
肩こりは「スマホ首」も大きな要因 リハビリ専門家が予防・改善法を解説 まずは“正しい姿勢”から

多くの人を悩ませている「肩こり」。藤田医科大学(愛知県豊明市)のリハビリテーション学科講師の藤村健太さん(37)によると、スマートフォンやパソコンを見る時間が増えているのも大きな要因だといいます。肩こりはなぜ起きるのか、そして予防と改善の方法を聞きました。

肩こりとは、簡単に言うと肩の周りの筋肉が「こわばっている」状態です。
筋肉は本来、伸び縮みを繰り返してポンプのような役割を担い、血液を循環させています。
しかし、ずっと緊張したままだと、血液の流れが滞り、疲労物質もたまって痛みやこりにつながります。
そして、折り重なる筋肉がお互いに締めつけあい、さらにこりや痛みを助長します。
「スマホ首」「ストレートネック」「巻き肩」とは

人間の頭の重さは、一般的に全体重の10%前後を占めます。これを支えているのが首の骨と、首・肩周りの筋肉です。
その中でも、特に肩こりに関連するのが「僧帽筋(そうぼうきん)」と「肩甲挙筋(けんこうきょきん)」という筋肉です。
これらが重い頭を支えているので、姿勢が崩れると筋肉に負担がかかり、肩こりが起きやすいのです。
「スマホ首」「ストレートネック」という言葉を聞いたことはありませんか。
肋骨がついている胸の部分の背骨と違い、首の骨は不安定です。そのため、緩やかに前方へ湾曲してクッションのように頭を支えています。
しかし、スマホなどをうつむいて見続けていると、徐々に首の骨が真っすぐになり、頭が前に突き出た姿勢になってしまいます。
正面を向いている時と比べ、首が30度傾くと負荷は3倍、45度傾くと負荷は4倍に増えると言われています。
前方に傾いた頭を首の後ろや肩周りの筋肉で支えないといけないので、それが長く続くと肩こりにつながります。
また、うつむいた状態が長く続くと、両肩の位置が胸の方に引っ張られ、前方に巻き込まれた状態になることもあり、これは「巻き肩」と言われています。
こうした生活習慣による肩こりは、マッサージやストレッチをしても和らぐのは一時的で、すぐ再発してしまいます。
まず必要なことは、肩に負担をかけない姿勢を理解することです。
首や肩への負担が少ない立ち方

首や肩への負担が少ない適切な立ち方をご紹介します。
「肩峰(けんぽう)」という肩甲骨の外側上端にある骨の突起部と耳の穴、そして足のくるぶしが一直線になる姿勢です。
頭のてっぺんから糸で吊られるようなイメージをしてください。
壁に背中とかかとをつけ、真っすぐ立ってチェックしてみましょう。
肩が壁につかないようなら「巻き肩」になっているかも知れません。
「スマホ首」だと、頭が壁につきません。
特に女性に多いのですが、「スウェイバック」(そり腰)にも気を付けてください。
腰から上が反り返ってしまうような姿勢で、上体は猫背になっています。
この姿勢では腹筋が十分に働いておらず、背筋が常に頑張っているので負担がかかり、腰痛や背部痛、肩こりにもつながります。
正しく立つ姿勢では、下腹に軽く力を入れてお腹を引っ込め、お尻を締めることを意識してください。
「仙骨座り」より「坐骨座り」

次に座る姿勢です。
「仙骨(せんこつ)座り」をよく見かけます。「ずっこけ座り」と言われることもあります。
仙骨は、背骨の腰の部分につながっている骨盤の後方を構成する骨です。浅く腰かけて椅子の背にもたれるような座り方で、仙骨が座面についています。
楽な座り方ではあるのですが、猫背になって頭が前に出てしまうので、肩の周りに負担がかかります。
よい座り方は「坐骨(ざこつ)座り」です。
坐骨は骨盤の一番下にある骨です。深めに腰かけ、坐骨を座面につけて体を支え、胸を正面に向けることを意識しましょう。
立っている時と同じように、肩峰と耳の穴を一直線にし、頭のてっぺんから糸で吊られるイメージをしてください。
デスクワークでパソコンに向かう人も多いでしょう。
ディスプレイは、目線の水平より少しだけ下になるようにしましょう。高いとあごが上がり、首や肩に負担がかかってしまいます。
キーボードを打つ時は肘かけなどで肘を支えるのがおすすめです。
腕の重さを支えているのは肩の周りの筋肉ですので、長時間にわたり肘が浮いた状態で作業をしていると、肩に負担がかかってしまいます。
まずはウォーミングアップから

肩こりを解消する運動の前に、まずウォーミングアップをしましょう。
よくない姿勢で肩を回してもあまり効果が期待できませんし、痛めてしまうこともあるからです。
まず、骨盤(腰の骨)を前後に傾けます。
椅子に座り、息を吐きながら、腰を丸めて骨盤を後ろに倒します。あえて「仙骨座り」をするのです。
そこから息を吸いながら、上体を起こして「坐骨座り」にします。
これを5~10回程度してください。
骨盤を左右に

次に、骨盤を左右に動かしましょう。
坐骨座りをしながら、左右のお尻に交互に体重を移動させます。
上体が左右に傾かないように、肩を水平のままにすることを意識してください。
左右10回ずつしましょう。
体のバランスは本来、腕ではなく、体幹(胴体)と脚の筋肉で保っています。
しかし、それらの筋肉が働きにくくなったり、体のバランス能力が低下したりすると、腕もバランスを保つことに協力するようになります。
平均台や綱渡りを想像してもらうとイメージしやすいと思いますが、腕を横に広げてバランスを取ろうとすると、肩に力が入ります。
ウォーミングアップは、骨盤を前後左右に傾けることで、お腹などの体幹の筋肉を活動させることがねらいです。
これによって、よい座り方をしやすくなり、肩にかかる負担も軽くなるのです。
肩をすくめて脱力

ウォーミングアップの3つ目は「肩すくめ」です。
背筋を伸ばした「坐骨座り」の姿勢で、息を吸いながら両肩を真っすぐ上げます。
この状態を3~5秒間保ち、息を一気に吐いて肩を下ろします。
あえて肩に力を入れてから脱力させることで筋肉が活動するようになり、血液の流れがよくなります。
肩甲挙筋をストレッチ

この3つのウォーミングアップで正しい姿勢を取り戻したら、肩こりの予防と改善につながるストレッチと運動をご紹介します。
まずは肩甲挙筋のストレッチです。肩の内側から首につながる筋肉です。
腕を横に軽く広げ、肩が上がらないように反対の手で押さえます。
あごを引き、首をゆっくりと、広げた腕の反対側に倒します。
鼻が反対側の肩につくようなイメージでゆっくりと首を回し、その状態を20秒ほどキープし、ゆっくり戻します。
左右3回ずつしましょう。
「肩甲骨はがし」

次は、肩甲骨の運動です。
肩甲骨は、関節で上腕骨と鎖骨につながっている以外は、背中側の肋骨の上に乗っているような状態です。
その周りを筋肉が囲んでおり、これらが協力して働くことで肩甲骨は上下左右に動くのですが、一部の筋肉が働き続けてしまうと、肩甲骨が動きにくく固まってしまいます。
肩甲骨を意識して動かすことは、その周りの筋肉を働かせることになり、固まってしまっていた筋肉の緊張をほぐし、肩甲骨の動きを取り戻すことにつながります。
この肩甲骨の動きを取り戻すことは「肩甲骨はがし」という言い方もされています。
まずは肩甲骨を内側・外側に開いたり閉じたりしましょう。
両手を真っすぐ前に突き出し、手の甲を合わせて10秒間保ちます。肩甲骨が外側に動きます。
肘の高さを保ったまま、ゆっくりと両腕を引きましょう。肩甲骨が内側に閉じていきます。
肘の位置をそのままに、両手を上げます。両側の肩甲骨がより近づきます。
肩を回す運動

続いて、肩回し運動です。
左右の手をそれぞれの肩に当て、肘で円を描くように大きくゆっくり回しましょう。
時計回り・反時計回りにそれぞれ10回。
難しい人は、片腕ずつやってみましょう。
また、両腕を組み、大きく円を描くように回してもいいでしょう。
両腕を上げ下ろし、肩甲骨を回す

4番目は、両腕を上げたり下ろしたりして、肩甲骨を回転させる運動です。
腕を横に伸ばし、手の平を下に向けながら、大きくゆっくりと上げ下ろしします。
上げた両手の甲を、耳より後ろの頭の上で合わせることを意識しましょう。
もし肩に痛みを感じる場合は無理をせず、手の平を上に向けて上下させてみてください。
両腕を後ろで組んで上げる

最後は、後ろでの腕の上げ下ろしです。肩甲骨を下方向に回転させます。
両手を背中の方で組み、胸を張ってゆっくり上げます。
息は止めず、10秒間キープしてください。
いずれの運動も、痛みや違和感がある場合には無理をせず、できる範囲から少しずつ始めてください。
肩こりに病気が潜んでいることも
デジタル化が進む中、現代人の肩周りの筋肉は、常に緊張状態になりがちです。
それらを意識して動かすことで、血液循環が改善し、こり固まった筋肉の疲労物質が流れ、新しい酸素が行き渡ります。
デスクワークなどは適度に休憩を取って肩周りの筋肉を動かす習慣をつけ、長時間同じ姿勢を続けないように気をつけましょう。
また、肩こりには、よくない姿勢や運動不足などの生活習慣、過労、ストレスによる「本態性肩こり」のほかに、病気によっておこる「症候性肩こり」があります。
運動してもなかなか改善しない場合や、しびれなど肩こり以外の自覚症状がある場合には、整形外科などの診察を受けることをお勧めします。
藤村健太さんプロフィール
2010年に藤田保健衛生大学(現・藤田医科大)医療科学部リハビリテーション学科を卒業し、同大七栗サナトリウム(現・七栗記念病院)および藤田保健衛生大学病院(現・藤田医科大学病院)で勤務。
その後、同大学の助手や助教などを経て、2023年から藤田医科大保健衛生学部リハビリテーション学科講師。博士(医学)。
作業療法士の資格を持ち、一般社団法人「日本作業療法士協会」の教育部員や、一般社団法人「愛知県作業療法士会」の委員を務める。