
技術は進歩もスタッフが不足…地域医療を直撃する『2040年問題』病院ごとの得意分野活かした“役割分担”進むか

いま、全国の病院の7割が赤字経営といわれ、医療機関の倒産も増えている。特に深刻なのが、地方の地域医療をどう存続させていくかという問題だ。“地域医療の砦”であり続けるために、岐阜県美濃加茂市の「中部国際医療センター」が、様々な取り組みを始めている。
■1日に1200人以上…中濃地区に誕生「中部国際医療センター」
岐阜県美濃加茂市の「中部国際医療センター」。街を見下ろせる、のどかな高台に建っている。かつて同じ市内にあった病院が、2022年にこの場所に大規模化して移転した。 35の診療科と502床を備え、中濃地区の「医療の砦」となる病院に生まれ変わった。 患者: 「お父さんが(診療科)3カ所回っている。私も胃がんで手術した。素晴らしい機械がいっぱいで助かっています」 「階段から落ちて救急車で運ばれて。先生は親切だし、すぐに対応してくれる」
人口およそ5万7000人の町にもかかわらず、1日に1200人以上が訪れるという。毎日多くの患者が集まるには、ワケがある。 力を入れているのが、“断らない診療”だ。「救命救急センター」では、年間5000台以上の救急車を受け入れている。 近隣の自治体と連携して受け入れ患者を増やすだけでなく、2025年4月には、岐阜県から命に危険がある救急患者に対応できる「三次救急」の病院に認定された。受け入れる救急車の数は、移転前の2000年初頭からおよそ2倍に増えている。 中部国際医療センター 山田実貴人副病院長: 「この地域の拠点になっているということ。“必ず断らない”ということが一番大事と思います。そういうことが信頼になって、患者さんに来てもらえば、病院は回転していくことができる」
「どんな患者も断らない」。その背景には、地域医療の危機的な状況がある。
■設備はあるのに医師がいない…人口減少進む地域で深刻な状況に
人口減少が進む、岐阜県白川町。この町、唯一の病院「白川病院」は深刻な状況を迎えている。 病院の耐用年数は、39年と定められているが、この病院の築年数はすでに44年。雨漏りもあったが、建て替えに踏み切れない事情がある。 白川病院 野尻基院長: 「患者数が少ない、それが根本的な原因。もう1つが、診療報酬が物価上昇に合っていないということですね。病院が突然、町からなくなることも数年以内に起きてくるかなと思います」
また、岐阜県下呂市では2024年10月、地域に波紋を広げる出来事が。10億円の赤字となった県立下呂温泉病院は、出産業務を休止したのだ。 最新の設備がある分娩室があるのに、小児科医と産婦人科医がいないためで、新たな医師を探してはいるが、難しいのが現状だ。
県立下呂温泉病院 西垣和彦院長: 「ここで働くメリットというか、そういったものが、少し魅力として欠けているんじゃないかと。常勤として、ここに住むことが必要になる。(来てもらうためには)医師に対して給与を含めて都市部より少し上げないといけない。そうでなければ、こういう所の医療は成り立たなくて、どんどん無くなっていく」
■『もうできません』とはいうわけにはいかない…医療の存続のために
厚生労働省の推計では、2040年には医療・福祉の就業者数が1070万人必要にも関わらず、96万人が不足する見込みだ。医療を求める高齢者が増える一方で、少子化で働き手が減少する、いわゆる「2040年問題」と言われている。 こうした地域医療の受け皿となっているのが「中部国際医療センター」で、すでに動き始めている。シーツを取り変える彼女たちは、ミャンマーから受け入れた看護助手だ。 ヤミン トゥさん: 「看護師になりたいです。チャンスがあったら頑張りたいです」 日本語で医療に関する勉強会も行っていて、病院では看護師になりたい人をバックアップ。業務日誌も日本語で書いている。10月1日から、新たに25人が看護助手として新たな一歩を踏み出した。 看護師: 「人材不足で、人材確保で定着といったところでは、海外の方々のサポートはなくてはならないと思っています」
スタッフの過重労働を減らすための取り組みも進めている。医師や看護師に配布されている「スマートフォン」で患者との会話を録音すると、すぐさまAIがカルテを作成してくれる。 症状が分かりやすくまとめられ、すぐさまスタッフ同士で情報共有ができ、業務の効率化を図っている。
さらに、1年半前には「陽子線がん治療センター」の運用が始まった。世界に数台という「プロビーム」という最新機器は、どんな形のがん細胞へもピンポイントで照射することができるため、従来の放射線治療と比べ、体への負担が少なくてすむ。 中部国際医療センター 山田実貴人副病院長: 「地方の病院だから世界的なレベルなことができない、ではなくて、地域の病院で地域に住む人が使えるように、世界的なものも入れていくことが重要になってくるんじゃないかなと思っています。全部みんな『名古屋に行きましょう』なんて大変ですもんね。地域で、岐阜県の中で病院がなくなってしまいますので。この地域に医療を残し、どのように(病院ごとに)役割分担をして得意分野をやっていくかが、お互い求められている。今それをやっておかないと、もう2035年・2040年になったりして、『もうできません』とはいうわけにはいかない」
どんな場所でも患者が平等に医療を受けるために、病院はどう変わるべきか。地域医療を未来に残す取り組みは、「待ったなし」の状態が続いている。 2025年10月31日放送





