い話もできるので、エミナルに参加すれば安心できると思ってもらえる場所にこれからもしていきたい」





