「オールドノリタケ」など美しいカップ&ソーサーが集結!「至福のひととき カップ&ソーサー展」名古屋・横山美術館で開催中
明治時代以降に全国各地で生産・輸出された日本製のカップ&ソーサーを展示する企画展「至福のひととき カップ&ソーサー展」が、愛知県名古屋市東区の横山美術館で開催中です。
約190点の名品が並ぶ同展覧会をのぞいてみると、見目麗しいティーカップやコーヒーカップ、チョコレートカップなどがたくさん並んでいました。
すべて手描きとは思えないほどの精巧なデザイン
本企画展では、名古屋市に本社を置く「ノリタケ」の前身、森村組・日本陶器が手がけた洋風陶磁器「オールドノリタケ」をはじめ、瀬戸焼や美濃焼、石川県の九谷焼、佐賀県の有田焼、鹿児島県の薩摩焼など各産地のカップ&ソーサーが展示されています。
島村「上絵盛上花図ティーセット」明治時代後期~大正時代
驚いたのは、すべて手描きで絵付けされたこと。どの作品も華やかで、細部まで彩られたデザインに圧倒されます。
ヨーロッパの人たちは、ソーサーに飲み物を移して飲んでいた!
久富与次兵衛昌保「染付菊鶉図ティーボウル&ソーサー」幕末~明治時代前期
煎茶碗と小皿を組み合わせたところから始まった、カップ&ソーサー。今ではハンドル(取っ手)付きのカップでコーヒーや紅茶を楽しみますが、当初は中国や日本の煎茶碗を使っていたためカップにはハンドルがなかったそうです。
コーヒーやお茶を小皿に移して飲んでいたそう
当時のヨーロッパの人たちは、カップと一緒に輸入していた小皿を 「受け皿」として組み合わせたといわれています。ハンドルのないカップは熱くて持ちづらいと、コーヒーやお茶を小皿に移して飲んでいたとか! 今では考えられない飲み方ですが、そうした文化の違いがあったからこそ、今のソーサーの在り方が確立されていったのですね。
ティーカップの内側のデザインにも注目!
横山美術館の学芸員・片桐亮子さんは「器の形状やデザインにも注目してみてほしい」といいます。例えば、ティーカップは熱湯で抽出するため、熱を逃がすように飲み口が広く、浅い形に。さらに紅茶の色とともにカップの絵柄も眺められるようにと、カップの内側にも絵付がされています。
錦光山宗兵衛 京焼「上絵金彩蝶図コーヒーセット」明治時代後期~大正時代
一方、コーヒーカップを見てみると、深めの形状になっています。これは熱や香りを逃さないためだそう。カップの形からも職人の工夫が感じられますね。
とはいえ、コーヒーや紅茶が高価だった当時の日本では、飲んだことがない人も多かったことでしょう。職人たちが試行錯誤して作った渾身のカップやソーサーに、思わず時間を忘れて見惚れてしまいました。
「オールドノリタケ」とは?
オールドノリタケ
展示された作品のうち、約4割は「オールドノリタケ」です。オールドノリタケとは、明治時代から昭和初期にかけて森村組・日本陶器で作られた陶磁器のこと。主にヨーロッパやアメリカに向けて輸出された製品のため、西洋風の豪華なデザインがあしらわれています。
手作りならではの繊細なデザインと華麗な絵柄は海外の人たちを魅了。その質の高い製作技術は、現代のノリタケ食器にも受け継がれています。
オールドノリタケ「金盛薔薇図ティーセット」明治24~44年頃
中でも筆者の目に留まったのは「金盛薔薇図ティーセット」。よく見ると、金色に装飾された飲み口に凸凹の模様があります。これはオールドノリタケの代表的な技法「金盛」で作られたもの。絵具などで立体的な模様をあしらって焼き、その上に純度の高い金液を塗って、再度焼き付けることで出来上がります。
金盛が施されることにより、カップの側面や皿の内側に描かれたバラの美しさがいっそう引き立っているように感じます。
オールドノリタケ「金盛薔薇図 チョコレートセット」明治24~44年頃
こちらも金盛を用いて艶やかに作られた「チョコレートセット」。今は気軽に楽しめるお菓子のチョコレートですが、当時の人たちにとっては非常に高価なものだったそうです。しかも今のような固形ではなく、ホットチョコレートにして飲むのが主流でした。高級なものだからこそ、チョコレートカップやソーサー、ポットのデザインも絢爛豪華に仕上がっているのですね!
オールドノリタケ「モールドトマトコーヒーセット」明治44年~大正10年頃
ユニークだったのは、トマト柄のコーヒーセット。コーヒーポットのフォルムはトマトそのもの! カップの底がトマトのヘタになっているのも斬新で、カップを持ち上げたときにもデザインが楽しめるように工夫されているのですね。今見ても新鮮で、インパクトのあるコーヒーセットです。
オールドノリタケ「トイティーセット」大正6~10年頃
そしてこちらは、子ども用に作られた「トイティーセット」。おままごとの道具として使われていたこのティーセットは、小さな頃からアフタヌーンティーでの作法を身に付けられるようにと作られました。お子さんが手にするとはいえ、立派な箱に入った本格的なもので、その扱い方も学んでいたのですね。
口ひげを濡らさないように作られた「マスタッシュカップ」も
初代 加藤春光 瀬戸焼「上絵金彩埠頭図 マスタッシュカップ&ソーサー」明治時代初期~中期
さらに、明治時代中期に作られた、口ひげを濡らさないための男性用のティーカップ「マスタッシュカップ」も展示されていました! マスタッシュ(mustache)とは口ひげの意味。カップの内側には、口ひげを避けるためのパーツが付いています。
当時は女性中心の飲み物とされていた紅茶でしたが、マスタッシュカップがあることで男性にも親しまれていたことが分かります。
オールドノリタケ「エッチング薔薇図ティーセット」大正10~昭和16年頃
今回は展示作品の一部をご紹介しましたが、そのほかにもエレガントなカップ&ソーサーが満載! 「至福のひととき カップ&ソーサー展」は8月31日(日)まで開催されているので、約190点もある作品をじっくりと眺めて、自分好みのカップ&ソーサーを見つけてみてはいかがでしょう。
イベント概要
横山美術館
「至福のひととき カップ&ソーサー展」
会期:2025年4月29日(火)~8月31日(日)
場所:横山美術館(名古屋市東区葵1-1-21)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 :毎週月曜日(祝・休日の場合開館、翌平日休館)、夏期(8月12日~8月18日)
入館料 :一般1000円(800円)、高・大学生・シニア65歳以上800円(600円)、中学生600円(400円)、小学生以下無料
※ ( )内は20名以上の団体料金/障がい者手帳をお持ちの方700円
公式ホームページ:https://www.yokoyama-art-museum.or.jp/