公立・私立・中高一貫と選択肢が広がり、大きな転換期を迎えている愛知。これから子どもたちは、どのような視点で高校を選ぶといいのでしょうか。愛知県で70年以上入試対策に取り組む『野田塾』の村上友哉さんに、公立・私立・中高一貫のメリットや変化、今後の受験傾向について聞きました。
躍進する私立、高倍率の中高一貫校
2026年2月下旬、愛知県の公立高校で一般入学試験が行われました。今回の志願者総数は約5万3,000人で、全日制全体の倍率は1.73倍(昨年度1.85倍)に低下。さらに、第一志望者だけで算出した実質倍率は0.98倍となり、昨年度を下回りました。
“公立王国”と呼ばれる愛知に起きた、受験傾向の変化。一方、愛知県教育委員会が2025年12月に発表した「令和7年度中学校等卒業見込者の進路希望状況調査-第2回-」(調査期日/2025年12月5日時点)によると、県内私立高校(全日制課程)への進学希望者は24.8%で“過去最高”という結果となりました。
さらに、2026年度から愛知の公立中高一貫校は全9校に。2025年度に比べると志願者数は減少傾向にあるようですが、2026年度における各校の倍率は、明和高等学校附属中学校(普通コース)は約11.6倍、刈谷高等学校附属中学校(普通コース)は約6.5倍など、高い関心を集めています。
愛知県教育委員会によると、私立躍進の理由は“私立高校の無償化”。これまでネックだった費用面のハードルが下がり、私立高校が進路の選択肢に増えたことを挙げます。また、通信制や定時制など進路の選択肢が拡大したことで、“子どもの力を伸ばせる環境”を軸に進路を選ぶ家庭が増えたのではと、見解を示しました。
“すべり止め”から本命へ、躍進する「私立」

公立、私立、中高一貫校には、それぞれどのような特色やメリットがあるのでしょうか。『野田塾』の村上友哉さんに、お話を聞きました。
村上さんによると、大学への進学実績のある私立高校が増えている傾向も、私立躍進の追い風となっているといいます。
近年では、大学への進学実績に力を入れる私立高校が増加。特進クラスや選抜クラス、英検などの資格習得サポートなど、進学を見据えたカリキュラムが充実しているといいます。
また、各私立高校がもつ有名大学への指定校推薦枠も心強い存在。さらに、学校が受験対策を行ってくれるケースも多く、予備校に通う費用の負担を軽減できる点も魅力となっています。
一昔前、愛知の高校受験では、第一希望に公立、第二希望も公立、第三・四希望に私立というのが主流。トップレベルの私立校をのぞき、私立を“公立のすべり止め”と位置づけ、受験校を決めることが一般的な流れでした。
しかし、私立高校のレベルアップを受けて、私立を“すべり止め”ではなく、第一希望として選ぶ家庭が増加。受験の組み立て方も変わりつつあり、公立高校を2校受験しない選択や、希望の私立高校に合格した時点で公立高校の受験を見送るケースも珍しくないとのこと。また、「公立はチャレンジ校だけ受験する」というパターンも増えてきたといいます。
自由な環境で勉強と部活を両立できる「公立」

ただし、公立高校に魅力がなくなったわけではありません。村上さんによると、公立は一部の伝統校をのぞいて自学自習が基本で、学習面でも生活面でも中学校以上に自由度が高い学校も。部活動と勉強を両立したい人や、自分のペースで学校生活を送りたい人、自己管理ができる人にとっては適しているといいます。
また、村上さんは公立高校の受験傾向について、受験層が固定化されている“トップ校”の倍率は「今後も変わらない」と回答。一方、人気の私立高校へのアクセスがいいエリアでは、中堅校の受験者層を中心に、第一志望や第二志望に私立高校を選択する傾向が今後も続くと見解を示しました。
独自の研究や課題解決を学べる「中高一貫校」

さらに近年、存在感を増しているのが中高一貫校。私立に加えて公立でも一貫校が設置され、新しい受検層が生まれています。
村上さんによると、高校受験がない分、6年間を通して、計画的に学べることが特徴。各学校では、リベラルアーツ(※)を軸とした文理融合の学び、課題研究や探究活動、国際バカロレア(※)の考え方を取り入れた主体的・協働的な学びなどが展開されているといいます。
また、英語力の育成や地域資源を生かした体験活動にも注力。独自の研究や課題解決を学びながら、大学受験に向けた準備を進められる環境が整っているといいます。
(※)リベラルアーツ
特定の分野のみを学ぶのではなく、文理の区別なく幅広い分野を横断的に学び、定まった答えのない課題を解決していくために必要となる、多様性への理解を含む広い視野と幅広い教養を身に付けることを重視する教育。
(※)国際バカロレア
国際バカロレア機構(本部スイス・ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。グローバル化に対応できるスキルを身に付けた人材の育成を目的とする。世界150以上の国・地域の5,600校で実施されている。
愛知の受験傾向はどのように変わる?

公立中心から、複数の選択肢から選ぶ時代へ。愛知の受験傾向は、今後どのように変化していくのでしょうか。
村上さんは、「公立高校の一般入試に複合選抜制度が導入されて35年以上、通知表に絶対評価が導入されて20年以上が経過する中で、教育環境や社会の変化により、教育や受験に対する考え方の多様化が進みました」と話し、続けて「世代も一巡し、すでに定着したようにも感じていますので、この流れは今後も続くでしょう」と予想します。
また、公立中高一貫校の開校によって新たな受検生が掘り起こされ、そのための教育を受けた子どもたちが増えていることにふれ、「今後、新たな中高一貫校が、どの地域で、どれだけ拡大するのかにも注目しています。選択肢の増加は、さらに流れを加速させることになるかもしれません」と答えました。
合格に必要なのは「目標設定」

受験や進路に対する考え方が多様化する今。子どもたちは、どのように受験勉強や高校選びに取り組むといいのでしょうか。
高校受験を控える中学生に必要なのは、中学3年生が始まるまでに、「行きたい高校」をもつこと。村上さんによると、中学受検をする小学生の多くは、小学5年生までに志望校を決め、最低でも2年間、毎日のように勉強を続けているといいます。
塾がない日でも最低2~3時間、休日はそれ以上の時間をかけて、受検に挑戦。そんな大変な思いをしながら、小学生でも頑張り続けられるのは、「絶対にこの中学に行きたい!」、「その先でやりたいことがある」という強い志があるからこそ。
高校受験でも同じように、中学3年生が始まるまでに目標を持つことで、意志の強さや学びの質が大きく変わるといいます。そのためには、高校のホームページや学校案内などで学校のことを知り、学力レベルを把握することが必要なのです。
また、高校ごとに伝統や実績、校風、指導方針など特色があり、入試における合格者選抜方法にも違いがあります。通知表を重視する高校、当日の試験を重視する高校、問題の傾向に特徴がある高校などさまざま。そういった情報を集めながら、“自分の目標を達成できる高校はどこなのか”を第一に考えてほしいといいます。
また、「わからないことや現状に不安を感じる場合は、保護者の方、学校、塾の先生に相談しながら進めていきましょう」とアドバイスしました。

私立人気の継続、公立トップ校や人気校の変わらない倍率、選択肢の多様化。愛知の高校受験は、“公立中心”から新しいバランスへ変化しています。
公立、私立、中高一貫など複数の選択肢から、「どんな環境で、どんな力を伸ばしたいのか」を起点に進路を考える。それが、これからの“高校選び”のスタンダードになりつつあるのかもしれません。


