【密着】名古屋刑務所 「拘禁刑」が新しく導入され受刑者の社会復帰を後押し 刑務官から戸惑いの声も

いま、刑務所の形が大きく変わろうとしています。「拘禁刑」という刑が新しく導入されます。受刑者の社会復帰を後押ししよういう目的なのですが、指導をする刑務官からは戸惑いの声も上がっています。
この日、刑務所の中で緊急事態が。
壁を蹴り飛ばし暴れる受刑者。刑務官は落ち着いて受刑者と向き合います。
「ひとつひとつゆっくりでもいいですから彼らに訴えかけて、彼ら自身が二度と再犯しないという思いになれば」(名古屋刑務所 大塚祐一郎 看守長)
受刑者が再び罪を犯さないように。刑務所は大きな転換期を迎えています。
愛知県みよし市にある名古屋刑務所。20代から90代までの約560人が収容されています。
Q.名古屋刑務所に来るのは何回目
「これで4回になるんですけど」(受刑者)
こう話すのは、窃盗や詐欺などで服役が4回目となる受刑者です。
名古屋刑務所では、2回以上服役した受刑者の割合は71.5%、そのうち6回以上が25.2%となっています。
「罪を償って1日でも早く出ていこうという夢を持っている」(受刑者)
受刑者が自ら考え、行動する形へ

刑務所で受刑者が日々行っている刑務作業。こちらの工場では、約20人の受刑者が椅子や机などを製作しています。
作業中の受刑者に積極的に声をかける刑務官。以前よりも対話をする機会が増えているといいます。
「指示したり命令したり(刑務作業を)やらそうとするのがメインだったが、本人たちにやってもらうように意識づけを変えていかないといけないので、そういう面でも受刑者と話す機会もかなり増えた」(刑務官)
刑務作業はこれまで「指示」や「命令」で行われていました。それを今、受刑者が自ら考え、行動する形へ変えようというのです。
その背景にあるのが、6月から導入される「拘禁刑」という刑罰です。これまでは「懲役刑」と「禁錮刑」に分けられていた刑罰が「拘禁刑」に一本化されるのです。
「拘禁刑」では、受刑者一人ひとりの特徴に応じた刑務作業が与えられ、刑務官が指導や教育を行います。
「懲役刑は作業が本質的要素になっていたが、拘禁刑の導入により作業・改善指導・強化指導を柔軟に組み合わせて、彼らの改善更生や円滑な社会復帰を図ることで、再犯防止につなげるというところが大きな特徴になる」(大塚看守長)
受刑者と積極的にコミュニケーションも

単純な作業から、更生や社会復帰を支援する作業に重きを置こうというわけです。こちらはカメを飼育するプログラム。
その他にも、受刑者が刑務官たちと一緒に合唱しています。高齢の受刑者に対して、刑務作業の時間の一部を楽器演奏や合唱、ストレッチなどの時間に充てます。認知機能の低下を防いで、出所後の生活を支援するのが目的です。
こちらの受刑者が行っているのはパズル。精神疾患の疑いがある受刑者同士が協力してパズルを解きます。
会話が苦手な受刑者も多く、刑務官は面談を定期的に行っています。
「彼ら自身のコミュニケーション能力も改善できればいいかなと思いながら、積極的に声かけだったりとか面接の機会を設けるようにしている」(刑務官)
「いろいろ聞いてくれるというのは自分の言いたいことを言えて、気分的にほっとする」(受刑者)
懲罰や作業の強制はしない方針

一方で作業時間中にもかかわらず、部屋から出ることもなく寝ようとする受刑者も。
「工場に出たくないから。出ると集団になる。部屋だとゆっくりできる。(他の受刑者に)気をつかわなくていい」(受刑者)
従来であれば「怠けている」として懲罰の対象になります。しかし、更生のため特定の受刑者に対して懲罰や作業の強制を行わない方針です。
新しい方針に戸惑いを見せる刑務官もいます。
「違和感はある。こっちは作業してる、向こうは全然やっていない。同じ工場の中でそういう状況が生まれるのはちょっと葛藤があるし、どうしたらいいのかなと」(刑務官)
合唱のプログラムで緊急事態です。受刑者が突然怒り出したといいます。構わず壁を蹴り飛ばします。この受刑者の行為も本来、懲罰の対象です。
しかし、懲罰にはせず、刑務官はゆっくり話を聞いて受刑者を落ち着かせます。
「彼らの改善更生のためには一人ひとりの問題を見て、それに合わせた処遇をすることが必要となるので、多少違和感があるかもしれないけど、自然とそれが淘汰されていくのではないのかなと思う」(大塚看守長)
変わりつつある刑務官と受刑者の関係。「懲らしめ」という意味合いが強かった刑罰から受刑者の立ち直りに重きを置いた刑罰へ。
拘禁刑の導入で、刑務所の在り方はどう変わっていくのか刑務官が模索する日々は続きます。