
【戦後80年】戦争の悲惨さを演劇で 全員戦後生まれで役作りに試行錯誤 名古屋の劇団の挑戦

その数63回、7858人の命を奪った、名古屋空襲。地元名古屋の劇団が、演劇にして伝えます。関わる人たちは、全員が戦後生まれ。いかに戦争の「リアル」を伝えるか。試行錯誤が続いています。

名古屋を中心に活動する劇団、「俳優館」。戦後80年のこの夏、俳優館では名古屋空襲をテーマにした演劇を行うことにしました。
妹の「とき」を気にかける主人公、12歳の「あい」を演じるのは、三重県四日市市出身の俳優、藤本幸音さん、25歳です。
「いまこの平和な日本で、こんなに死を間近で見ることがないと思うし、それを実際に体験した、しかもこの名古屋でたった80年前にという事が衝撃」(主人公 あい役 藤本幸音さん)
太平洋戦争中、63回にわたった「名古屋空襲」では、7858人が犠牲となりました。
航空機産業が盛んで、軍需工場が多く立地していた名古屋。1944年12月の三菱の航空機工場への空襲以降、次第に被害は市街地へと広がっていきます。
原作者も迫力ある演技に…

舞台の脚本は、名古屋市出身の漫画家の作品がもとになっています。
「もともと母の戦争体験をもとに、その当時の日常を書きたいという思いで。戦争というものが生活の延長線上にあるということを、丁寧に描きたいという思いで、そこは気をつかって描きました」(原作者 おざわゆき さん)
原作者のおざわさんの思いを受け、舞台では戦時中の子どもたちの日常も描かれます。
主演の藤本さんをはじめ、出演者たちは戦争を知らない世代ばかり。資料館の見学などを通して、役づくりを行ってきました。稽古にも熱が入ります。
原作者のおざわさんも迫力ある演技に…。
「自分の画ですごく一生懸命、表現して描いたが、実際の人間が演じることで、本当にこうだったのではないかと、見る人にすごく伝わるものがある」(おざわさん)
死の恐怖や戦争の恐ろしさを表現

劇団員としての“日常”。衣装合わせでは、笑みもこぼれます。
「衣装を着ると、より当時の感じが出ると思う」(藤本さん)
本番まで1週間に迫った14日の通し稽古。戦況が悪化する中、子どもたちの感情が抑えきれなくなる場面も。
「毎朝目が覚めるたび、怖くて怖くて、きょうこそ敵が来るかも。B29が爆弾落とすかも。三菱が狙われる。同じ名前の工場で女学生が大勢死んだ。怖くて怖くて…」(劇中より)
子どもたちの日常にも迫っていた死の恐怖。舞台を通して、戦争の恐ろしさを伝えます。
「私だったら、いっそ先に死んじゃった方が楽と思うが、でもこの時代の人は『耐える』と強く生きた人がたくさんいるんだな、強いなって。(演劇を)見たことで、平和や戦争について考えるきっかけになればいいなと思う」(藤本さん)