老舗畳店開発の「白い畳」の材料は「カキの殻」 イグサ農家が減って窮する畳業界の救世主になるか

名古屋市にある老舗の畳店・伊藤畳商店が新たな畳を開発しました。素材に使われているのは、普通は大量廃棄されるカキの殻です。
「やるしかない」新たな挑戦を決意

創業70年を超える伊藤畳商店では、従来のイグサではなく、カキ殻と樹脂を合わせて作った新しいカキ殻の畳を手がけています。
取締役の伊藤貴大さんは、周囲の畳店が軒並み閉業する状況やイグサ農家の減少に不安を感じ、「もうやるしかない」と挑戦を決意しました。

まずカキの殻を洗って汚れを落としたあと、機械で粉末状にします。粉になったカキの殻は樹脂メーカーへ。スーパーの袋や釣り糸に使われているポリエチレンに、カキの殻の粉を練りこみ、細い糸に成形します。糸を織り込んだら、カキの殻入り畳表の完成です。

実は伊藤さんは将来のためにと事業を拡大。子どものころに食べた島根県隠岐の島のカキが忘れられず、その味を広めようと、2年ほど前に養殖・販売に乗り出しました。
ただ、1つ問題がありました。
年間約2.4トンのカキ殻を焼却処分

「カキをカキフライにしたりとか剥き身で発送したりするので、その加工の工程でどうしてもカキ殻が出てしまいます」
その量は年間約2.4トンにのぼり、100万円ほどかけて業者に焼却処分してもらっていました。
伊藤畳商店 伊藤さん:
「焼却処分にもエネルギーがかかっているということを聞いて、環境にも良くないですし、何か力になれないかなと」

カキの殻に何か使い道はないか、伊藤さんは成分を調べてみることに。すると、カキの殻の主成分は炭酸カルシウムで、日焼けや摩擦に対する耐久性があるほか、カビやダニが発生しにくいということが分かりました。
「この性質を生かせるものは?」と考えあぐねていたある日、伊藤さんの目に飛び込んできたのは、倉庫にあった塩化ビニール製の畳でした。
伊藤畳商店 伊藤さん:
「樹脂の畳もいま出ていますし、樹脂とカキ殻の炭酸カルシウムが、強度が増すっていうふうに。製造の界隈では普通のことらしくて、樹脂と混ぜていくことを考えましたね」
配合する量によっては割れやすくなる炭酸カルシウム

すぐにカキの殻を使った畳表の開発に乗り出した伊藤さん。ただ、一朝一夕にはいきませんでした。炭酸カルシウムは樹脂の強度を上げますが、配合する量が多いとうまく樹脂と結合ができず、割れやすくなってしまいます。少なすぎると、ペラペラでふにゃふにゃな素材に。
伊藤畳商店 伊藤さん:
「そもそもうまくいくとは思ってなかったけど、まさかこんなところでコケるとは思っていませんでした。もうやるしかない、と思っていました。年々、イグサ農家さんが減っていくのもあって、新素材はどこかで挑戦しないといけないと」

住宅トレンドや生活スタイルの変化で、畳の需要は減少し、材料のイグサを作る農家も減りました。伊藤さんはイグサの代わりになる素材を探していたのです。配合する量を試行錯誤すること、3カ月ほど。ようやく、ポリエチレン7に対してカキの殻3ほどという黄金比率を割り出しました。

引っ張られる力に対する強度の検査をしたところ、この畳表は、イグサの畳表より、約2.6倍の耐久力があることが分かりました。また、ポリエチレンは溶かせば再利用が可能なため、張り替えたあと、再び畳表に作り直せるのも特徴です。
伊藤さんは、カキの殻の次の展開も考えていました。
伊藤畳商店 伊藤さん:
「カキ殻の効能はすごく高いものなので、しっくいの塗装に使うなど考えています」