
車中避難(車中泊)への備え 支援物資はすぐに来ない可能性も 小物類を収納ボックスへ【暮らしの防災】

2016年熊本地震では被災者の「車中避難」がクローズアップされました。県が実施したアンケートでは、避難した人の約7割が経験したと回答しています。車中避難者をケアして行く中で、避難者の管理面・健康面などの課題が明らかになり、対策も講じられました。想定される南海トラフ巨大地震では、多数の避難者が出て「避難所不足になるのでは」との指摘もあります。東海地方は車社会、「車中避難」は必至です。今回は車中避難の課題、普段から車中避難に向けて備えておくことを紹介します。
校庭や施設の駐車場で避難生活

熊本県が行ったアンケートによると避難先は「自動車の中」が最も多く、その次が「避難所」でした。避難所になっている学校の校庭、施設の駐車場だけでなく、ショッピングセンターや公園などの駐車場も車で埋まりました。
舗装されている場所はまだしも、校庭は雨が降ると土がヌタヌタになり、足元が厳しい状況になりました。そんな中、駐車場を開放し簡易トイレを設置したショッピングセンターもありました。地域で被災者を支援するという、まさに「地元の力」でした。
地震が怖い、プライバシー問題などが理由

車中避難を選んだ理由は、「余震」「プライバシー」「小さな子どもや体が不自由な家族がいたから」「ペットがいたから」などでした。確かに震度7を立て続けに経験すると「建物の中にいること」が怖くなります。
発災直後の避難所は、床にシートを広げただけです。間仕切りもダンボールベッドもありません。ですので「家族の空間」「個人の空間」はありません。多少狭くても「マイカー」ですごした方が、確かに休まります。
また、子どもはなにかと走ったり、騒いだりします。子どもの元気な姿からは「力」をもらえますが、多くの人が身を寄せている避難所では、そう思えない人もいます。
管理面での課題

大量の車中避難者が出たことは初めてでした。このため様々な課題が明らかになりました。
■避難者を管理する自治体やボランティア団体が、車中避難者がどこに何人いるのか?その人員構成(家族構成)を把握するのが大変だったそうです。
避難所になっている学校の校庭の避難者の把握は可能ですが、ショッピングセンターや公園の駐車場で避難生活をしている人を把握するには、そこまで行政の職員やボランティアが出向く必要があります。時間帯によっては車中避難者の出入りもあるため、実態把握が大変でした。
■実態把握ができていないと、食料や飲料水、支援物資をいくつ準備したらいいのかがわかりません。また、全員に伝えなければならない避難者への連絡事項もどう伝えたらいいのか、など苦労したと言います。
■トイレ問題。大勢の人が長時間過ごすことが想定されていない場所で、集まった人たちが暮らすわけです。トイレはかなり深刻な問題で、仮設トイレを設置しても間に合わない状況になったそうです。
<健康面での課題>
4月18日朝。車中避難をしていた市内の女性(51)が倒れ、亡くなりました。震度7を記録した最初の地震から4日後でした。地震から命を守ったのに、4日後に避難生活で命を落としました。長時間動かないことによる運動不足、水分不足、トイレを我慢したことで「エコノミークラス症候群」になったそうです。
これに対して、行政は
・保健師等の巡回によりエコノミークラス症候群予防啓発チラシを配布
・弾性ストッキングを配布
・報道機関と連携して啓発
などの対応をしました。
また、塩分過多、ビタミン不足など栄養バランスがよくない食事が続きます。これも体調を崩す一因になりました。熊本地震では、このような災害関連死が多く、223人にも上りました。地震で亡くなった方(50人)よりもはるかに多い人数でした。
事前の備え

南海トラフ巨大地震でも避難所不足が想定されています。このため車を持っている人は「車中避難」に備えておくのがいいでしょう。ワンボックス車、SUV、セダンなど、いろいろ車種はありますが、小物類は収納ボックスなどに入れておくと便利です。
・飲料水(ペットボトルは2リットル、家族の人数分、可能な範囲で)
・非常食(カップ麺、アルファー化米、携帯食、缶詰など)
・簡易トイレ
・アルミ箔のブランケット
・タオル類
・古新聞(何かと便利)
・布製粘着テープ(何かと便利)
・荷造りヒモ
・大小ビニール袋(自治体のゴミ袋でもOK)
・懐中電灯(ランタンなども)
・手袋
・乾電池 などです。今では多くは100円ショップで揃えることが出来ます。
キャンプをする方は、キャンプ用品を車に積んだままにしておくか、家の持ち出しやすい場所に置いておくのがいいかと思います。奥にしまい込んでおくと、いざ!という時に大変です。(地震でダメージを受けた家に入って、物資を運び出すのは危険です。)
<南海トラフ巨大地震では、支援開始が遅れる可能性>
これまでの大災害では、3日ほどで国や自治体からの支援物資が配られています。しかし、南海トラフ巨大地震では、被災地域が広く、交通網を寸断されると思われ、支援物資がすぐに来ない可能性があります。そこで飲料水、食料品は多めに備蓄しておく必要があります。そしていざ!という時に、どこに避難すればいいのか?予め、家族や仲間と話し合って決めておいてください。
【追記】
様々な避難の選択肢の中、車中泊避難をすることになる場合は、地域が運営する避難所に車の場所、人数などを伝えて避難所の避難者と同じ対応にしてもらうよう要望してください。
※このページを読んだ方から上記の指摘、提案を頂きました。ありがとうございます。そこで、追記することにしました。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。