原発の再稼働をめぐるデータを改ざんするという前代未聞の問題について、調査結果が公表され、企業のトップが辞任する事態となりました。不正の原因となったのは、中部電力内の「あせり」と「おごり」によるあきれた実態でした。
10年以上続いた前代未聞の“不正”

9月14日午後2時に開かれた中部電力の会見。冒頭で、林欣吾社長は謝罪の言葉を述べました。
中部電力 林欣吾社長:
「度重なる不適切事案の発生により、地域の皆さまや多くのステークホルダーの皆さまに、多大なるご心配と迷惑をおかけするとともに、広く社会の皆さまからの強い不信を招き、改めて深くおわび申し上げます」

浜岡原発の再稼働に向けた安全審査をめぐり、中部電力がデータを意図的に改ざんしていた問題で、この日、調査委員会は原因について、社内の一部が“不正”を独自に正当化していたと指摘しました。
8か月にわたって世間を騒がせ続けたデータ不正。問題が明るみに出たのは年明け早々、2026年1月に行われた社長の謝罪会見でした。
2011年の福島第一原発事故以降、稼働を停止している静岡県の浜岡原子力発電所。その3・4号機の再稼働に必要な国の審査をめぐり、中部電力は、耐震設計の目安となる地震の揺れのデータを不適切な方法で算出。意図的に小さく見せ、いわば“都合のいいデータ”を選定するなどの改ざんを行っていました。

「安全審査」の合格は再稼働の“絶対条件”。中部電力は10年以上前に、原子力事業を検査・監視する国の機関『原子力規制委員会』に審査を申請し、周辺の地層や耐震性の調査を重ねていました。
しかし、国は『ねつ造』と厳しく批判。
原子力規制委員会 山中委員長:
「安全に直接関わる審査データのねつ造案件。明らかに不正行為であると考える」
原子力規制委員会 委員:
「本当にがっかりなんです。当たり前の話、再開などできるわけがない」

遅くとも2012年からあったとみられる前代未聞の“不正”は、2025年2月、原子力規制委員会への情報提供をきっかけに発覚。実は、2018年以降、社内で問題視する声が複数回上がったにもかかわらず、改められることがなかったといいます。
さらには、不正が発覚し、国が中部電力に聞き取りを始めた2025年5月以降も、中部電力は69ケースにのぼるデータを不正に操作し、改ざんを隠す工作をしていました。
中部電力の林社長は、2026年3月の会見で進退を問われると…
中部電力 林欣吾社長:
「(調査委員会による)事実関係や原因究明が定まってから、総合的に考えたい」
しかし、ずさんすぎる体質は、その後も次々と明るみになります。
2026年8月には、浜岡原発1・2号機の廃炉にかかる費用を不適切に請求していたことが判明。また、9月10日には電気料金を過大に徴収していたと発表するなど、ガバナンス不全が露呈する形となっています。
原因は「おごり」と「あせり」…早期再稼働の圧力が現場のプレッシャーに

過去に前例のない、原発への信頼をゆるがす不正。外部の弁護士らで構成された調査委員会による「データ不正の調査結果」が、9月14日に公表されました。
不正に至る経緯や原因が250ページ以上にわたり記されています。見えてきたのは、2014年ごろから人為的にデータが選定され、内部通報や指摘などが2度もあったにもかかわらず、対応をとらなかったという実態でした。
不正の背景にあったのは、原発の安全性に対する強い自負があるがゆえの「おごり」です。
「浜岡原発の安全性に問題はない」として、社内の一部で不正を正当化する動きが広がっていたほか、「原子力規制委員会の指摘や要請は納得できない」との考えもあったといいます。

さらには、早期再稼働を経営目標として掲げる経営層からの圧力による、現場の「あせり」。
報告書では、経営陣が不正に直接関与したとは認定していませんが、経営陣からスケジュールの遅延を批判・叱責する発言など、プレッシャーを与えていたと認定。「何としてでも早期再稼働を実現しなければならない」との受け止めにつながり、そのうえで「信念すら持って不適切な行為を実行に移した可能性がある」と非難しています。
また、会議における経営層の発言も明らかに。
勝野会長 (会議における発言):
「審査スケジュールが尺取り虫のように遅れる」
林社長(会議における発言):
「議論することではなく、全力で走ることが重要」
「あれだけ議論をして、ロードマップをつくってやるという話をしたが、その後何をやってきたか」
これらの発言が「一定の心理的負担になった可能性は否定できない」としました。
経営トップ2人が異例の同時辞任 再稼働申請も「取り下げ」へ

9月14日午後2時から始まった中部電力の会見には、参加を予定していなかった勝野会長も現れ、林社長とともに冒頭5秒間、深々と頭を下げました。
中部電力 勝野哲会長:
「このたびは地域の皆さまを始め、広く社会の皆さまに、多大なるご心配とご迷惑をおかけするとともに、不信を招いたことに、改めて深くおわび申し上げます」
中部電力 林欣吾社長:
「安全性の根幹に関わる基準地震動策定において、不適切行為を繰り返し行っていたことは、原子力事業者として決してあってはならないこと。地域の皆さまからの信頼を失墜させ、事業者としての適格性をも疑われるものであると痛切に感じている。経営層が実情を理解しないまま、原子力土建部を叱責したことが圧力として作用し、不適切行為の要因の1つになり、深く反省している」
そのうえで、一連の責任をとって勝野会長と林社長らが辞任を表明。経営トップが2人そろって辞任する、前例のない事態です。
また、10年以上もの時間を費やしてきた3・4号機の再稼働について、審査の申請を取り下げるとしました。
元幹部が指摘する中部電力の体質

過去、浜岡原発の安全審査にも携わった原子力規制庁の元幹部が語るのは、『中部電力ならではのプレッシャー』です。
長岡技術科学大学 山形浩史教授:
「中部電力の人は、どちらかというと真面目な愚直タイプの方が多かった。経営層から無理な目標を与えられる。現場の実力が分かってなくて経営目標を立てられる。(原発を)早く動かさないといけないとか、工事費をおさえないといけないとか、経営的なプレッシャーが特に少人数のグループに強くかかってきた」
中部電力が唯一保有する原発であるがゆえ、あせりは相当だったはずと山形教授は指摘します。
長岡技術科学大学 山形浩史教授:
「1年間(原発が)とまれば 1000億円は損をするし、動けば1000億円利益が出る。経営として早く動かさないといけないというのは、当然のことだと思う。本当はきっちり議論してデータを集めてやればいいが、時間もかかりすぎてしまうので、早く終わらせたいという強い動機になってしまったんだと思う」
今後、中部電力に求められるのは“速やかに膿を出し切る”こと。
山形教授は、コンプライアンスや安全文化などの意識が変わっていかなければ、信頼は回復しないと指摘します。
揺らぐ地域の信頼…「白紙」となった再稼働

経営トップが同時に辞任する“異例”の事態。浜岡原発で事故が発生した際などに、原発からおおむね30キロ圏内の静岡県菊川市から一時避難者を受け入れる豊橋市と田原市でも、疑問視する声が上がっています。
豊橋市民:
「これからの時代、原発もありかなと思っていたのですが、不信感が生まれてしまうと、原発はどうかなって余計に心配」
田原市在住:
「結局どこかで隠しているのがばれると、またそれがうそなのか、隠し通すと最終的にとんでもないことになると思う。正直に市民に分かるように、中電が伝えてくれれば」
10年以上かけた安全審査の申請を取り下げ、「白紙」となった再稼働。経営陣を一新することで「不正の膿」を出し切り、再スタートをはかることはできるのでしょうか。
前代未聞の今回のデータ改ざんですが、中部電力は、この問題が電気料金に直ちに影響することはないとしています。


