「どんな動物も診る」という信念のもと、エキゾチックアニマルの治療や新たな研究に挑み続ける獣医師に密着しました。

今、SNSを中心に大人気の犬や猫以外のペット「エキゾチックアニマル」。
国内大手のペット保険のデータでも、エキゾチックアニマルの新規契約数は右肩上がりで増加し、ここ数年で年間10万件を超えるほど注目を集めています。(※1)
しかし、そのブームの裏で、ある深刻な問題が…。
「エキゾチックアニマルって、なかなか診てくれる先生がいなくて」(飼い主)
「ウサギさんはちょっと診られないです、って言われちゃったりとかもあるので」(飼い主)
犬や猫とは違い、生態が多種多様なエキゾチックアニマル。対応できる動物病院は多くはありません。そんな、行き場を失った動物たちを診るスペシャリストがいます。
「いろんな動物、来てるんですけど、どの動物も診るようにしてます」(まるよし動物病院・吉田侑真院長)
頼れるデータが少なく、手探りで治療することも多いエキゾチックアニマル。
小さな命を救うため奮闘する獣医師。その現場を取材しました。
全国でも数少ない「エキゾチックアニマル」を診る病院

岐阜県大垣市にある「まるよし動物病院」。犬や猫はもちろんのこと、エキゾチックアニマルの診療を行う、全国でも数少ない動物病院です。
「三重県から来てます。爬虫類とか変わった動物ばかり飼っているので、ここの先生じゃないと困ります」(飼い主)
「土日も受診してくれるので。あまりないところなので、すごく助かる」(飼い主)
1日の来院数は、多い日で70件以上。そのうち約7割がエキゾチックアニマルです。
訪れるのは、フクロモモンガやフェレット、さらにはフェネックまで。次々と珍しい動物がやってくる待合室は、まるで小さな動物園。
この幅広い動物たちをすべて一人で診察しているのが、院長の吉田侑真先生(34)。哺乳類、爬虫類、鳥類など、あらゆる動物を知り尽くすエキゾチック医療のエキスパートです。
頼りになるのは先生の経験

「動物の状態をしっかり診て、検査をしたり治療をどうするのか考えるのを重要視している。いろんな動物が来るが、どんな動物も診るようにしてます」(獣医師・吉田侑真さん)
Q.診られない動物はいない?
「カブトムシとか来られると、ちょっとどうしようってなりますけど」(吉田獣医師)
まずはフクロモモンガの爪切り。一見簡単そうに見えますが、動き回る小さなモモンガをピタリと固定するのは至難の技。
しかし、吉田先生にかかれば、わずか数十秒であっという間に処置完了です。
続いてやってきたのは、ペットとしては希少なフェネック。自分の尻尾を噛むようになり、炎症を起こしていました。
「原因が正直ちょっとはっきりはしないんですね。ミーアキャットとかフェネックとかで見る印象。薬で治るときは、薬だけでいけることもある気はしている」(吉田獣医師)
明確な原因が分からないからこそ、頼りになるのは先生の経験。過去の似た症例と照らし合わせ、最善の治療法を探ります。
「メンタル面なのか、最初に皮膚炎があって、かじっちゃったら痛痒くなるんで、それで余計に痒くなってるのか、どちらなのかわからないですけど…」(吉田獣医師)
しばらくは薬で様子を見ながら、慎重に治療することになりました。
手遅れになってから来院することも

次々と手際よく診察をこなしていく吉田先生。しかし、エキゾチックアニマルの診療には、犬や猫とは全く違う、特有の難しさがあるといいます。
「犬猫より検査できるものが限られてる場合が多いのと、小さかったり状態が悪すぎて検査できないこともあります。状態見極めなきゃいけない。病気に飼い主さんが気づかないこともある。病気になったときに『体調悪いですよ』と教えてくれる動物ではないので、早めに気づいてあげないと手遅れになって来ることも多いです」(吉田獣医師)
慌てた様子で運び込まれたのは、全く動こうとしないウサギ。
「急性胃拡張って言って、胃がパンパンになっちゃって。お腹の臓器とかを押しちゃうので、ショック状態になって、最悪亡くなっちゃう病気です」(吉田獣医師)
一刻を争う事態に、すぐさま痛み止めと点滴による治療を行い、様子を見ます。
麻酔をして、胃の中身を管を入れて直接抜くのは、弱った体には命取りになる危険が。点滴で再び胃腸が動き出すのを待ちます。
待つこと数時間…。
「動き始めました。(ウサギをみて)餌探して、モゴモゴしている。胃腸が動き始めて、顔つきが良くなってるのと。自分で餌をポリポリしていますね」(吉田獣医師)
「本当に良かったです。来るタイミングが良かったです」(飼い主)
「動物愛がすごい」

日々、動物たちのために奔走する吉田先生。その素顔について、5年前の開業当時から知るスタッフは…。
「先生が診ない動物がないので。何の動物でも診るので、分からないっていうことが、そこの場ではあったとしても、必ず解決策を見つけて、常に常に勉強して努力されてる方だと思います。『動物愛』がすごいです」(病院スタッフ)
診察室では常に気を張っている吉田先生ですが、誰よりもエキゾチックアニマルを愛する、1人の飼い主でもあります。
「ここがエキゾの診察室です。窓際で今寝てますけど、オスのイグアナがいるのと、同じ種類の女の子のイグアナもいます。看板娘みたいな。『看板イグアナ』みたいになってますね」(吉田獣医師)
他にもバックヤードにはウサギやトカゲ、インコやカメなど多種多様な15種類ほどの動物が…。
「結構、動物飼うのは個人的にも好きなので。半分趣味みたいになっていますね」(吉田獣医師)
偶然目にしたエキゾチック診療の雑誌

実は吉田先生、もともと公務員獣医師という、少し変わった経歴の持ち主なんです。
「公務員のときは、農家さんの牛とかニワトリとか、豚のとこに行って検査したりとかしていました」(吉田獣医師)
検査の日々にやりがいを感じつつも、どこか満たされない思いを抱いていました。
「もちろん大事な仕事なんですけど。10年とか経ったときに、僕は『検査しかできないかもしれない』と思ったのが、今の仕事につくきっかけでした。死んじゃうときに何か1つ、これをやれたなって思うものが欲しいと思った」(吉田獣医師)
そんなとき、偶然目にしたエキゾチック診療の雑誌。この1冊が先生の運命を変えました。
「こんな世界があるんだと思って。ちょっと飛び込んでみようと思って、東京の先生のところに実習に行かせてもらって、就職できたのがきっかけですね」(吉田獣医師)
エキゾチック医療の第一人者である東京・田園調布動物病院の田向健一先生のもとへ弟子入りを決意し、東京で修業の日々を送りました。
運ばれてきたのは…「フトアゴヒゲトカゲ」

「最初は大変でしたけど、馴染んだあとは楽しかったですね。いっぱい患者さんが来るので、他の先生が診る動物含めて、いろんな経験ができた。あの経験がなかったら開業して、いまエキゾチックアニマル診ることはできなかったと思う」(吉田獣医師)
その後、5年間の修行を経て、地元岐阜県大垣市に戻り、2021年に開業。その確かな腕が口コミで広がり、今では県外から足を運ぶ飼い主も後を絶ちません。
高度な技術が求められるエキゾチックアニマルの手術。この日運ばれてきたのは、フトアゴヒゲトカゲです。
病名は「卵胞うっ滞」。爬虫類によく見られる、命に関わる病気です。
行き場を失った卵の元が、お腹の中にぎっしりと詰まってしまう病気。左右の2つの塊がお腹を圧迫しています。手遅れになる前に、この塊を取り除く手術へ―。
小さな体の中を慎重に…わずかな出血が命取りになるケースも

わずかな出血でも命取りになるため、小さな体の中を少しずつ慎重に探っていきます。順調に進むかと思われた、その時…。
「厳しいなこれ…」「肝臓が卵胞にくっついていて。本当は卵と分かれてるはずなんですけど。肝臓を巻き込んでいるので、どうしようっていう感じで」(吉田獣医師)
手術中に肝臓と卵胞の癒着が発覚。無理に剥がそうとすれば肝臓が傷つき、大量出血を引き起こす危険も。張り詰めた空気の中、ミリ単位の処置が続きます。
命を守るため、癒着した部分は無理に剥がさず、安全を最優先した方法へと切り替え、なんとか原因となっていた塊を取り除くことに成功。予期せぬトラブルを最善の処置で切り抜け、無事に手術を終えることができました。
入院から5日後、病院には元気に餌を食べるトカゲの姿が―。
「これでもう退院ですね。餌を食べたんで。良かったね…本当に」(吉田獣医師)
癒しの存在は1歳の息子

毎日病院を出るのは夜の8時過ぎ。忙しい日々を送る吉田先生を癒してくれる存在、それが1歳4カ月になる、あつし君です。
家で過ごす時間は限られていますが、その分、全力で子どもに愛情を注ぎます。
「本当に動物が好きな人なので、気持ちは尊重したいなと思って過ごしています。もう少し時間が経ったときに、今こういうふうに頑張ってきてよかったなって思えるといいかなって思う」(妻の文恵さん)
一番の理解者である妻の支え、そして子どもと過ごす時間は、先生が自分の成長を見つめ直す大切なひとときです。
「自分はそこまで成長してるんだろうかと、いつも思いますね。この子(息子)を見ると」(吉田医師)
父親としても日々成長中の先生。あふれる動物愛だけは家でも…。
「クリスマスプレゼントとか、1歳の誕生日とか、そういうとき動物図鑑とか、オオサンショウウオのぬいぐるみとか」(妻の文恵さん)
次々と出てくる、少しマニアックなぬいぐるみ。家族の笑顔からパワーをもらいます。
休診日は大学院で治療法も研究も

週に1度の休診日、先生の姿は岐阜大学大学院の研究室にありました。
「爬虫類の前回手術したような『卵胞うっ滞』だったりとか『卵詰まり』などの新しい治療法が見つからないか研究をしています。爬虫類って、犬猫より麻酔のリスクが高いので手術をせずに予防できたら一番いいなと思って」(吉田獣医師)
世界的に見ても、まだまだ分からないことが多い爬虫類の治療法。
答えのない手探りの日々の中、先生を突き動かすものとは…。
「仕事を辞めるときになったら『やりきった』と思って仕事を辞めるなり死ぬなりしたい。それが原動力なんですかね」(吉田獣医師)
獣医師としての生きた証を残すため、小さな命を救う終わりのない挑戦。
エキゾチックアニマルの駆け込み寺。どんな命も諦めない吉田先生の闘いは、これからも続きます。
(※1)エキゾチックアニマルのペット保険の新規契約数「出典:アニコムどうぶつ白書2022~2025年」に記載の13種を基に集計


