
亡き妻への思いを胸に再起…93歳の現役パティシエが今日も焼き続けるアップルパイ「死ぬまで動きたい」

三重県志摩市の洋菓子店「潮騒」を営む93歳のパティシエ・中島巨(おおし)さんは、妻を亡くし一度は店を閉めましたが、自宅を改装して再開。今も手作業でアップルパイを焼き続け、家族と地域の人たちに愛されています。
■93歳現役パティシエが営む洋菓子店
三重県志摩市の住宅街の一角にある「洋菓子 潮騒」は、1955年創業の老舗洋菓子店です。
店内には、1932年生まれで現役のパティシエ・中島巨さん(93)が作るケーキやクッキーなど、10種類以上の菓子がずらりと並びます。中でも看板商品は「アップルパイ」(250円)です。 客: 「アップルパイはサクサクしていておいしい。大好きです」
巨さんこだわりの手作りアップルパイは、創業以来70年にわたって作り続けてきた一品で、過去には「全国菓子大博覧会」で金賞に輝いたこともある逸品です。 味の決め手は、アップルパイとしては珍しいひし形の形。生地に切れ込みを入れて折り重ねることで、焼いた時に形が崩れず、ふっくらと仕上がるといいます。 巨さん: 「ねじってあるから、まとまってできる。これがないとバラバラになっちゃう」
使うりんごは長野県の農家から仕入れていて、丁寧に皮を剥いて刻んだ後、じっくり炊き上げます。 客: 「92歳のおじいちゃんが作るってインスタに載っていた」
最近は常連客だけでなく、SNSを見て訪れる客も多く、アップルパイの売れ行きも順調です。 店を手伝うのは、長男の治久さんと妻の初美さん。治久さんは自身の仕事の傍ら、休みの日などに店をサポートしています。
治久さん: 「93ですもんね。僕らにとっては教わることばっかりですね」
■妻を亡くし一度は閉店も…転機となった決意
巨さんは70年前の1955年に店を始めました。志摩市内の別の場所に店を構えていましたが、4年前にある転機がありました。
巨さん: 「家内が死んだ時には、この商売をもうやめようと思った」 2人3脚で店を切り盛りしてきた妻・久子さんを亡くし、2022年には一度店を閉めることに。しかし、パティシエとしての情熱が冷めることはありませんでした。
巨さん: 「天職だと思ったのでしょうね。一生懸命やればいいものができますから」 閉店から5カ月後、自宅を改装して今の場所で再スタート。90歳を超えてもパティシエを続けられるのは、長男夫婦の支えがあるからこそと巨さんは話します。 巨さん: 「いろいろと手伝ってくれて、いつも家族に感謝している。やはり家族は笑いながら仕事できるのが一番いい」 最愛の妻を亡くす悲しみを経験したからこそ、改めて知る家族の大切さ。
巨さん: 「家内もあの世で“もう辞めたほうがいい”って言うと思うけど、“潮騒”の味だけは残したい。死ぬまで動きたいです」
■93歳の誕生日を祝う常連客たち
この日、巨さんのもとにうれしい客がやってきました。実はこの日は巨さんの93歳の誕生日の前日。誕生日を毎年お祝いしてくれる常連客の親子が訪れました。 客: 「昔からあるところだから安心感があるし、子供たちもおじいちゃんに会えるのを楽しみにしていて。いつまでも元気でいてほしいです」
この後も地元の子供たちが次々とお祝いに駆けつけていました。 子供: 「おじいちゃん、お誕生日おめでとう」 別の子供: 「ずっと長生きしてね」
客もまばらとなった夕方、巨さんと治久さんは車に乗り込みます。 治久さん: 「今からアジ釣りに。夕方になると行こうかって言うので」 店は初美さんに任せて、親子で趣味の釣りに。最近では月に1度、自宅近くの海で楽しんでいるといいます。 巨さん: 「元気な時は船を持っていた。沖へカツオ釣りに行ったりしていた」
治久さん: 「うちは幸せなのかな。親が長生きしてくれるのに越したことはない」 親子水入らずで1時間ほど釣りを楽しみました。 帰宅後、巨さんは改めて93歳の誕生日を健康に迎えられる喜びをかみしめました。 巨さん: 「楽しかったです。お客さんも多かったですし。こんなに花をもらったのは初めて。もう少し頑張りたいです。来年も再来年も続けたいですね」 「潮騒」の味と共に、生涯現役のパティシエが今日も地域に笑顔を届けています。 2025年10月23日放送





