コメ価格「東京と地方で差が出ている」 大量の備蓄米放出でも住んでいる地域で格差が生まれている現実

高値が続くコメの価格を下げようと、小泉農林水産大臣は随意契約で2021年産の備蓄米を追加放出することを決めました。備蓄米が広く市場に出回ることで、コメの価格を下げていく狙いがあります。果たして販売の現場ではどうなっているのでしょうか。名古屋市のスーパーマーケットや、コメ販売店で話を聞きました。
店舗の規模など備蓄米の販売が実現しにくい状況

名古屋・大須商店街の生鮮食品館「サノヤ」を訪れると、5キロの銘柄米がたくさん並んでいました。2キロの個包装タイプもありますが、備蓄米の販売はないようです。サノヤの山本祐司さんに話を聞きました。
――備蓄米の放出からこちらで取り扱うコメのラインアップや量などに何か変化はありましたか。
サノヤ 山本祐司さん:
「今のところ大きな変化は出てません。販売量もそんなに多くなくて、価格についてはこれから取引先と話をしながら、随時決めていきたいと思っています。
備蓄米に関してはいろいろな基準もありますし、大きな店ではありません。扱いたいという思いが仮にあったとしても、実現しにくいことが多いです。現状は見合わせている状況ですね」
コメ販売店、現状は仕入れ価格の値下がりなし

名古屋市東区のコメ販売店でも、コメの価格に変動があったのか聞きました。
石うす屋 中村米穀 中村公一さん:
「そうですね。(仕入れ価格の値下がりは)今のところはないかな。この中でいうとないかなと」
店頭に並ぶ約20の銘柄米は、仕入れ価格の変動はありません。卸業者間で取り引きされる“スポット価格”が値下がりしているという話もあります。しかし「まだ実感はしていない」と話します。
中村さん:
「コメ販売店やコメを扱う業者は基本的に在庫を持って成り立つビジネス。在庫がなくなってから仕入れる仕組みなので、安くなるのはまだまだこれから先じゃないのかなと思います」
――最近の仕入れの状況はいかがですか。
「1カ月くらい前かな、仕入れようと思ったら1俵(約60キロ)が4万6000円くらいするんですよね。白米5キロで計算すると、だいたい8000円になってしまう。そこまで行くと、いくら何でも、客が買うのかというのもあるし。こちらも申し訳ないです」
購入機会に差が生まれてしまう

備蓄米が放出されているのに、なぜ小さなスーパーやコメ販売店ではコメの価格が下がらないのでしょうか。コメの流通に詳しい宇都宮大学農学部の松平尚也助教に話を聞きました。
――備蓄米の放出で銘柄米の価格が下がることが期待されていますが、今回の取材では、スーパーやコメの販売店で価格に変動はありませんでした。どのような理由が考えられますか。
宇都宮大学 松平尚也助教:
「この随意契約のコメが、まず都市部中心に出回り始めておりまして、愛知県でも数百の店舗で販売される予定とは聞いています。ただ、小規模のおコメ屋さんでは、随意契約のコメがなかなか契約しにくい状況となっています。店舗の規模等によって格差が生まれている状況が、今後明らかになってくると思います」
――まずは都市部と地方で分かれていて、東海エリアはどちらかといえば、地方に分類されています。備蓄米もその分、関東・関西圏よりはやや少ない状況でしょうか。
「これから出回ってくると思います。まず大都市圏、人口が集中しているところから、出回っている状況かと思います」
――そして、その店舗の規模によっても備蓄米の取扱い量には大きな差があるのですね。
「規模が小さいお店や業態、特におコメ屋さんでも、この随意契約のおコメ、契約の条件というものがあります。仕入れたくても仕入れられないという状況が出てきていると聞いています。そうなると、流通間の格差、あるいは、購入機会の平等性というものが確保できない状況かなと思います」
――消費者の立場から言えば、まず購入機会に差が生まれてしまうのですね。
「まさにそうです。備蓄米は公共のものなので、この随意契約の放出方法に課題が残ったと思います。全体の価格が下がらない要因になる可能性もあり、その点も課題になっています」

――備蓄米の放出方法に課題があるというのは、どういうことでしょうか。
宇都宮大学 松平尚也助教:
「契約先が大手小売に偏っていることです。さらに、この小さい規模、地域の安定供給を担ってきた中小のスーパーとか、あるいはおコメ屋さんが契約しにくい条件になっています。それが流通格差、あるいは購入機会の格差につながっているという状況ですね」
――この流通の差や、購入機会の差、この辺りが今後も続いていくとなるとどのような問題が生じますか。
「この安い備蓄米が出回ることで需要と供給が混乱しています。そのことが、コメ価格高騰の背景にある、地方における備蓄米が十分出回っていない課題に対応していません。さらに5キロ2000円は、生産者にとっても再生産不可能な状況なので、そうした問題が今後も表面化してくると思います」
――販売店の方も現在、在庫として抱えているおコメは比較的高値で仕入れています。これが、今後安いおコメがより入ってくるとなると、困りごとになりますね。
「まさにそこが心配される点ですね。高値で仕入れているために、安売りとか割引すると、店舗、小売等が赤字になってしまう、損が出てしまう。安い備蓄米が売っている店舗、大手等の店舗に行く動きというのが今後出てくるときに、中小の小売店さんがどのように対応していくか、非常に現場で悩まれるところだと思いますね」