風邪薬もインフルエンザ治療薬も…薬不足”が深刻 不足のワケ&改善の見通しは?【大石が聞く】
インフルエンザの大流行に、ここ数年続く薬不足が重なって医療現場がパニックに近い状況になっています。
【写真を見る】風邪薬もインフルエンザ治療薬も…薬不足”が深刻 不足のワケ&改善の見通しは?【大石が聞く】
背景に一体何があったのでしょうか?
2024年12月25日、名古屋市内のクリニックでは大半がインフルエンザの患者でした。
(加藤クリニック 加藤政隆院長)
「月曜日で15名。火曜日が8名。水曜が9名」
空前の大流行を起こしていたインフルエンザ。
2024年末、愛知県の1医療機関あたりの1週間の患者数は約82人と過去最多になりました。
薬局には「入庫困難」の札がいくつも
こうした中で表面化していたのが深刻な薬不足です。
処方箋で薬を出してもらう調剤薬局へ行くと、薬の棚には「入庫困難」の札がいくつも下げられていました。
(大石アンカーマン:以下大石)
「例えばここ入手困難になっていますね。これはどんな薬なんですか?」
(大島薬局 薬剤師 大橋弘治さん)
「これはインフルエンザの薬でゾフルーザという薬。少し今は入りづらい状況になっていますね」
(大石)
「ここも入手困難ですね。これは咳止めのお薬ですね。これで大体何人分くらいになるんですか?」
(大島薬局 薬剤師 大橋弘治さん)
「これだと多分8人くらい」
(大石)
「インフルエンザ、風邪、コロナなどは、1日何人くらい患者さんが来られますか?」
(大島薬局 薬剤師 大橋弘治さん)
「今だともう20人くらいは来てると思います」
せき止め、解熱剤、抗生剤も足りない!
足りないのはインフルエンザの薬だけではありません。
せき止めや解熱剤、抗生物質など、ここで扱う風邪関連の薬、約30種類の半分ほどが調達困難になっています。
足りないものは他の調剤薬局と分け合うなどして、なんとか乗り切っているといいます。
(大石)
「現時点では、十分なお薬は出せてないっていうことですかね?」
(大島薬局 薬剤師 大橋弘治さん)
「そうですね。医師の処方100%で出すというのは今ちょっとできてない状態ですね」
(大石)
「これがいつぐらいから続いてます?」
(大島薬局 薬剤師 大橋弘治さん)
「もう何年か前から続いてますね」
(大石)
「薬剤師さんとしてはやはり薬を作ってもらいたいなという思いはありますか?」
(大島薬局 薬剤師 大橋弘治さん)
「そうですね。十分にあるのが一番普通なことだと思うんですけど」
薬不足 何が起きているのか?
実はもう何年も続いているという薬不足、一体何が起きているのか専門家に聞きました。
(名古屋市立大学薬学研究科 中川秀彦教授)
「インフルエンザの流行による、タミフル不足がニュースになっていますが、(製薬会社の)製造能力や、備蓄してあるタミフル等の量を超えて流行が起こってしまっていることが原因だと、今の状況では思います」
中川教授は、インフルエンザの治療薬だけでなく、通常の風邪薬なども慢性的に不足している事態については「特にジェネリックメーカー等では、不祥事などもあり、経営的にうまくいってないところもあると思う」と話します。
2020年、皮膚病の飲み薬に睡眠導入剤が誤って混入していた問題が発覚。
それをきっかけに他の製薬メーカーでも品質試験の改ざんなどが次々に見つかり、相次ぐ業務停止によって薬全体の供給不足が起き、影響は今も続いているのです。
“薬価”を決める国の制度にも問題が…
もう1つの問題は、薬の値段を決める国の制度だといいます。
(名古屋市立大学薬学研究科 中川秀彦教授)
「薬品の値段は、“薬価”と言って、厚労省が決めている。企業が自分たちのかかったコストに見合った分の利益を乗せて売るっていうことができなくて、新しい投資ができなくて、薬の増産や設備投資ができず、悪循環が起こっていて、慢性的に必要な薬を必要な量、供給することができなくなっている」
医師が処方する薬の価格、薬価は原則2年に一度、国が見直しています。
その基準は卸価格で、値下げ競争で卸値が下がれば下がるほど薬価も下がっているのです。
(名古屋市立大学薬学研究科 中川秀彦教授)
「市場では同じ成分だったら安く売ってる薬を買いますから、どうしても全体的に薬価は年数を経るごとに下がる傾向にある」
製薬メーカーも危機感
薬価が下がっても原材料価格は上がり続けているため、作っても利益が出ない恐れがあり、メーカーが製造を減らしてさらなる薬不足につながっている現状。
製薬メーカー側も危機感を話します。
(中外医薬生産株式会社 田山小次郎 取締役)
「製薬業界全体としては、原料・資材代や設備代も上がってきている。安定供給するためにはある程度の利潤を確保できないと、どうしても対応しきれない部分が出てくることもあるかと思います」
(大石)
「本音を言うと、(薬価を)上げてほしいですか?」
(中外医薬生産株式会社 田山小次郎取締役)
「もちろんそうですね。永遠に下がっていくと、製造もできなくなってしまうので、製薬会社としては苦しくなってきている」
(大石)
「この状況が続いていくと、今後どんなリスクが生まれますか?」
(名古屋市立大学薬学研究科 中川秀彦教授)
「新しい病気にかかってしまう人が増えたときに、最悪の場合には『日本の製薬会社ではその病気の薬は開発できません』という状況も生まれるかもしれない。世界的に感染症が流行すると他の国も同じ薬を使いたいということで、『日本に分けてあげる薬はないですよ』というようなことになってしまうと、“国内で治療するための薬がない”という状況になる可能性はあると思います」
身近なクリニックの現状は…
1月15日、改めて名古屋のクリニックを訪れました。
(大石)
「こないだ来た時はインフルエンザがやっぱり流行してました。今はどうですか?」
(加藤クリニック 加藤政隆院長)
「今は減少傾向にあると思います。年末に比べると年明けのほうがちょっと少ない」
年末と比較すればインフルエンザの患者数は半分ほどに減少しています。
(大石)
「風邪薬が足りないという実感はありますか?」
(加藤クリニック 加藤政隆院長)
「あります」
インフルエンザ治療薬だけでなく、通常の風邪薬も足りない深刻な薬不足は続いています。
(加藤クリニック 加藤政隆院長)
「薬局から、今日の在庫数が送られてくる。そうするとおのずと我々が処方する日数が限られてくる。必要な方にはお出しするが、そうでない方には、いわゆるOTC(市販)で手に入る薬で経過を見てもよいかと思います」
(大石)
「つまり薬局にもう薬がないから、市販薬でなんとか対応して欲しい、ということですか?」
(加藤クリニック 加藤政隆院長)
「はい。こんな時期が来るとは思っていなかったです」
インフルエンザの大流行で表面化した日本の深刻な薬不足。しかし、インフルエンザの流行が終わっても改善の見通しは立たないのが実情です。