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カッパの髪型を強制、逃げると暴行…10年に及ぶ「支配」の果てに男は包丁を握った 殺人罪で懲役10年

メ~テレ
11.21(木)18:40

21日、愛知県内の裁判所で1つの事件に判決が下った。被告は36歳の男で、10年来の知人男性を包丁で突き刺して殺害した罪に問われ、懲役10年を言い渡された。被告の「刑の重さ」が争われたこの裁判では、被害者による被告への「長年にわたる不当な扱い」が次々と明らかにされていった。検察側は犯行動機を「被害者への復讐心」と主張したが、弁護側は「支配からの脱却だった」と訴えた。双方の主張を裁判所はどのように判断したのか。裁判を振り返っていく。

■「刺しました、人」

安城警察署に入る小林元被告 2023年11月

 去年11月6日午後9時半ごろ、警察に1本の110番通報が入った。

 「刺しました、人」

 警察官が駆け付けたのは愛知県安城市にある人材派遣会社の事務所。血まみれで倒れている男性を見つけ、すぐに救急車を呼んだ。事務所には血痕の付いた包丁が見つかった。警察官は事務所のあるビルの1階にいた男を安城署に連行し、殺人容疑で逮捕した。被害者の男性はこの会社の元社長(当時41歳)で、搬送先の病院で死亡した。

 その後の捜査を経て検察は殺人罪などで男を起訴、事件から1年が経った今年11月11日から名古屋地裁岡崎支部で裁判員裁判が始まった。

■「カッパ」の髪型を強要し「かっぱ巻き」を食べさせる

 被告の名前は小林元被告(36)。弁護側の冒頭陳述によると、被害者の男性とは2013年ごろにキャバクラ店で知り合った。当時、仕事を探していた小林被告は被害者から仕事を紹介された後、被害者が実質的に経営権を握る人材派遣会社の代表となった。弁護側が主張する「支配」はこのころから始まった。

 判決によると、従業員らへの給料を被害者が小林被告に渡さず、小林被告が被害者から金銭を借りたということにしてその返済を求めたり、実現が難しい業務上の指示を与えて、できないと罰金を科した。これらの金銭に法外に高い利息をつけて借金づけの状態に陥れ、継続的に金銭を巻き上げた。
 また、関係者に指示して小林被告に殴る蹴るなどの暴行を加えた。その程度は木刀が折れるほどだった。

 ほかにも小林被告の頭頂部のみの髪を剃り上げてカッパのような髪型を強制したり、丸刈りにしたりして仲間うちの笑いものにするなどの屈辱的な行いを繰り返していた。小林被告が逃げ出したときもあったが、被害者は連れ戻して集団で暴行を加えさせた。判決前の審理で弁護側はカッパのような髪型について「1年ほど強要され、すし店ではかっぱ巻きを食べさせられた」と訴えていた。
 
 判決で裁判所は被害者による小林被告への支配関係について、ほかにも「小林被告が自宅に帰れないように事務所に住まわせて連れ回し、家族とのつながりを絶ち、意のままに小林被告を動かす状況をつくった」と認め、「人としての尊厳をないがしろにした異様なもの」と判断した。

■「復讐心」か「支配からの脱却」か

事件現場(愛知県安城市)

 判決によると、去年10月ごろ、小林被告は被害者から突然100万円の支払いを求められた。分割払いや支払いの延長などを願い出たが聞き入れられなかった。11月4日、小林被告は再び集団で暴行された場合は威嚇するか、場合によっては被害者を殺そうと考え包丁を購入した。
 
 事件当日の11月6日、被害者から呼び出された小林被告はリュックサックに包丁をしのばせ、午後5時40分ごろに事務所を訪れた。2人きりで小林被告の借金の返済について話し合ったが解決しなかった。被害者は「妻に金を持ってこさせろ」「子どもを施設に預けて妻を働かせればいい」と言い放った。
 小林被告は我慢の限界を超えたが、自分の家族や被害者の家族のことを考え犯行を思い悩んだ。そのうえで「被害者が生きている限り状況は変わらない」と犯行を決意した。小林被告は小走りで被害者の背後へと近づき、被害者が振り返ったところで脇腹を包丁で刺した。

 検察側は包丁が曲がるほどの強い力だったとして「強固な殺意」と主張、「どんな理由があっても被害者の殺害を正当化するものではなく、殺害してよい理由にはならない。復讐心に根ざした突発的ながら熟慮のうえでの犯行」と指摘し懲役15年を求刑していた。
 一方の弁護側も「人を殺して許されるわけではない」と小林被告の犯行を批判したが検察側が主張する「強固な殺意」については否定し、「葛藤があるなかで『死んでもしょうがない』という思いでの犯行だった」と主張した。また、「10年間にわたる搾取やいじめを受けてきた」と裁判官らに事情を酌むよう求め、懲役8年が相当とした。
 
 双方の主張に対して裁判所は判決で「長年の不当な扱いから逃れるため、追い詰められた精神状態のもとで被害者が死んでもかまわないと考えての犯行」と弁護側の主張を採用し、「復讐心に根差した犯行とはいえない」と検察側の主張を退けた。

■小林被告の謝罪

 判決日のおよそ1週間前の15日、小林被告は自らの意見を述べる最終陳述の場で「被害者の家族にも(自分の)残された家族にも大変な迷惑をかけた。罪を償っていきたい」と述べていた。

 判決で裁判所は「被害者の命が失われたという結果は誠に重大であり、被害者の家族に与えた影響も深刻であって、妻が峻烈な処罰感情を抱くのは十分に理解できる」とした。また、「被害者に命を奪われなければならないほどの落ち度があったとはいえず、被害者の殺害を正当化できるものではない」と踏まえたうえで「被告が長年置かれた状況には極めて同情できる部分がある」、「被害者家族への深い贖罪の気持ちがある」などとして求刑の15年を下回る懲役10年を言い渡した。

■記者の傍聴記

内田悠雅(警察・司法担当):
 この裁判では小林被告が受け続けた仕打ちによって、金銭的・精神的に追い詰められていった様子が明らかにされた。被害者は被告を支配した一方で、被害者の妻からは「良き父」としての面が語られた。裁判中、証言台に立った被害者の妻は「夫は娘を可愛がり大切にしていた。休みの日は毎週どこかに連れて行ってくれた」と言葉を詰まらせながら述べたあと「夫と娘の人生を奪われた。(被告に)死刑を望む」と厳しい処罰感情を見せていた。突然、家族を奪われた苦しみは計り知れず、裁判所も判決で理解を示している。
 裁判の焦点となったのが量刑だ。裁判所は検察の求刑よりも5年短い懲役10年の判決を下した。「『殺人』は許されざる行為」なのは前提としたうえで、被告の置かれた状況をどう量刑に反映するか。市民から選ばれた裁判員たちにとって量刑を導き出すのは相当な難しさがあったと推察される。

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