
わずか5分で800万円のランクルが…急増する“自動車盗” 対策勧められていた被害者「他人事だったと反省」

大事な愛車が一瞬で盗まれてしまう「自動車盗」。愛知県では、全国で最悪だった2024年の件数をすでに上回るペースで被害が急拡大している。その実態を取材した。
■たった5分の犯行…狙われる「ランクル」
2025年9月、愛知県豊橋市に設置された防犯カメラがとらえた映像。 未明の住宅街に現れた2人の人影は、画面左手の駐車場の方へ。その5分後、ライトが点灯し、白い車が走り出して行った。
わずか5分で盗まれたのは、トヨタの人気車種・ランドクルーザーだ。建設会社を営む藤城匡昭(ふじしろ・ただあき)さんが、2023年におよそ800万円で購入した車が被害に遭った。 車を盗まれた藤城匡昭さん: 「明朝6時ころ、新聞取りに来た時に『あれ?無いな』と最初に気づいた」
2025年8月には、名古屋市中川区の自動車販売店『G-STYLE』でも、ランドクルーザーが狙われた。 未明に現れたマスク姿の2人組。1人が助手席のドア付近に工具のようなものを押し当て、作業をしているように見えるが、通行人に気づかれたのか、慌てた様子で走って逃げていった。
店の前に置かれていたランドクルーザーは、助手席のドアに穴が開けられ、配線がむき出しになっている。 G-STYLEゴンサルベスアンドレ社長: 「防犯カメラの映像見ると、枝切りハサミか何かのようなもので切断している映像が見られますね。段差があるので、よっぽどここなら盗られないだろうなと僕も油断していたところはありますね」 大胆な犯行は未遂に終わったが、まだ犯人は見つかっていない。
東海地方でいま、こうした「自動車盗」が猛威を振るっている。警察庁によると、2024年に全国で発生した自動車盗の被害は6000件以上。
なかでも愛知県は全国トップの866件と、1日あたり2台以上が盗まれた計算だったが、2025年はさらに被害が増え、9月末までですでに前年を上回る886件が発生している。
■主流の手口「CANインベーダー」とは…防止装置に依頼殺到
わずか数分での犯行。一体どんな手口なのだろうか。愛知県岡崎市にある、車の防犯対策の専門業者「プロテクタ」の上篠洋専務に話を聞いた。 上條さんによると、今、主流となっているのが「CANインベーダー」という手口だ。モバイルバッテリーくらいの大きさの特殊な装置を車につなぎシステムに侵入することで、キーがなくてもロックを解除したり、エンジンを始動したりできるという。 プロテクタ 上篠洋専務: 「あたかも純正のリモコン使ったかのようにドアロックを開けるという信号を送ることで、車の純正のアラームを作動させずに車内に侵入できる」
上篠さんが車のオーナーに勧めているのは、システムのハッキングを防ぐ装置の取り付けだ。今は依頼が殺到し、半年先まで予約がいっぱいだという。 プロテクタ 上篠洋専務: 「車の値段も高いしセキュリティーもそれなりの値段するので、車を買った方全員がセキュリティーをつけているわけではない。犯人も、セキュリティーがついていない車を探すのはそんな難しくない。そこを集中的に狙ってくる」
捜査関係者によると、CANインベーダーなどの手口で盗み出された車は、ドアなど一部を取り外して日本車の人気が高いアジアや中東などに輸出されているとみられている。
■盗難車の「運び込み先」に…ヤードが摘発
実態をつかみづらい、盗難車の流通ルート。2025年、「運びこみ先」として摘発された場所が愛知県愛西市にある。 田畑がひろがるエリアに忽然と現れた「コンテナの壁」。自動車の解体場、いわゆる「ヤード」だが、中の様子はうかがえない。
2025年7月、このヤードから見つかったのが、ボンネットやタイヤなどが外されて変わり果てた姿になってしまったトヨタのプリウスだ。 大阪市の女性(30)が何者かに盗まれた車で、警察は、盗難車と知りながら保管した疑いでヤードの経営者の男らを逮捕した。
近所の住人: 「(車の出入りは)毎日ありました。キャリーカーなどで車を運んで来ていたり、事故車のようなものを運んでいるのかなと思っていた。子育てしている場所なので怖い」
■ヤードの中は一体…事件とは無関係の場所で撮影が許可
ヤードとはどんなところなのか。摘発されたヤードとは関係のない、愛知県津島市の解体業者が撮影を許可してくれた。 (リポート) 「こちらのヤードに運ぶためのものでしょうか、前方にはトラックなどがありますね。もう跡形もないと言ったらあれですけど、窓やドアが外されている車が積まれています」
さらに奥へ進むと、車が何台も山積みに。広い敷地に置かれた車はおよそ200台。中古車オークションなどで仕入れたものだということです。 屋根のあるスペースには、仕訳けられた部品が山積みになっていた。 (リポート) 「こちらにはOとRが逆ですが、『CORWN』とかかれているように見えますね。元々はクラウン(CROWN)だったんでしょうか」 ヤードに運び込まれた車は解体し、パーツとして海外に輸出しているといいます。
一部が盗難車流通の拠点になっているとみられるヤード。愛知県では2019年から、ヤードの届け出や標識の掲示を義務とする「ヤード条例」を施行し、取り締まりを強めている。 しかし、2025年7月に摘発された愛西市のヤードは、無届けの「違法ヤード」だったとみられ、監視の目にも限界があることが明らかになっている。
■思い出も詰まった車…被害に遭った男性「他人事だと思わずに対策する」
わずか5分で愛車のランドクルーザーを盗まれた、愛知県豊橋市の藤城さん。 車を盗まれた藤城匡昭さん: 「子供たちの七五三や卒園式などのときは乗せていたので思い出もあった。非常に憤りも覚えます。返していただけるのであれば、返していただきたい」 警察に被害届を出しているが、いまのところ手掛かりは得られていない。 車を盗まれた藤城匡昭さん: 「ディーラーから言われていたのは、ハンドルロックなどの設備ですよね。今回の経緯を受けて、少し他人事だったなと反省点。他人事だと思わずに対策をすることが、まず一つのきっかけかなと思う」
警察庁は、盗まれた車の車種別の台数を発表している。2024年は1番多かったのがランドクルーザーで、プリウス、アルファードと続く。 自動車盗難に詳しいジャーナリスト・加藤久美子さんは、「海外で日本の高級車は人気で、組織化された窃盗グループに対し、車種を指定して『ランクルを〇台』など指示が出ることも」と話している。
“全国最悪”の愛知をはじめ、「自動車盗」の被害が止まらない。いまできるのは、愛車の自衛・防犯対策だけなのだろうか。 東海テレビ「ニュースONE」では、自動車盗についての取材を続けています。car@tw.tokai-tv.co.jp まで情報をお寄せください。





