
自衛隊ミサイル部隊が愛知・蒲郡港からフェリーで沖縄へ 進む“軍民共用”を現場から報告

高市総理の発言をきっかけに、日中関係に摩擦が生じています。10月、有事を想定した自衛隊の訓練が行われ、岐阜のミサイル部隊も参加しました。その目的は?

10月16日、愛知県の蒲郡港に姿を見せたのは、フェリー「はくおう」。
「航空自衛隊の部隊を輸送するフェリーが、蒲郡港に入港します」(菅原竜太記者)
蒲郡港は自動車などの貿易の拠点で、フェリーは通常入港しません。
岸壁にやってきたのは、自衛隊のミサイル部隊です。
なぜ蒲郡港に、自衛隊を運ぶフェリーが来たのでしょうか?
防衛省と契約した民間の「PFI船舶」

航空自衛隊岐阜基地に駐屯する「第15高射隊」。空から来る敵を迎撃する地対空ミサイル「PAC3」を配備しています。
10月、全国各地で行われた「自衛隊統合演習」の一環として、部隊の車両を沖縄まで運ぶ訓練が行われました。
「自衛隊の海上輸送能力だけでは、災害派遣あるいは島しょ部に対する対応で輸送力が不足するため、民間船舶を使用している」(航空自衛隊 第15高射隊 森本慶彦 隊長)
民間船舶。
防衛省は船舶会社と契約を結び、有事の際に民間の船でも人員や武器などを運べるようにしています。
「PFI船舶」と呼ばれ、2016年に安倍政権下で始まりました。契約額は10年で約250億円で、現在運航しているのが「はくおう」と「ナッチャンWorld」の2隻です。
「自衛隊はいま『南西シフト』で、 鹿児島や沖縄の南西諸島に部隊を配備して、いざという時には本土から部隊を増援していくという必要がある。自衛隊の輸送艦は隊員や武器弾薬を運ぶことに特化して、平時には使い道がない。民間の船にして“軍民共用”としたほうが効率がいいという考えです」(防衛ジャーナリスト 半田滋さん)
沖縄・宮古島では一部の住民から反発

蒲郡港で積み込まれたのは、地対空ミサイルを移動させる車両。ミサイル本体は積み込んでいません。
向かった先は、沖縄。
宮古島の平良港では10月21日、「はくおう」の入港を知り、島の住民が集まっていました。
「ミサイル車両が市民に知らせることもなく、市内を走るというのは納得できない」「自衛隊が(平良港を)利用すること自体が戦争を想定したもの。島が戦場になるんじゃないかという、ちょっとした危険を感じている」
国は2019年、宮古島に陸上自衛隊の駐屯地を建設。翌2020年にミサイル部隊が配備されました。
基地建設や度重なる演習で、一部の住民の間に反発が生じています。
「我々はミサイル発射車両が外に出ることを拒否します」(住民)
「車両通りますので、道開けてください」(宮古島市職員)
「ミサイル発射車両が公道を通ることは絶対許しません」(住民)
にらみ合うこと、約30分。
「沖縄県警の警察官が現場に到着しました」(菅原記者)
「車両の前に立ちふさがっている皆さん、通路をあけてください」(警察)
宮古島警察署の警察官によって、住民は退去させられました。
第15高射隊は、島の市街地へ。
目的地の航空自衛隊・宮古島分屯基地に到着。自衛隊によると、5日間、基地にとどまったとしています。
PFI船舶は今後8隻に

部隊が宮古島から蒲郡港に戻ってきたのは、10月29日。
港に入ってきたのは、もう1隻のPFI船舶「ナッチャンWorld」。
現在のPFI船舶2隻は、2025年で契約が終了します。
2026年から新たにフェリー2隻がPFI船舶となり、今後8隻まで増やす計画が決まっています。次期PFI船舶となるフェリー「ナッチャンNEO(ネオ)」が、広島県の造船所に停泊していました。
訓練を終えて、岐阜基地に戻った第15高射隊。
「輸送訓練を終了し、帰隊しました」(隊員)
「みんなお疲れさま。今回参加したPFI船舶の輸送訓練については、自衛隊がいかなる状況においても、国民の命を守るために極めて重要な訓練。今回の訓練で得られた教訓を今後に生かし、さらなる精強な部隊をつくっていこう」(森本隊長)
有事に攻撃対象になる可能性も

「有事に備える」という理由で進められる、自衛隊と民間の連携。
愛知県は11月、蒲郡港を含む三河港が国の「特定利用港湾」に指定されることを受け入れる方針を示しました。
特定利用港湾に指定されると、民生利用を主としつつ、自衛隊や海上保安庁が円滑に利用できるようになります。
「これまでも自衛隊や海上保安庁は三河港を利用しており、特定利用港湾になったあとも、自衛隊や海上保安庁による平素の利用に大きな変化はなく、特定利用港湾になったことのみによって攻撃目標とみなされる可能性が高まることはない」(愛知県 大村知事)
「民間の港湾が“軍民共用”に変わるわけですよ。日本も批准しているジュネーブ諸条約の第一追加議定書の中に、『攻撃対象は軍人と軍事施設に限る』という言葉が書かれているわけです。それは裏を返せば、民間人や民間の施設は攻撃してはならないという約束事なんです。だけど“軍民共用”になるということは当然、日本を攻撃する相手側からは『三河港は“軍民共用”なんだから、攻撃しても国際法上問題がないはずだ』となる」(防衛ジャーナリスト 半田滋さん)





