
全国で広がる宿泊税 伊勢市では「待った」の声が?“1泊200円”の影に隠された事業者のホンネ 三重

伊勢神宮が鎮座する由緒ある観光地、三重県伊勢市。その伊勢市で「200円」を巡ってある議論が起きています。それは宿泊税についてです。
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■6月6日に取材
Q:1泊につき200円の税金を取ろうと検討している
(愛知県から)「宿泊税?そうなんですね」
(兵庫県から)「200円…。まぁまぁまぁ…何とも思わない」
市が導入を検討するのは、1泊200円を泊まり客から取る宿泊税。伊勢市では去年の宿泊客は約86万人を記録し、宿泊税を導入すれば年間約1億7000万円の税収が見込まれます。
■2017年:京都市
(記者)「こちら清水寺方面に向かうバスのバス停ですが、観光客でかなりの列ができていて、一度では(バスに)乗り切れないほどの人が並んでいます」
観光客による公共交通機関の混雑やゴミなど、いわゆるオーバーツーリズム対策の財源に、京都市が2018年に導入したことで社会の注目が集まった宿泊税。
■2001年:東京都
(東京都 石原慎太郎知事(当時))「“ホテル税”(宿泊税)を導入します」
始まったのは意外に古く、2002年の東京都が地方分権の一環で、自治体が独自に課税できる制度が始まってすぐ宿泊税を導入しました。
伊勢市でも「宿泊税」導入を検討 地元の宿泊業者は?
今では大阪府や福岡県、東海地方では愛知県常滑市や岐阜県下呂市、高山市など全国24の自治体で導入済みまたは実施予定となっていて、伊勢市のように導入を検討する自治体も増えています。
宿泊税ブームとも言える状況ですが、伊勢市の場合、地元は必ずしも歓迎していません。
(麻野館 麻野真輔さん)
「宿泊税はこれから先必要だと思うが、全国がやっているからやるのではなくて、後での導入でもいいのかなと思う」
宿泊税導入に反対するのは創業130年以上の老舗旅館、麻野館の麻野真輔さん。新たな税による“客離れ”ではない、別の懸念を指摘します。
(麻野真輔さん)「だいたい7%くらいが現金で。あとは全部カード決済なので、それに対して手数料がかかる」
この旅館のように現在旅行サイトを通じた決済を主流とする宿業者が増えていますが、店側は決済額の8%から20%を「手数料」としてサイト側へ支払っています。
200円の宿泊税をサイトを通じて決済した場合、最大で40円の手数料がかかるため、ホテルや旅館には手数料分の負担がかかるのです。
手数料は宿泊施設が負担 税収の使い道も不明確
(麻野真輔さん)「税を預かるだけで手数料がかかってくるので、なんとかしてほしい」
一番の疑問は税収を何に使うかが定まっていないこと。現在観光客が増えた弊害がはっきりしているわけではなく、市が何かを負担している実情もない中、本当に必要なのか疑問だと言います。
(麻野真輔さん)
「説明会を追うごとに、ころころ内容が変わってきている。これから先をみれば必要になると思うが、今現在何が必要かということが議論されず、『宿泊税』だけが一人歩きしているように思うので、今の状態では反対」
市内の宿泊事業者が行ったアンケート調査では…
(アンケート回答の一部)
「使い道が不明確なのに進めているのがおかしいと思った」
「観光以外、仕事などで宿泊する人は負担が増えてしまう」
市の説明では納得できないという意見が多く寄せられ、回答した53の業者のうち、賛成はたったの3件、反対は36件という結果でした。
東京都が2002年に初めて宿泊税を導入した際に、税制調査会のメンバーだった神奈川大学の青木宗明教授は…
専門家も指摘「“使い道”について丁寧な議論が必要」
(神奈川大学 経営学部 青木宗明教授)
「観光に来る方が税金を負担してそれが観光振興に充てられるなら、観光行政は観光客に利益を与えているからそれでいいでしょ、という考え方。実は言うと(当時は)根拠をよく考えなかった」
青木教授は宿泊税が広がり続ける中、“使い道”について丁寧な議論が必要だと指摘します。
(青木宗明教授)「本当にこの税金は必要なんだろうか、どういう根拠でお金をいただいて、何に使うのか、何が正しいか…もう一回考えていただきたい」
宿泊税の導入を検討してきた伊勢市では今月1日、行政による宿泊事業者向けの説明会が行われました。
(民泊経営)「何に使うかが、あまりにも抽象的で納得できない」
(旅館経営)「最後はお金ではないか。(手数料で)事業者が損したら成り立たない」
(麻野真輔さん)
「地域のこれからのことを考えて賛成という人も中にはいますが、使途(使い道)の問題とお金の面で持ち出しが発生することは避けたいという意見が出た」
『宿泊税』は必要、でも地元の協力を得られるように
そしてこの5日後に示された市長の判断は…。
■6月6日:伊勢市役所
(伊勢市 鈴木健一市長)「宿泊税の条例案および関連予算の提出は行わず、丁寧な説明の機会を設け、『宿泊税』導入に向けた協力を得られるよう取り組む」
伊勢市の鈴木市長は宿泊事業者への説明が不十分だったとして、条例案の提出を見送りました。目標だった2026年4月の導入は難しくなりましたが、宿泊税は必要だという見解には変わりないと強調します。
(伊勢市 鈴木健一市長)「持続可能で観光客に満足していただける体制をつくっていくために、『宿泊税』は必要」
伊勢神宮で20年に1度行われる「式年遷宮」の一連の行事も今年から始まり、来年以降インバウンドも含めさらなる宿泊客の増加が見込まれる中、税収を増やしたい行政。
しかし、宿泊事業者にとって新たな負担を求めることに慎重になる必要があるのは言うまでもありません。